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謙虚なリーダーのもとで心理的安全性が高まりメンバーが本領発揮しやすくなる
―職場においてリーダーの謙虚さと心理的安全性が果たす役割―

  • プレスリリース

2024年3月15日

東京大学

発表のポイント

  • 日本の企業において、リーダーの謙虚さが心理的安全性を介してプレゼンティーズムに影響することがわかりました。
  • チーム単位で働く職場において、リーダーの謙虚さ、心理的安全性、そしてプレゼンティーズムの3変数がどのように関係しているか初めて明らかにしました。
  • メンバーが活躍できる職場の人的環境や文化的条件を考え、介入をデザインする上で示唆に富む結果といえます。
  • 謙虚なリーダーシップは、心理的安全性を介してプレゼンティーズムと関連する
  • 謙虚なリーダーシップは、心理的安全性を介してプレゼンティーズムと関連する

発表概要

東京大学先端科学技術研究センターの松尾朗子特任助教、熊谷晋一郎准教授らの研究グループは、複数の業種の日本企業を対象に調査を実施し、リーダーの謙虚さが高まると心理的安全性が高まること、そしてリーダーの謙虚さが心理的安全性を介してプレゼンティーズム(注1)に影響することを明らかにしました。
組織においては、従業員の健康維持・促進と生産性の両立(健康経営)が重要視されています。しかし既存の研究においては、リーダーの謙虚さ、心理的安全性(注2)、およびプレゼンティーズムの関係が整理されていませんでした。そこで本研究では、それら3つの要因がどのような関係にあるのか調べました。分析の結果、心理的安全性は、謙虚なリーダーシップとプレゼンティーズムの間を媒介し、プレゼンティーズムの低減につながることがわかりました。この結果は、謙虚なリーダー育成が心理的安全性を向上させ、より健康で生産的な職場環境を促進できる可能性があることを示唆しています。
本成果は、2024年3月10日に「WORK: A Journal of Prevention, Assessment & Rehabilitation」のオンライン版で公開されました。

ー研究者からのひとことー

本研究は現代の多様化する組織のあり方や働き方に関するもので、健康経営はこれからの日本においてますます重要になっていきます。本研究の結果は、従業員が最大限の力を発揮して仕事を遂行できるような職場環境を整える際の大きなヒントとなるでしょう。(松尾朗子特任助教)

発表内容

〈研究の背景〉
健康経営に関する過去20年にわたる研究が示すように、プレゼンティーズムはメンバー個々人の健康状態や業績を悪化させ、組織全体に膨大なコストを発生させる可能性があります。特に労働力人口の不足に直面する日本のような超高齢社会においては、プレゼンティーズムは喫緊に取り組むべき問題と言えます。
働く人の健康や業績を高く維持するためには、例えば衛生状態や食堂のメニューなどの物理的な環境は大切ですが、リーダーの振る舞いや職場の人間関係といった文化的な環境づくりも欠かせません。経済産業省も健康経営優良法人認定制度を通じて健康経営を推進しており、2023年時点で2,676の大規模法人と14,012の中小規模法人が健康経営優良法人に認定されています。
こうした背景を踏まえると、プレゼンティーズムに影響を与える文化的な要因を特定し、これらの要因同士の関係について、そのメカニズムを明らかにすることは有益です。
既存の研究では、そのような文化的要因の候補として、上司の行動、つまりリーダーシップスタイルが注目されてきました。実際に、個々のチームにおける適切なリーダーシップは、プレゼンティーズムを低減させる可能性があると報告されています。特に、さまざまな知識と仕事が複雑に絡み合い、不確実性が高まった現代の組織では、万能なヒーローのような従来型のリーダーシップスタイルではチームの効果的な管理が難しいことがあり、柔軟なリーダーシップスタイルが求められるようになりつつあります。
そうした柔軟なスタイルのひとつとして、謙虚なリーダーシップが注目されています。これは、自らの能力の限界や過ちを正確に把握する意欲があり、他者の強みや貢献を評価し、学びの姿勢を持つというリーダーシップのスタイルです。このようなリーダーシップが示されると、従業員の仕事へのコミットメント、ポジティブな感情、そしてパフォーマンスが向上するとされています。
既存の研究では、謙虚なリーダーシップによりプレゼンティーズムが減少する可能性があると報告されてきました。しかし、この関係は他の変数にも影響を受ける可能性があります。例えば、心理的安全性です。筆者らは、謙虚なリーダーシップはプレゼンティーズムに対して、心理的安全性を介して影響を与える可能性があると考えました。
また、謙虚なリーダーシップは比較的新しい概念であり、既存の研究の大部分は米国のデータから得られています。中国でも一部の研究が行われていますが、日本での研究はほとんどありません。職場の文化的要因の影響を調べる上では、国や地域による文化的差異を考慮にいれる必要があります。
そこで本研究では、日本の組織的な文脈における謙虚なリーダーシップ、心理的安全性、およびプレゼンティーズムの3つの変数の関係を実証的に検討しました。

〈研究の内容〉
複数企業からリクルートした462名の参加者(平均年齢35.67歳)がオンライン調査に回答しました。この調査は、プレゼンティーズムを測定する項目と、筆者らが過去に日本語訳した尺度である心理的安全性尺度、表出された謙虚さ尺度などから構成されていました。
本研究では、媒介分析という統計的分析を行いました。図中の数値は近似標準化係数βです。マイナスの符号は負の影響を示します(**p <.01, †p <.10)(図1)。分析結果から、リーダーの謙虚さが心理的安全性を高め、それによってプレゼンティーズムが低減することが示されました。リーダーの謙虚さがそのままプレゼンティーズム低減につながるのではなく、心理的安全性を介してプレゼンティーイズムに働きかけるということです。

  • 図1:謙虚なリーダーシップは、心理的安全性を介してプレゼンティーズムと関連する
    媒介分析という統計的分析を行い、リーダーの謙虚さが心理的安全性を高め、それによってプレゼンティーズムが低減することが示されました。図中の数値は近似標準化係数βです。マイナスの符号は負の影響を示します。**p <.01, †p <.10。

〈今後の展望〉
本研究は、これまで検証されていなかった、職場におけるいくつかの文化的要因の関係を明確にし、組織研究に一定の貢献をしました。さらに、多様な業種における貴重なデータを収集したことで、業種を超えて観察される要因同士の関係を示すことができました。単にリーダーが謙虚であるだけでプレゼンティーズムが低減するわけではなく、そのようなリーダーの存在により醸成された職場(特にチーム)における心理的安全性が、プレゼンティーズムに影響するということです。本研究は、組織研究を西洋以外の文化的な文脈で理解する上での新しい試みでもあります。本研究から、日本における健康経営の方向性を模索する手がかりを得られるかも知れません。

発表者

東京大学 先端科学技術研究センター 当事者研究分野

  • 松尾 朗子(特任助教)
  • 辻田 匡葵(特任助教)
  • 喜多 三恵子(学術専門職員)
  • 綾屋 紗月(特任准教授)
  • 熊谷 晋一郎(准教授)

論文情報

雑誌:
WORK: A Journal of Prevention, Assessment & Rehabilitation(3月10日)
題名:
The Mediating Role of Psychological Safety on Humble Leadership and Presenteeism in Japanese Organizations
著者:
Akiko Matsuo*, Masaki Tsujita, Kotoko Kita, Satsuki Ayaya, Shin-ichiro Kumagaya
*責任著者
DOI:
10.3233/WOR-230197 別ウィンドウで開く

研究助成

本研究は、科研費「「当事者化」人間行動科学:相互作用する個体脳と世界の法則性と物語性の理解(課題番号:JP21H05175)」の支援により実施されました。本研究で用いたデータの一部は、令和3年度産業経済研究委託費「イノベーション創出加速のためのデジタル分野における『ニューロダイバーシティ』の取組可能性に関する調査」にて取得したものです。

謝辞

本研究は、株式会社アイエスエフネット、株式会社サザビーリーグHR、シダックスオフィスパートナー株式会社、株式会社モスフードサービスの支援を受けて実施されました。

用語解説

  • (注1)プレゼンティーズム
    従業員が職場に出勤しているが健康上の問題により十分な仕事を遂行していない状態。
  • (注2)心理的安全性
    こわがらずに自分の気持ちや考えを表明できる状態。

問合せ先

東京大学 先端科学技術研究センター 当事者研究分野
 特任助教 松尾 朗子(まつお あきこ)

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