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民間の賃貸住宅に比べ、公的な賃貸住宅に住んでいる高齢者は9年間の死亡リスクが28%低い
ー持ち家が最も死亡リスクが低く、次に公的な賃貸住宅が低いー

  • 研究成果

2024年4月11日

【発表概要】

住宅は、健康にとって重要な要素の一つです。住宅には、持ち家と賃貸住宅の2種類があり、後者には民間賃貸住宅と公的賃貸住宅があります。これまで日本の高齢者を対象とした研究で、これらの住宅種別と死亡の関連については明らかにされていませんでした。東京大学先端科学技術研究センター減災まちづくり分野の古賀千絵特任助教と千葉大学の花里真道准教授からなる研究チームは、9市町村の4万4007人の高齢者を2010年から約9年間追跡し、住宅の種類と死亡リスクの関連を検証しました。その結果、持ち家が最も死亡リスクが低いという結果でした。賃貸住宅の中では、公営・公団・公社などの公的賃貸住宅に住む高齢者で最も死亡リスクが低いという結果でした。公的賃貸住宅で実施された計画的な住環境の整備が健康に良い影響をもたらしている可能性があります。本報告は、日本での住宅種別と死亡の関連を検証したはじめての報告となります。引き続き、詳細の分析を進め、どのような住宅やまちの条件が健康に寄与するのか、まちづくりや都市計画に寄与するエビデンスの生成を目指します。本研究論文は、2024年3月30日にScientific reportsで公開されました。

  • 住宅種別と9年間の死亡リスクの関連について
住宅種別と9年間の死亡リスクの関連について
性別、年齢、婚姻状況、教育歴、等価所得、同居家族、職歴、最長職、うつ、疾患の有無(がん、呼吸器、心疾患、脳卒中、糖尿病、その他)、BMI、社会参加(スポーツ・趣味)、社会的サポート、人口密度、居住歴の影響を統計学的に考慮した分析を実施
© 2024 chiekoga

ー研究者からのひとことー
 

「本研究は、日本の高齢者の住環境と死亡リスクを分析した初めての研究です。公的賃貸住宅で死亡リスクが低い詳細な要因を明らかにすることで、健康長寿社会の実現を目指した住宅施策やまちづくりの検討に役立つ可能性があります」と古賀特任助教は話します。

【発表内容】

東京大学先端科学技術研究センター減災まちづくり分野の古賀千絵特任助教らの研究グループは、9市町村の4万4007人の高齢者を2010年から約9年間追跡し、住宅の種類と死亡リスクの関連を検証しました。

住宅は、健康にとって重要な要素の一つです。住宅には、持ち家と賃貸住宅の2種類があり、後者には民間賃貸住宅と公的賃貸住宅があります。公的賃貸住宅には、都道府県営、市町村営の公営・公社の住宅やUR都市機構(旧公団)による住宅が含まれています。持ち家居住者と比較して、賃貸住宅居住者は社会経済的に不利な立場に置かれている傾向があり、海外では公営住宅で死亡リスクが最も高いと報告されています。さらに、民間賃貸住宅と比較して、大規模かつ計画的に設置された公的な賃貸住宅は住まいと取り巻く環境が異なることが想像できます。しかし、これまで、住宅種別の違いによる死亡リスクへの影響や、特に賃貸住宅におけるリスクの差は報告されておらず不明でした。そこで本研究は、持ち家に住む高齢者と比較した、民間および公的な賃貸住宅に住む高齢者の死亡リスクを、9年間の追跡データを用いて検討することを目的としました。

日本老年学的評価研究(JAGES)が65歳以上の高齢者を対象とした、自記式郵送調査を用いました。9年間(2010-2019年)追跡可能、性別、年齢、住居変数に欠損無し、日常生活動作が自立している44,007名のデータを用いて、死亡リスクを分析しました。住居種別は、持ち家、民間賃貸住宅、公的賃貸住宅、その他の賃貸住宅で定義しました。性別、年齢、婚姻状況、教育歴、等価所得、同居家族、職歴、最長職、うつ、疾患の有無(がん、呼吸器、心疾患、脳卒中、糖尿病、その他)、BMI、社会参加(スポーツ・趣味)、社会的サポート、人口密度、居住歴の影響を統計的に考慮しました。死亡率のハザード比(HR)の算出には、Cox比例ハザードモデルを使用しました。賃貸住宅間の多重検定のため、ボンフェローニ補正)をしました。

追跡調査期間中に、10,638人(24.2%)の死亡が発生していました。持ち家居住者で、死亡リスクが最も低い結果でした。一方、3種類の賃貸住宅居住者のうち、所得など関連が考えられる要因を考慮後も、民間賃貸住宅やその他の賃貸住宅に比べ、公的賃貸住宅居住者は、死亡リスクが最も低いという結果でした。賃貸住宅間の多重検定では、公的賃貸住宅居住者の死亡リスクは、民間賃貸住宅居住者と比較して低いという結果でした。

公的賃貸住宅に住む高齢者は、持ち家居住者より高い死亡リスクでしたが、民間賃貸住宅居住者と比較すると統計学的に有意に低い結果となりました。この結果は諸外国の結果と異なります。JAGESの別調査では、公営・公団・公社などの賃貸住宅に居住するうちの7割がUR都市機構による団地(旧住宅公団による団地)に居住していました。UR都市機構によって開発された大規模な団地は、コミュニティの育成を目指した近隣住区論をベースに、街路や公共施設、公園などが計画的に配置され、建物の隣棟間隔やオープンスペース、街路樹など、空間の快適性を考慮した整備が進められてきました。よりよい近隣環境は、健康や健康行動に良い影響をもたらすことが分かっています。公営賃貸住宅が有するよりよい住環境が、死亡リスクの低さに影響した可能性があります。

  • 計画的な住環境の整備が健康に良い影響をもたらしている可能性がある
計画的な住環境の整備が健康に良い影響をもたらしている可能性がある

【掲載論文情報】

著者名
Chie Koga, Tami Saito, Masamichi Hanazato, Naoki Kondo, Masashige Saito, Toshiyuki Ojima, Katsunori Kondo
タイトル
Living in public rental housing is healthier than private rental housing a 9-year cohort study from Japan Gerontological Evaluation Study
雑誌名
Scientific reports
オンライン掲載日
2024/03/30
DOI
10.1038/s41598-024-58244-y
URL
https://doi.org/10.1038/s41598-024-58244-y別ウィンドウで開く

【謝辞】
本研究は、科学研究費助成事業科研費(JSPS)、厚生労働科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費、国立研究開発法人科学技術振興機構などの助成を受けて実施されました。記して深謝します。

【問い合わせ先】
減災まちづくり分野 特任助教 古賀 千絵

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