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共同研究で開発した高解像度X線望遠鏡 初めて宇宙へ
―太陽系最大の爆発現象の謎に迫る―

  • 先端研ニュース

2024年4月15日

東京大学先端科学技術研究センターの三村秀和教授と名古屋大学大学院理学研究科の三石郁之講師らの研究グループは、日米共同太陽フレア観測ロケット実験Focusing Optics X-ray Solar Imager4号機 (FOXSI-4) 搭載高解像度宇宙X線望遠鏡の製作を完了しました。すでに検出器との組み合わせ、観測ロケットに組み込んでの総合試験を終え、2024年4月に打ち上げ予定です。詳細は以下の通りです。

発表のポイント

  • 2024年4月に打ち上げが予定されている日米共同観測ロケット実験FOXSI-4は、世界で初めてX線集光撮像分光観測(注1)という新手法にて太陽フレアを観測する。
  • 主要観測装置である2台の宇宙X線望遠鏡(注2)を開発した。
  • FOXSI-4は大規模な太陽フレア時に生じるプラズマの時間・空間・エネルギー情報を世界で初めて同時に取得し、粒子の加熱・加速メカニズムの解明を目指す。
  • 本成果は、太陽地球圏の宇宙天気(注3)予報や地球外生命探索にも大きな進展をもたらすことが期待されている。

発表概要

東京大学先端科学技術研究センターの三村秀和教授と名古屋大学大学院理学研究科の三石郁之講師らの研究グループは、2024年4月に打ち上げ予定の日米共同太陽フレア観測ロケット実験Focusing Optics X-ray Solar Imager(注4)4 号機 (FOXSI-4) 搭載高解像度宇宙X線望遠鏡の製作を完了しました。
本望遠鏡は国産、かつ過去のFOXSIシリーズ搭載品を上回る高い解像度を達成しており、すでに検出器との組み合わせ、観測ロケットに組み込んでの総合試験を終え、射場にて打ち上げを待っています。
FOXSI-4は、世界で初めてX線集光撮像分光観測という新手法にて太陽フレアを観測するため、大規模な太陽フレア発生時に生じるプラズマの時間・空間・エネルギー情報を同時に取得することができます。これにより、フレア時の粒子の加熱・加速メカニズムの解明を目指します。
本成果は、太陽地球圏の宇宙天気予報や地球外生命探索にも大きな進展をもたらすことが期待されています。また、高解像度宇宙X線望遠鏡開発で得られた基盤技術は、X線天文学はもちろん、太陽物理学、太陽地球系物理学、プラズマ物理学分野等への応用・展開が待望されています。

  • 図1

発表内容

【研究背景と内容】
<研究背景>
太陽系最大の爆発現象である太陽フレアの発生メカニズムは、長年の太陽物理学の謎の一つとして知られています。太陽フレアは、太陽表面の活発な黒点群周辺領域にて突発的に発生し、強いX線等の電磁波、非常に高いエネルギーを持った陽子などの粒子等の他、超高温のガスも同時に周囲の惑星間空間に放出する場合もあります。この太陽系最大のイベントは太陽地球圏の宇宙天気を大いに撹乱し、磁気嵐やオーロラの発生、ひいては送電網や人工衛星に影響を与える場合もあります。そのため、その発生メカニズムの詳細理解が強く望まれています。また近年は、太陽系外惑星における地球外生命探索等の観点でも注目されています。これは、太陽系外に数多に存在する太陽型星を含む恒星においても数多くのフレアイベントが報告されているため、その周辺に存在する惑星環境への影響が注目されているためです。このように、太陽と地球という特別な組み合わせにとどまらず、より一般的な恒星と惑星という組み合わせにも発展・応用させることで、その手がかりを得ることが期待されています。

<今回の研究成果>
太陽フレアの詳細理解を、世界に先駆けX線集光撮像分光観測という新手法で挑むのが、日米共同太陽観測ロケット実験Focusing Optics X-ray Solar Imager 4 号機 (FOXSI-4) です。FOXSI-4では、太陽のリアルタイムの観測データを駆使し、シリーズ初となる太陽フレアの観測を目指します。これにより、これまでロケット実験では難しかった大きな規模のフレアの観測が可能になり、かつてない精度での時間・空間・エネルギー情報の同時取得が期待されます。これは打ち上げ実施機関でもある米国アメリカ航空宇宙局 (NASA) にとっても初の試みとなります。
また、フレア発生時には加熱や加速といった複雑な物理現象が同時に発生するため、いつ・どこで・何が起こっているのかを精確に把握する必要があります。そこでFOXSI-4では、搭載機器の高感度化にも取り組んできました。その一つが主要観測装置でもあり、ミッション成功の鍵を握る望遠鏡です。特に望遠鏡の解像度は画像の鮮明さを決める重要な要素となります。高解像度の望遠鏡の製作は難しく、これまでのシリーズでは全てNASAマーシャル宇宙飛行センターが担当していました。
この中で、X線天文学を専門とする名古屋大学大学院理学研究科の三石郁之講師は、精密工学を専門とする東京大学先端科学技術研究センターの三村秀和教授、光学部品メーカーである夏目光学株式会社らを中心とした産学官連携による分野横断型プロジェクトを立ち上げ、国産の高解像度宇宙X線望遠鏡の開発に挑みました。この宇宙X線望遠鏡は、高解像度反射鏡、および打ち上げ時の振動や過酷な宇宙環境下への耐性を確保し反射鏡の性能劣化を防ぐ高精度反射鏡支持機構 (図1参照) からなります。

  • 図1:太陽フレア観測ロケットFOXSI-4搭載軟X線望遠鏡の組み立て図と部品図 (左) およびNASAでのX線性能評価試験時の様子 (右)

高解像度反射鏡開発は精密ガラス研磨や精密電鋳法により、実現が難しい二次曲面形状を300ナノメートル程度の精度で作製することに成功し、実際にX線を用いて高い解像度が確認されました。これは東京大学、夏目光学株式会社および名古屋大学が担当しました。また高精度反射鏡支持機構開発については、アルミ・ステンレス構造体のマイクロメートルレベルの精密加工技術、チタン構造体の高アスペクト比精密金属3Dプリント技術、マイクロメートル厚の薄膜を貼り付け組み立てる繊細なハンドリング技術等が駆使されました。これは名古屋大学、有限会社ブルーリッジ、有限会社大堀研磨工業所、国立天文台、東レ株式会社、株式会社蒲郡製作所が担当しました。そして、これらは全て名古屋大学に集められ、一部は接着され、組み立てられました。組み立て後は、打ち上げを模擬しての振動試験を実施しました。高い周波数を含めての試験の実施は難しく、IMV株式会社と協力し、試験セットアップの構築から行い、要求振動レベルに対する健全性を確認することができました。その後、大型放射光施設 SPring-8 および NASA マーシャル宇宙飛行センター Stray Light Test Facility にてX線性能評価試験を行い、15-20秒角程度の解像度(注5)が得られ、過去のFOXSIシリーズの実績値を上回ることに成功しました。最終的には、科学目的に応じて2種類の望遠鏡 (軟X線/硬X線望遠鏡) 1台ずつを日本チームから提供しました。
さて搭載望遠鏡の完成を受け、次は検出器との組み合わせ工程に進みます。太陽フレアからのX線は望遠鏡で反射され検出器に集められます。そのため、観測機器は望遠鏡と検出器を組み合わせて1セットとなります。FOXSIシリーズの場合、全部で7セット (図2参照) 用意されるため、これらが2023年夏に米国カリフォルニア大学バークレー校に集められ、数ヶ月にわたり組み合わせ作業が行われました。名古屋大学メンバーもこれに参加し、検出器と望遠鏡の軸合わせを実施し、目標精度内での正対性を確認しました。

  • 図2:太陽フレア観測ロケットFOXSI-4に搭載される全7台の軟・硬X線望遠鏡の外観写真。日本からは2台が提供された。

その次は、いよいよ観測ロケットとの組み合わせ工程に進みます。2023年冬、試験は米国ホワイトサンズ射場にて行われ、通信・姿勢制御系の装置等が組み込まれたロケットと観測装置を組み合わせました (図3参照)。ここにも名古屋大学メンバーは参加し、組み合わせ後の総合試験まで立ち会いました。現在観測ロケットは射場でもある米国アラスカ州ポーカーフラットリサーチレンジに運ばれ、打ち上げの時を待っています。

  • 図3:太陽フレア観測ロケットFOXSI-4を囲むチームメンバー (左) およびFOXSI-4外観写真(右)。(写真提供:FOXSIチーム)

今回開発された高解像度宇宙X線望遠鏡は、X線天文学のみならず、FOXSI-4のような太陽物理学分野、さらに太陽地球系物理学やプラズマ物理学など他分野の研究者らも期待を寄せています。この中には地上実験室での試験も含まれています。以下、様々な分野からの研究者の声の一部を以下に載せます。

Future investigations of transient phenomena on the X-ray Sun - solar flares and coronal mass ejections - will rely on telescopes with high angular resolution X-ray mirrors. These mirrors will enable the separation of particle acceleration sites in solar flares and can follow accelerated particles as they transfer energy in the Sun's corona. This will enable the scientific community to understand how magnetic energy is released from the Sun's magnetic field and energizes the plasma of the corona.
(Lindsay Glesener氏 University of Minnesota School of Physics & Astronomy・准教授・FOXSI-4研究代表者)

今回開発に成功した高い解像度を持つ望遠鏡の特性を活かしたX線によるオーロラ観測、また地球磁気圏の可視化などの観測はジオスペースシステム科学分野に大きなインパクトをもたらすことが期待される。
(三好 由純氏 名古屋大学宇宙地球環境研究所統合データサイエンスセンター センター長・教授)

今まで開発が困難であった解像度の高いX線ミラーを用いた望遠鏡が海外の観測ロケットに搭載されたことは、日本のものづくり技術の高さを示すものであります。そこから得られた知見をプラズマ科学分野において適用できれば核融合研究や宇宙の地上模擬実験における強力なツールとなり、新しい現象の発見が期待できます。
(小林 進二氏 京都大学 エネルギー理工学研究所 エネルギー生成研究部門 准教授)

この研究は、名古屋大学全学技術センター、日本学術振興会科学研究費助成事業 (23H00156) やウシオ電機株式会社寄付金の支援のもとで行われたものです。

用語解説

  • (注1)X線集光撮像分光観測
    望遠鏡と検出器を組み合わせ、光を集めて (集光) 画像を撮り (撮像)、光をエネルギーごとに分ける (分光) 作業を同時に行う観測のことを指す。X線天文学分野ではこれまでも多くの観測実績がありますが、非常に明るい太陽を対象にした場合、観測装置への要求が厳しくなり、実現が困難だった。

  • (注2)宇宙X線望遠鏡
    宇宙X線を観測するための特別仕様の望遠鏡を指す。宇宙X線望遠鏡の性能を表す指標には、主に集光力と解像度が挙げられる。前者は限られた観測時間においてより多くのX線を効率良く集めるため、後者はより細かな天体の構造を調べるために必要となる。X線天文学において、国産の宇宙X線望遠鏡の飛翔体搭載実績は決して多くはなく、特に高解像度の宇宙X線望遠鏡は欧米の独壇場となっている。

  • (注3)宇宙天気
    電磁波、高エネルギー粒子やプラズマ噴出等、太陽活動で引き起こされる地球近傍の宇宙環境変化のことを指す。宇宙天気において太陽は変動源となり、その影響を予想することを宇宙天気予報と言う。

  • (注4)日米共同太陽観測ロケット実験Focusing Optics X-ray Solar Imager
    これまで2012、 2014、2018年に打ち上げられた日本と米国による太陽観測ロケット実験を指す。過去のFOXSIシリーズは比較的太陽活動が穏やかなタイミングにて打ち上げられ、太陽X線に対し世界で初めての集光撮像分光観測を実施してきた。この中では従来の観測では見つけることが難しかった、規模の非常に小さなフレア現象の検出に成功するなど、重要な科学成果を挙げている。

  • (注5)宇宙X線望遠鏡の解像度
    画像の鮮明さを表す尺度を指す。解像度が高いものほど太陽のような天体の構造を細かく調べることができる。天体の見かけの大きさは角度を用いて表されるため、この解像度の単位は度・分・秒にて表記される。このとき、1度=60分=(60×60=)3600秒の関係があり、秒角は解像度が高いものに対して良く用いられる。例えば、太陽の見かけの大きさはおおよそ0.5度であり、今回達成した解像度の15秒角は約0.004度に対応する。

問合せ先

東京大学 先端科学技術研究センター 超精密製造科学分野
 教授 三村 秀和(みむら ひでかず)

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