

我々は、個人のレベルにせよ、組織(企業や政府等)のレベルにせよ、<学習>する動物であるがゆえに、絶えず<過去>を参照しつつ自らの振る舞いや意思を決定してきた。
だが、現代のように人的流動性が激しく、情報が加速度的に増大している社会では、記憶と記録の断片化が進み、先人から後人へと当然になされるはずの「経験知」の継承はもはやそのままでは期待できない。
それゆえに、これまで暗黙裏に前提とされてきた、<過去の把握>それ自体を問い直す必要に迫られている。
では、今後、どのように記録と記憶をとらえなおし、新しい方法を模索し構築していくべきか─
このような問題意識をもとに、先端研では、2005年一つのプロジェクトを立ち上げた。
来年度以降展開される「先端コンテンツ研究拠点」の一環となる「デジタル・コンテンツ&アーカイブ」プロジェクトである。
このプロジェクトは、これまで「記憶と記録の横断的研究」などで部分的に協働作用を進めてきた、斬新な情報技術を開発している情報系研究室(廣瀬・堀)と、歴史から政策を分析している文系研究室(御厨)を中心に構成され、先端研の学際的かつ機動的な特質を遺憾なく発揮した、真の文理融合というべきものとなっている。
こうして設立された「デジタル・コンテンツ&アーカイブ」プロジェクトでは、さしあたり、その照準を<組織>に絞り、各省自治体・各企業等が自らの経験を今後の意思決定に反映でき、同時に組織アイデンティティや組織レピュテーションをとらえなおして発信できるような新しいツールの開発に着手したところである。
これを進める上では、単に過去をスタティックに整理するだけでなく、それを未来に役立て、また日々の活動を自動的に過去へとフィードバック(アーカイブ化)するという動態性に重点を置いている。
同時にこのプロジェクトでは、どのように自動的にアーカイブ化するか、それらをどのように再構成して新しいコンテクスト(経験知)を提示するか、過去の記憶をいかに正確に再現していくか、といった多様な課題にアプローチせざるを得ない。
我々にとっての射程の一つは「先端研20年の記録」を具体的成果として作成することにある。
そこでは、自らを素材に、記録・学習・広報機能を兼ね備えた「ダイナミック組織コンテンツ」として具現化し、これまでとは異なる全く新しい組織と情報の関係性を発案していきたい。
さて、今回のFuture∞Archive(F∞A)とは、戦略的拠点形成によって活動したオープンラボの5年間の一部を斬新な形でアーカイブ化したものである。
それと同時に、これは「ダイナミック組織コンテンツ」のプロトタイプを意識したものとして位置づけられるものに他ならない。
インターフェースとして新たに開発した「時間のつる草」は、最前線にある各研究室の活動を、立体的かつ横断的に可視化するためのツールであり、「先端研で研究すること」自体を感じとることができる。
これを通じて、内省的に研究を振り返るよすがにするとともに、先端研内外において今後の研究戦略や組織戦略を考える一助になれば幸いである。
そして、F∞Aにより提起された、過去を把握し経験から学ぶ新しい手法による<豊かな>ダイナミック情報コンテンツは、先端研20年の記録にとどまることなく、これを起爆剤として、さまざまな組織あるいは個人を活性化させるとともに、それらを結びつけるネットワークとして21世紀の社会に広がっていき、果ては、賢慮であること(prudence)そのものへと誘うことになる。
デジタル・コンテンツ&アーカイブはそのような野心的試みたらんことをここに高らかに宣言する。