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大見出し 第三回先端研フォーラム 
The 3rd Forum for RCAST Research Activities

見出し 「時間のつる草」の成功を礎として
次なる課題に向かう

上岡 玲子
IML 特任助手
廣瀬・広田・谷川研究室 客員研究員
上岡 玲子
田中 克明
掘研究室 助手
田中 克明
手塚 洋輔
御厨研究室 特任助手
手塚 洋輔

「時間のつる草」プロジェクトメンバー鼎談
インタビュアー:コミュニケーションディレクター 神野 智世子
2006年3月15日

中見出し 「時間のつる草」の目指したもの

神野:今日は「時間のつる草」プロジェクトを振り返りつつ、ご自身が取り組んでいる研究内容とも絡めて、いろいろなお話をうかがえればと思っています。さて、このプロジェクトは2005年11月にスタートしたわけですが、その時点では、この“つる草”で何を実現しようとお考えでしたか。
田中:僕の研究上の問題意識としては、過去のデータを蓄積したアーカイブから、何か新しいストーリーのようなものを引き出せないかと考えていました。つる草の現状では、新しいものを自動的に引き出すところまではできなかったんですが、きちんと過去を振り返って、ある時、ある場所で何があったか、その出来事がどのように特徴づけられるかを、細かい部分まで見ることができた。現段階では、人間がつる草から一方的にインスピレーションを受ける形になっていますが、さらに機械の側からも、新たなストーリーを提示していけるようにしたいと考えています。これはスタート時点から現在まで変わっていませんね。
神野:人間と機械のインタラクションという部分が、現在の田中さんの研究対象とも重なるわけですね。逆に、現在研究していらっしゃる立場から見て、つる草にはどんな意味がありましたか。
田中:僕が所属する知能工学研究室には航空宇宙工学専攻の学生も多くて、航空宇宙機器の設計支援システムなどの研究が進められています。例えば、人工衛星の設計段階におけるミーティングの議事録などから、様々な話の流れを自動的に取り出して、ある視点でその議事録類を見返した時に、どんなストーリーが見えてくるのかを自動的に構成するようなシステムを作っています。とは言ってもシステム任せではなくて、人間が過去のデータから様々な気づきを得ること、蓄積したデータから機械が自動的にデータ間の関係性を取り出すこと、この両方が必要なんですね。
つる草では、膨大なデータから人間が気づきを得やすい環境を作ることには成功したので、後はもう少し機械側から歩み寄ってくれるような、例えば自動的にイベント間の連係を拾い出すなどができるといいですね。現在は、研究室ごと、月ごと、週ごとなど、見え方が固定されていますが、このシステムに視点というものを新たに提供できればと考えています。
神野:現在の研究とつる草との関係が見えてきたということですね。手塚さんはまた違った切り口になると思うんですが、いかがでしょう。
手塚:僕は文系なので、理系のアプローチとは異なりますが、事前に幾つかの問題意識は持っていました。一つは、僕たちが政策決定の過程を分析する時に、審議会の報告書や新聞記事など膨大な記録から自分の勘と努力で、ある文脈を見出していきますが、個人技の要素が大きいのです。その意味で、見落としてしまうようなつながり見えるとか、膨大なデータ群を調べる際にうまく情報を整理できるとか、そんなツールがあったら便利だろうなと思っていました。
もう一つ、「オーラル・ヒストリー」に関することで言えば、インタビュー対象の方の記憶を再生しやすいよう、前もって用意する資料の作成に、結構労力がかかります。例えば当時、その組織にどういう人がいたのかを抽出して人事表が簡単に作れたり、あるいはたくさんの文章の中からある種の情報を簡単に切り出すことができたら、より精緻で迫力のある資料作りができますし、省力化もできるだろうと考えていました。
それから、「安全・安心な社会を実現する科学技術人材養成」プロジェクトに絡めて言うと、安全・安心な社会について考える時、過去のデータを基に、どこでどうなったかを、失敗も含めてきちんと知ることは、プロジェクトの基盤として非常に重要です。それで、過去のデータを俯瞰的でも詳細的にも、同時に見渡せるような仕組みがあったらいいのにとも考えていました。もし、このような幾つかの問題意識が盛り込めるような仕組みが実現したら、研究にも実務にも大きな意義があるかなと。
神野:手塚さんは文系ということで、システムのイメージが全くつかめない状態でスタートしたわけですが、実際出来上がったつる草を前にして、どんなことを感じましたか。
手塚:僕の想像を超えていましたね。過去の出来事の蓄積を週単位や月単位で周期的に見られるだけでなく、自在に動いたり伸びたりする“つる”で、時間を遡ったり圧縮したりする様子が表現されている。こんなツールは今まで見たことないですからね。つる草に今後もっと機能が増えれば、様々な展開が考えられると思います。それに、誰でも20分ほどいじれば使えるようになるので、広く一般の方に使ってもらえる可能性がある。ビジュアル的にも、時間が流れていく様がきれいで。時間の流れは、実際には視覚的に感じようがないので、あの画面を見ているだけで、今まで見えなかった文脈や出来事間のつながりが見えてくるように思いました。
神野:上岡さんは手塚さんとは逆に、初めから完成形のイメージを持ちつつプロジェクトを進められたと思いますが、振り返ってみていかがですか。
上岡:初期の段階から、時間軸を視覚化しようとは考えていました。元々私は、ウェアラブルコンピュータで、日常的な行動や生理的な状態の記録をおこなう「ライフログ」の研究を、5年くらい前から進めてきました。そこでわかったのは、情報量の多さ。例えば人生80年の記録を取ることは理論的には可能ですが、80年分見返すとなると大変です。日常の記録には無駄が多いとも言えますが、10年なら10年記録した分、後でそれが思いがけず貴重な情報になったりする。ここ何年かで海外でも「ライフログ」の研究が盛り上がってきていて、その中で、蓄積された過去のデータにある切り口を与えることによって、未来へ活かすことができるんじゃないかという考え方が出てきたんです。
一方で、手塚さんもおっしゃったような、情報が自動的に取れて、かつそれが再生、利用できる、組織でも役に立つ仕組みが作れたらいいなとも思っていました。今回は自動でデータを取るところまで進めるのは難しかったので、その代わり、時間軸の可視化を誰でもわかりやすい形で表現するにはどうしたらいいかを課題としてプロジェクトを進めました。

中見出し 三人三様の研究背景を活かし、有機的に役割分担

神野:三人三様の研究背景があるわけですが、このつる草プロジェクトでは、それぞれどのような役割を担っていたのでしょう。
上岡:私が担当したのは、データ収集段階でウェアラブルコンピュータを使った記録や、空間的な情報を残すために先端研内に設置した、全方位カメラの記録に関する部分、時間のつる草のコンセプトのスケッチ、それと、プロトタイプアプリケーションの仕様決めなどですね。
神野:一番大変だったことは何ですか。
上岡:データをまとめるのには苦労しましたね。最初は苦痛だったのですが、たくさんのデータに囲まれると、その中でストーリーができたり、データから見えてくるものがあったり、徐々に楽しみも見出せるようになりました。生のデータに触れながら、このデータが意味しているものは何か、じっくり考える機会を得たという意味では、逆にラッキーだったかもしれません。
ウェアラブルコンピュータでの記録は、実験協力者である先生方それぞれにいろんなトラブルが起きて、そのお陰か、普段あまり接することのない先生方とコミュニケーションをとることができました。この記録作業を通じて、先生の人間性や各研究室の様子を知り得たのは、大変でもあり、またやりがいでもあった。つる草の目的の一つは、来場者の方に先端研で研究することの一端を知っていただくことでしたが、自分自身がまさに、先端研の知らなかった一面に触れることができました。
神野:確かにトラブルがあったお陰で、先生方にもこのプロジェクトにコミットするという気持ちを、より強く持っていただけた感じがありましたね。
上岡:今回の試みで、先端研の先生方は、やはり面白いなと再認識しました。どうやったらこの実験を面白くできるか、事前に一生懸命考えてくださっていたり。旺盛な好奇心や、新しい試みに進んで取り組もうという姿勢は、私も研究者として持ち続けたいなと思いました。
神野:手塚さんは、どのような形でこのプロジェクトに参加されていましたか。
手塚:アプリケーションの製作自体は、僕は専門外でよくわからないので、むしろユーザーの視点で意見を出していました。これが今後、どう使えるか。少なくとも僕自身にとって、どんなツールだったら面白いか。また、つる草の基盤にある「デジタル・コンテンツ&アーカイブ」プロジェクトの発想からするとどうあるべきか、俯瞰的にも考えていましたね。
神野:プロジェクトを進める中では、どんな苦労がありましたか。
手塚:実は、つる草は時間ぎりぎりで完成したのですが、不思議と焦りや不安は感じませんでしたね。深夜、早朝の作業もありましたが、思い返すと苦労としては記憶に残っていないのです。ただ、異分野の方々と初めて組んだチームなので、最初は戸惑いもありました。今まで理系、あるいは情報系とカテゴライズして何となくイメージを持っていたのですが、同じ情報系でも上岡さん、田中さんの発想には随分違いがある。ある部分では一致しているのだけれども、問題が先鋭的な部分になればなるほど、発想の違いがあるのがわかって。そういう場面で僕はどう入っていくべきか少し悩みました。まあ、苦労というより面白さの方がまさっていましたけどね。
神野:田中さんは、いかがでしょう。
田中:僕は、ひたすらビデオカメラを持ち歩いて記録していました。大変さというのは、あまり感じませんでしたね。手塚さんが言われたように、今まで組んだことのない分野の方々と議論したり作業を進めたりというのが、とても有意義だったので。このプロジェクトで先端研ならではという体験ができて、非常に良かったと思っています。

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