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神野:
つる草は、それぞれのバックグラウンドを活かして作り上げたわけですが、皆さんがこれからこの経験を研究の場でどう活かしていくのかも知りたいところです。まず上岡さん、どうでしょう。
上岡:
今回、実際につる草が生み出され、どんなところに活用できるのかを知ることができて、このようなアプリケーションが世の中で広く使われる可能性をリアルに感じられたのは、今後研究を進める上での貴重な経験になりましたね。
御厨先生や手塚さんとは、つる草に入る前からも勉強会をご一緒させていただいていますが、私が全く持っていなかった発想をふっと言われることがよくあって、それがとても刺激になるんですね。今回もプロジェクトを進める中で、違う視点からの意見をたくさん得ることができた。これも次につながる礎になると思います。
神野:
田中さんにとって、このつる草の経験にはどんな意義がありましたか。
田中:
僕自身を含め、知能工学研究室のメンバーは、発想が割と文系寄りなんですね。文系の心を理系の技術で表現するというか。文書や様々なデータを使って、それらを操作することによって、中身を自在に読み取ろうとする。でも、つい技術に偏りがちになるんですね。
手塚さんが、このプロジェクトの向かうべき構図を頭に描いて、それを一生懸命表現してくれたのは何かうれしかった。こういったプロジェクトの全体を形作っていくのは、多分文系の発想にあると思うんです。つる草のミーティングでも、このアプリケーションに要求される要素としていろんな意見が出された。それを手塚さんは、つる草の概念的な枠組みとして見事に組み上げていった。あの時は圧倒されましたね。
神野:
それを受けて手塚さん、いかがですか。
手塚:
政治学の研究は、大抵一人で取り組むので、これまで僕はチームで研究を進めたことがほとんどありませんでした。今回初めてチームプレー的なことに参加してみて、やっぱり面白いなと思いましたね。
例えば議論するにしても、“もの”を作るためのディスカッションは、マナーやプロトコルが違う。それはとても新鮮に感じました。何らかの終着点を目指して、弁証法的に次のステップへどんどん進んでいく。僕が思いつきで発言しても、上岡さんや田中さんの頭の中では、それはこういうプログラムとか、それはこんなデータとか、“もの”として実現するアイディアにすぐつながっていたのではないかと思います。
お互い、発想や知識が違うので、当初、意思疎通は難しいかなと思っていましたが、意外とコミュニケーションできるものですね。本当に理解し合えたか、僕がどれほど理解できたかは別問題として。少なくとも僕はわかりあえた実感があったし、僕の意見をわかっていただけたように思った。これは僕にとって大きな収穫で、プロジェクトの進め方や協力の仕方など、異分野の方とチームを組む際の貴重な原体験になったと考えています。
神野:
つる草ができあがって、今度は当日、会場で来場者の方に体験していただいたわけですが、何か印象に残ることはありますか。
上岡:
先端研フォーラム
の資料と、つる草の中の情報とを見比べながら、仔細にご覧になっている高齢の方がいらっしゃったんです。このインターフェースに誘導されてか、自然にいろんな興味が喚起されているようだった。その方が、つる草体験をされた後に、東大先端研は新しいことを進んでやっていく使命を担っているんだねとおっしゃった。つる草を通じて外部の方に、自分たちのポジションをそのように捉えていただいたことは印象的でしたね。
先端研の先生方も、興味深く見ていらっしゃいました。つる草に情報を提供された先生は、それらの情報をつる草を通して見て、今まで意識しなかった事実に気づいたり、再認識できたことが多いと言ってくださった。例えば、自分たちがどれくらいメディアに露出してきたかが、年によって違うとか。つる草を契機に、改めてこの5年間を振り返っていらっしゃったようでした。
神野:
手塚さんは、いかがでしょう。
手塚:
来場者は中高年の方が多かったのですが、「自分が知っているあの研究室は、普段どんな感じかな?」という興味から、抵抗感なく操作に取り組まれていた感じでしたね。加えて、このつる草の魅力と言いますか、ビジュアル的にもきれいでしたから、強く関心を引かれた様子でした。
神野:
実験的なインターフェースとしては十分成功したと思うんですが、一方で、何でも記録して、そのデータを蓄積していくことには、プライバシーの問題が関わってくると思うんですね。それに対しては、どうお考えですか。
上岡:
プライバシーの問題を先に考えると、研究の可能性をどうしても狭めてしまう。それより、魅力的なコンテンツを提案できるかどうか、情報を入れたいと自ら思えるようなメリットをどれだけ提示できるか。研究としてはそれらを先行させるほうが、健全な進め方ではないかと考えています。
手塚:
自分で情報を入れて使う分には、多分問題ないと思います。現に、ブログなどで自発的に情報発信している人はたくさんいる。でも、世の中の風潮がどうであろうと、自分のプライバシーの領域はできる限り守りたいと考える人もいる。それは十分尊重すべき問題で、つる草のメリット云々とはまた別の話ですよね。ただ、自分(たち)の記録をどんどん入れて、積極的にこのようなツールを使っていきたいと考える人や組織が増えた時、そのようなニーズを受け止める仕組みがあったら素晴らしい、そういうことじゃないでしょうか。
田中:
プライバシーを優先したいという人は記録からうまく外すとか、何らかの仕組みを作る必要はありますけどね。
神野:
さて、次は東大先端研20年史作成※に向けてということになりますが、今後どのように進めていきたいとお考えですか。
田中:
つる草の成功はひとまず置いといて、パラダイムをがらっと変えていかないと難しいかなと思っています。
手塚:
この20年を遡るとなると、記録として残っていないことも多いですからね。
上岡:
「オーラル・ヒストリー」の手法で歴代の先端研所長にインタビューして、それを基に先端研がこの20年で築いてきた世界を描き出すというのも面白そうですね。
神野:
20周年史も楽しみしています。本日はありがとうございました。
※2007年5月に、東大先端研は創立20周年を迎える。
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