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マイペースで歩む、しなやかな道 半谷 匠さん

  • 半谷特任助教

    医学研究のエコシステムがうまく機能している海外で多くを学びたいです。

  • 半谷 匠 さん 社会連携研究部門 炎症疾患制御分野 特任助教 ※取材当時

    はんがい しょう 福島県出身。2004年東京大学理科三類入学、2006年医学部進学、2010年卒業。2010年より研修医、2012年 東京大学医学部附属病院血液腫瘍内科、同年大学院医学系研究科博士課程進学、2016年3月修了。博士(医学)。生産技術研究所特任研究員、特任助教を経て2019年4月より先端研へ。2021年9月より米国コロンビア大学 Postdoctoral Research Scientist、先端研客員研究員。

    出身は福島県のいわき市から電車で1時間ほどかかる双葉町。「東大合格者が多い東京の学校に通っていれば、研究者や憧れの職業をイメージしやすいと思います。でも私の地元はすごい田舎で、身近に研究者はいなかったし、知りたいことは本や自力で調べるなど間接的な情報収集しかできませんでした。その影響か、想定と現実にギャップがあっても自分が興味のある方向に進めるよう、何事も幅を持たせて考えるようになりました」。高校時代にヒトの遺伝情報を全て解読する「ヒトゲノム計画」が終盤を迎え、医学への貢献が話題になっていた。興味のあった理系全般の中でも医学研究が面白くなると感じ、医学部へ進学。卒業後は「医学研究をする以上は臨床現場を経験したい」と医師になる。「ちょうど分子標的薬が使われ始めた時期で、特に血液がんなどで効果を上げていました。分子標的薬は、簡単に言うと、がんにしか出ていない分子を狙い撃ちする薬です。今後は臨床での研究も進むと考え、研修医を終えて血液腫瘍内科に入りました」。臨床を重ねるうちに「原因が分かっていない病気が多い。病気のメカニズムを解明すれば、治療でブレイクスルーが起きるのではないか」との思いが強くなり、研究の道へ進んだ。

    現在、半谷特任助教は「がん細胞が引き起こす炎症、免疫反応の解明とその制御法の開発」を研究している。「さまざまな病気における過剰な炎症反応の制御は臨床での大きな課題ですし、基礎研究もまだ十分とは言えません」。Covid-19のニュースで耳にする「サイトカインストーム」も過剰な炎症反応を指す。「がんでは過剰な炎症が慢性的に起こっていて、これを制御することで治癒に近づけると考えています。がん細胞は、死ぬ時に細胞の中にある分子を放出しますが、その分子に過剰な炎症反応を誘導するものが含まれています。抗がん剤などでがん細胞を殺すと分子がたくさん出てしまう。死んだがん細胞が生き残ったがん細胞を助けるような現象があるんです」

    今年7月、半谷特任助教は腫瘍にある炎症を誘発する分子を同定し、その働きを制御するとがん細胞が小さくなる研究成果をNature Immunologyに発表した。「医者なので、自分の研究が臨床に還元されることを想像しながら研究するのは楽しいです。実際には研究が治療に結びつく可能性は高くないのですが…」。臨床を経験してよかったことの1つは、何を研究すればいいか実感を伴って考えられることだと言う。将来の目標を尋ねると、こう返ってきた。「時代の流れが速く、数年後には研究の手法がガラリと変わっている可能性が高い。目標をがっちり固めてしまうと現実から離れてしまうかもしれません。自分の核となる志を大事にしながら、選択の幅を持たせて柔軟に研究していきたいです」

    (広報誌『RCAST NEWS』114号掲載)

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