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インタビュアー:知能工学研究室 助手 田中 克明
赤石先生が今、一番興味をもってらっしゃることは何でしょう?「記憶の横断的研究会」の方も、毎回非常に面白いと伺いましたが。
今、興味を持ってるのは、大まかに言えば、いろいろなものの関係を取り出すことなんです。一つのものに対しても様々な見方ができて、その見方によって関係も変わってきます。まずは、文字で書かれたテキストの中から、そういう構造を見つけ出そうとしています。例えば歴史の年表を、私が作ったツール「KiSs」を使って見てみると、単純に表になっていたものとは違う見方が提供できたりします。これを、学内で開いている「記憶の横断的研究会」で、御厨先生にお見せしたところ、歴史小説を書く時に、いろいろなエピソードを盛り込むのに、こんなこともあんなことも言えるのじゃないかと次々にアイデアをおっしゃる。ということは、コンピュータで、ものの見方を自在に変えて、様々な角度から見せることで、人間の中に眠っていた知識を引き出せるんじゃないかと思いました。普通、情報検索というと、コンピュータに蓄積された情報をいかにうまく引き出すかが主な課題になってますが、コンピュータとインタラクションすることによって、人間からもいろんな知識、関係を引き出せるのではないかと思っています。本人も具体的に気づいていなかった暗黙知を、具体化・明確化することにより、さらにそれを基に次々と連鎖的に考えることができるのではないでしょうか?この様に、人間の記憶の中に、本人も忘れていた記憶を思い出すトリガーとして使えるシステムになるのではないかと期待しています。例えば、御厨先生が政治家の方々にインタビューする時のサポートシステムとしても使えないかというアイデアも出ました。
引っ張り出されるのは、“点”じゃないですよね。情報検索だと“点”が出てくる感じじゃないですか。
最初は、「点」に注目していましたが、現在は、「点」と「点」の結び方に着目しています。私は最初、データベースの情報検索から研究を始めて、そこで「内容指定検索」と「文脈指定検索」の2つの方法を提案したんです。前者は、欲しい情報の中身の一部を検索条件として指定して、情報を取り出す方法です。例えば、“ゲーテが書いた本”でしたら、「著者はゲーテ」と検索条件を指定すれば、それを見つけ出せます。一方、文脈指定検索は、欲しい情報の周辺情報が検索条件になります。つまり、そのものがどういう状況、どういう関係に置かれているかということを手がかりに探す方法です。例えば、昨日、手帳を失くしたとします。最後に手帳を出したのは、会議の最後にスケジュールを確認した時で、それはどこどこの場所で……というような文脈情報があれば、昨日会議をした場所に残された手帳ということで、対象物を見つけることができるかもしれません。手帳自身の情報はわからなくても、そのまわりの情報を元に取ってくることができるんですね。つまり、「点」と「点」を結ぶ関係が重要な場合も多々あるということです。
関係性を引き出す対象というのは、テキストに限ったことではありませんよね。
現在は、まず、テキストを対象にして、そこに現れる言葉の関係を抽出することに的を絞っています。そこから一般的な構造が抽出する手法が確立できれば、対象を広げて、他の問題にも適用していきたいと思います。例えば、日常生活の各シーンに現れる人間や物、場所を、オブジェクトの集合だと考えてモデル化すると、同じ手法で、それらの関係や動的な変化を解析することが可能なのではないかと考えています。
後でいろんな視点から解析できるように、できるだけ多くの情報をとっておいた方がいいのでしょうか?
情報量にこだわるというより、その中からどんなストーリーや関係を取りだしたいかという問題だと思うんですよ。記録媒体の容量が大きくなって、多くの情報がコンピュータに蓄えることができます。しかし、それを前に人間が何を読み取るかはまた別の問題で、膨大な情報の中から自分の目的に沿った情報が出てこないとやはり“使えない”ということになると思います。
過去の蓄積から情報を引っ張り出すだけではなく、これから先、記録していくべきデータは何かという蓄積への方策みたいなものも得られるでしょうか?
方策はわかりません。必要だと思うものを記録するしかないのではないでしょうか。
知識、文化というのは、過去の先行研究や作品を基に新しいものを積み重ねていくものですよね。ある視点で見て、それに対して自分で編集を加えたり、あるいは自分の考えを入れた作品が、蓄積されていきます。新しい要素が加われば、また新しい見方ができるようになって、その知識自体が発展して蓄積されていきます。例えば数学でも、いきなり現代の数学が生まれたのではなくて、徐々に成果が積み重なって出来上がっています。捨てられたものも多々あると思います。何を残して、何を捨てるかは、非常に大きな問題だと思います。
そのツールを適用するメインの領域というのは、限定していませんよね。
メインの領域というのは限ってないですね。要するに面白い関係を見つけたいということです。あるオブジェクトにまつわる、様々な関係を抽出するテクニックがあれば、人間が興味を持ったものに関して、それにはこういうストーリーがある、こういう背景知識がある、ということが提示でき、それが次の興味を呼び、さらに……と連鎖していき、さらに深い理解が得られるようになっていくと思います。
以前行ったギリシャのクレタ島の博物館で、監視員の人が座るような椅子にふと目が止まったんです。いすの背に、牛と斧の彫刻が施してあったのですが、多分そこにいる人たちにとっては、日常的に使っている椅子だったと思います。けれど、私には、「牛と斧ってあちこちで見るけど、何か意味があるのかな」と思いました。でも、そのいすは展示物でないので何の情報もありませんでした。尋ねてみたら、実はそれはミノアの宗教のシンボルで、ミノア文明のなごりが生活の中に脈々と生きているのを感じました。その時思ったのは、博物館を訪れる人が知りたい情報というのは、人によって違うので、必ずしも現実の博物館がそれを全部提供しているとは言えないなということです。先ほど言った、関係を抽出するテクニックがあれば、興味を持ったものの背景にあるストーリーや知識を提示することによって、理解を得られると同時に別の興味にもつながると思います。そういうものを実現したいですね。
あるものの構造というのは、別の面、別の文脈から見ると異なってきますよね。
まさにそれがコンテクスト(文脈)ということです。例えば、学校の先生なら、学校にいれば「先生」と呼ばれて、家にいれば「お父さん」、道にいれば「おじさん」かもしれないですけど、その時々によって、その人に関連する情報は異なります。状況によっても違うし、見る人によっても異なります。そのような多面性をうまく扱いたいですね。
一つ一つの単位も、見方によって変わってくるかもしれないですね。
オブジェクトとして考えれば、その単位はある時には“人”になるし、別の時には身体の器官レベルの話にもなりますね。
このインタビューのテキストを赤石先生のシステムにかけてみると、どうなるんでしょうね。文章と違って、複数の人間がしゃべってるじゃないですか。けれど、その中から一つの構造……あるいは構造は一つじゃないかもしれませんけど、そういう多重化した構造をコンピュータが出してくれるということになるわけですよね。
ええ、きれいな構造をもってしゃべっていれば。
自分たちが意図したものと、一致するんでしょうか?
一致する部分としない部分があると思いますね。言葉の中から、ある法則で関係を取り出してくるので、当然、元のテキストからは情報が欠落した状態で示されて、そのある部分は「あ、そうそう、そうだよね」と人間がちゃんとわかるし、逆にそうじゃない部分も出てくると思います。でも、それを見た時に「あ、こういうつながりもあるな」と発想できれば、そこから新しい考えを導き出すきっかけになると思うんです。
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