先端研の中でも文理融合の様々な試みが進んでいます。実際は協力して働く「文理協働」と言う方が近いんじゃないかとも思いますが、現在のプロジェクトを理系の先生方と一緒に進められてみて、そのあたりはどうでしょう。
「文理協働」というのは確かに正しい。1年やってみて感じるのは、むしろ「文理配慮」ですね。文が理に配慮して、理が文に配慮する、それ以上はなかなか難しいんじゃないでしょうか。私も齢50を越えて、もう三十何年文科系でやってくると、理科系の人と話しても、文科系と一緒に何かやる時のように、サッとお互いに了解できるというふうにはならないんですよ。だから僕らの方が理科系の方に近づいて理解しようと思っても、それは誤解になるかもしれない。でもミスアンダースタンディングでいいと思うんです。それである種の了解領域ができながら、そこに何かが生まれる。思わぬ波及効果が出てくる。
しかし、最後のところはやっぱり、一緒にやるのは難しくて、それでもお互いの領域でできることを見つめましょうということになる。僕はそれでいいと思うんですよ。最初から文理融合と言うとね、水と油を混ぜても、すぐまた元に分かれるというような結果になりがちかなと思うんです。
ただ、先端研にいて面白いのは「文理」だけじゃないんですよ。理科系の先生の、工学部とか理学部、学科単位でいったら恐らく学科や専攻の中で埋もれている話が、先端研で「理理融合」あるいは「理工融合」を起こす。実は今までよく知らなかった他の領域に対し、融合というか、それぞれ配慮して関心をもつようになり、さらには文科系の我々とも同じような作用が起きる。先端研は、そういうことができやすい環境だからですね。発想を豊かにする要素がたくさん詰まっていて、そこへどうやって僕は挑戦していくかということ。そういう意味ではすごく刺激的だと思いますし、なかなか得難い経験ですね。
人材養成のコースの仕組みについて伺っていきたいと思います。こちらは共通コース、アドバンストコース、ジャーナリストコースの3つがありますが、これらのコースの特色と相互の連関は、どのようになっているのでしょうか。
共通コースというのは、いわゆるオープンスクールですね。いろんな先生方に来てもらって話をして頂いてますから、まず知識の面では非常に豊かになりますね。参加者は社会人といっても、それぞれの分野で安心・安全を考えなければいけない専門家が多いですから、相互の情報共有をおこなって、終わってからもOB会の活動が非常に盛んです。月1回、OBスクールをやっていますが、これは我々の手助けを全く借りずに自主運営しています。これも大きな成果の一つだと思うんですよ。
教える側からすれば、普通は、他にどんな先生がどんな講義をしているかはわからないということが多いんだけれども、我々はそこを少しでもつなげようと従事者委員会を作ったり、委員会に出られない先生については説明に行って、「全体の中であなたはこういう位置づけです」ということを明確にしながら進めました。そのためか、この講義全体にアイデンティティをもってくれた先生は結構多くて、修了式やパーティやったりする時にも皆さん積極的に参加してくださって。これも成果として大きいと思いますね。
スクールをどこでやるかと言った時に、駒場でなく、敢えてアークヒルズにしたのは、以前、知財のスクールをあそこでやったということもありますが、参加者に社会人が多く、平日の夕方6時ないし6時半に行くのは非常に大変なので、場所のいいアークヒルズなら来やすいだろうということで。心理的に楽というのは結構重要なんですよ。そういうモチベーションを与えることも大事です。
共通コースはもう2年やりましたが、それなりに成果は出てくるんじゃないでしょうか。むしろ今度は彼らが発信源になっていく可能性はありますね。修了生の中には官庁の人たちや民間の人もいて、それからさらにジャーナリストも含めると、1つの共同体ができるのではと考えています。後は我々がそれをどのように支援していくか、ですね。
アドバンストのコースは、講義だけじゃなく、実践的に安全・安心を勉強しようという人たちに対して、いろんな面のリスクにどう対応すべきかについて、シミュレーションやゲーム、ロールプレイを使ってやるのを考えていて、これは実験的にもすごく面白いと思っています。10人ぐらいのコースで始めますけれども、これもまた一つの成果になるんじゃないでしょうか。
ジャーナリストの養成というのが、もう一つのミッションとしてあります。これは先端研の特任教授でもあり、ジャーナリストとしても著名な武田徹さんに来ていただいて、ほぼ全体のコース設計もお任せしています。基本のラインは、科学技術、それから安全・安心なんだけれども、ジャーナリストの養成ということでいえば、通常のジャーナリストの養成と、いわゆる科学技術ジャーナリストの養成の仕方に、そんなに大きな差はないだろうと。従って通常のジャーナリストと同様に育てながら、最後はそれぞれの面に強いジャーナリストをつくっていくという、個性を重視した形でやっています。まだ始めたばかりですから1年間でどれだけのものができるかわからないけれども、半年過ぎたところでいうと、長期の取材に耐える人材が出てきているし、大手の新聞社にインターンで行って現場を見たりもしていますからね。彼らがそのように実践的に育っていくと。彼らの方が、共通コースよりは年齢層が若いんですよね。学生もいるし。養成というか育成ですかね。今、まさに育っている人たちが今年出て、さらに来年も出て、そうやって層をなしていった時に、何か変わってくるものがあるんではないかと期待しているんですよ。