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研究内容

大見出し データから日本の産業競争力をミクロに分析 
産業界も含めたイノベーションシステム改革へ

インタビュアー:戦略的研究拠点推進室 コミュニケーションディレクター 神野 智世子
質問先生の研究テーマについて、ご紹介いただけますか。
私の研究の最終的な目標というのは、IT産業を中心とする日本の産業競争力をどのように強化していくかというところにあります。そもそもその前に、現在、エレクトロニクス産業を含む日本の主要産業の競争力が落ちているんじゃないかと言われていますが、果たして本当にそうなのか、正しく分析、評価する必要がありますね。そこで、もし本当に競争力が落ちているとしたら、それは何が原因なのかを探っていく。問題解決のためには、どのような政策的な手段があり得るのかという話につなげていくわけです。そのためには産学連携を含めたイノベーションシステムの問題や中国などとの国際競争等、幅広い分析が必要となります。
質問つまり、データの数字から公正に現状を評価して、そこで問題が見つかれば解決のための方策を考え、さらに最終的には政策という形に落とし込んでいくということですね。
産業のパフォーマンスを評価するのに一番フォーカスしているのが、生産性の指標なんですね。経済活動の規模はGDPで表されますが、今、日本の実質経済成長率は2%程度と言われています。80年代の日本は非常に調子が良くて、4%以上の経済成長率があって、その後90年代になって1%台に大きく減速したんですけれども、それで日本の競争力の低下というのが非常にシンボリックに言われるようになった。経済成長率の中身を見ると、供給サイドから見れば日本は人口が減っていきますから、成長率を知るためには、まずどれだけ人が働くか、人に関する要因と、機械をどれだけ使うかという設備に関する要因があります。さらに生産性というか、同じ一人の人が働くにしても2倍生産性が高ければ、アウトプットは2倍になりますから、つまり労働と資本に加え、全要素生産性、トータル・ファクター・プロダクティビティ(TFP)と言いますが、生産性を伸ばすことが重要になってきます。特に先進国の経済成長率を左右するのは生産性なんですね。この点についてはちょうど『ITイノベーションの実証分析』という本が出版されまして、こちらで詳細な分析結果を示しています。
生産性というのはどこから出てくるかというと、要はイノベーションなんです。日本語では技術革新と言われますが、技術的な革新だけではなく、組織的な革新、例えばDELLコンピュータが彼ら独自のサプライシステムを構築して、非常に生産性の高いパソコンの供給をやっているとか、あるいはトヨタシステムとか。これは新薬や半導体の新しいチップの開発などとは違う、組織的なイノベーションなんですけれども、技術的ではないイノベーションも含めて、とにかく何かを変えるということなんです。

中見出し 外部連携を中心とした 
ネットワーク型イノベーションシステム

質問生産性に関する研究が、先ほどおっしゃった産業競争力の研究の中に入ってくると。
生産性の話は幾つかに分類されますが、まず生産性の決定要因ということで、さっき言ったイノベーションというのがあるんですね。その中身を見ていくと、一つは技術革新という言葉が示すような、企業のR&D(研究開発)をベースにしたイノベーションがあります。企業の研究開発活動が実際、企業の生産性向上につながり、それが産業全体に波及していくわけですが、まずそこにフォーカスしてみる。研究開発をたくさんやっている産業はハイテク産業と言われて、例えば研究開発費が売上高に占める比率が非常に高い医薬品だと10%近く、時には10%超える企業もあります。エレクトロニクスも7-8%ある。業界全体で見たら非常に高い研究開発コストがかかる。そういう産業は新しい技術開発をするために研究開発費を使って、品物作るために工場作って設備投資をするのとは違う投資をしているわけですね。
イノベーションとR&D、企業の研究開発活動と生産性の関係を考えていく上で、最近特に重要なのが、研究開発を全部自前でやるのではなくて、ネットワークを組んでおこなう形が非常に多くなっているということなんです。日本の特長として、今までイノベーションシステムではなくて、企業が全部自分でやっていた。日本の研究開発費の割合を見ると、大企業のシェアが高くなっていますが、日本の民間の研究開発費用を全部足すと全部で12兆円ぐらいあるんですよ。12兆円のうち、研究開発費の上位10社を足すと、4兆円か5兆円近くあって、要するに民間の研究開発費の半分近くを上位10社だけで使っているという現状がある。だから例えばトヨタが7千億ぐらい使っているとか、松下が6千億ぐらいとか、そういう大企業が幾つかあって、それに加えて、たくさんの小さな企業が少ない予算で研究開発している、そういう形になっているんです。大企業は結構自分でできてしまって、自前の研究所を持って基礎研究から製品開発まで自社でやるのが今までの方式だったんですが、最近それではうまくいかなくなってきた。日本のイノベーションシステムというのも、そういう大企業の自前型からネットワーク型へ、例えば大学を使うとか、あるいは企業間でおこなうとか、ベンチャー企業を使うとか、そのように転換しなければならなくなってきている。このようなイノベーションシステムの捉え方があって、国際比較をOECDにいた時から始めて、現在も研究を続けているわけです。
今後、産学連携をどのように進めたらいいのか。自前型のイノベーションシステムで完結していた時には、大学は企業にとってあまり必要ではなかったんです。しかし最近は、経済産業研究所の調査結果(平成15年度日本のイノベーションシステムに関わる研究開発外部連携実態調査報告書)にも出てきていますが、研究開発競争が非常に厳しくなっている。特にエレクトロニクス産業では、80年代後半から90年代初めまでは、半導体や家電製品、それから液晶ディスプレーのコンポーネントにしても、日本の独壇場だったのが、最近は韓国や台湾、中国など東アジア諸国が攻勢をかけてきている。日本の企業は、かつては広範囲で利益を取っていたのが、フロントエンドというか、裾野はシェアを奪われてきて、どんどん自分自身で研究のフロンティア部を伸ばしていかなければならない状況にある。当然、研究競争が厳しくなり、どんどん後発が追いついてきますから、開発のスピードが重要になってくるんですね。さらにフロントエンドの部分は、研究内容が複雑になっているので、スピードも要求されるし、研究開発領域の幅も必要で、これだけの開発組織は自前では抱えられないですよね。そうなると、研究開発のコアな部分を絞って、その周辺の部分はベンチャー企業や大学に頼んだり、企業間で組むこともあるし、そういうネットワーク型に切り替わっていくんですね。
もう一つの要因として、企業が研究開発に投資する際に、科学的な知見が非常に重要になってきます。一番典型的なパターンはバイオ医薬で、先端研内では児玉先生が研究されているようなテーマなんですが、人間の遺伝子の配列が全部解読されて、2万個くらいある遺伝子の中で、どういう遺伝子が人間の病気に関係してくるのかという研究です。今まで、例えば熱帯雨林から微生物を取ってきてそれをマウスに投与するなどして経験則的に薬を開発してきたのが、今や、ある病気を引き起こす根本的な原因がわかってきたわけですね。原因となるタンパク質の構造解析やゲノムの解読というのは、非常にアカデミックな基礎研究だったんですが、その研究成果から、今度は何で癌になるのかというメカニズムが段々わかってくるに従って、製薬会社の研究開発の領域が大学の研究室に近くなってきたんですね。そこで、大学で研究成果が出るなら、その成果を元に製品化を進めようということで、医薬系の企業ではかなり産学連携が進んでますし、逆に大学では、基礎研究でも応用化できることがわかって、大学からどんどんスピンアウトして大学発ベンチャーという形に展開するケースも増えてきた。製薬会社も自分の企業だけではなく、研究開発の中で科学の知識が大事になってきたので、研究機関との連携をとるようになった。これは医薬系だけではなく、一部エレクトロニクスの、例えば半導体微細化技術とか、液晶や有機ELなどデバイス類の開発とか、もともと大学でやっていた分野が、エレクトロニクス産業でも見られるようになってきました。
この2つの要因があってネットワーク型に転換してきたんですが、そもそもネットワークというのは組む相手が必要です。今まで日本ではシステム的な問題というか、大企業の研究開発体制が自己完結していたので、ベンチャー企業も生まれにくかったですし、人材の流動性がないのでスピンアウトする人もいないし、結局、人が行き来しないと大学と企業でお互いがやってることがわからず、このような様々な事情で産学連携には至らなかった。そういう人材の問題に加え、金融システムの問題もあって。日本は銀行が貸し出し中心でリスクのある事業には資金を供給しないというので、ベンチャーキャピタルを作って国がお金を出しても、今度はそれをうまく活用していく人材がいない。つまり、人材の問題やお金の問題、特許の話も含めて、全部セットでネットワーク型の環境に変わっていかなければならない。しかし、実際に変えていく段階で、いろいろ政策的な制限が出てくるんですね。
質問市場のニーズに合わせてネットワーク型に移行してきているものの、政策的な制限があったりするので、これを取り除いていかないと、イノベーションにつながるネットワークができないという、今はちょうど過渡期にあるということでしょうか。この現状を打開して後押しする要素を研究して、政策的なイノベーションにつなげていくと。
産学連携のやり方を大企業と中小企業で比べてみると、当然大企業の方が基礎的な難しい話をやっているんですが、中小企業が結構成果を上げているんですよ。中小企業は人的にも資金的にも制約が大きいので、最初からイメージをクリアに持って、大学の技術をうまく活用しようとする。先ほどの生産性の話で言うと、産学連携の生産性に対する効果は、中小企業でも特に研究開発型のベンチャー企業やいわゆる若い企業の方が成果を上げているという調査結果が出ています。大企業は制約の面では余裕があるけれども、自社の研究部門を抱えているので、外から技術を入れるのには実は抵抗があるんです、内部では。ライセンス部みたいな部署があって、外から技術を取ってくると、中の研究者は面白くないわけです。社内で開発した方が安くできるとか言われたり。
今、産学連携に関する政策がいろいろ議論されていますが、そのうちマッチングファンドと言って、大学と企業が申請すると技術の開発・普及に要する資金を提供する制度ができると思うんですよ。そのような制度にベンチャー企業と大学とか、中小企業と大学との関係を推奨する特別枠を作るとかすると、もっと産学連携が広がって、さらに中小企業の存在は、自己完結しがちな大企業と違って、ネットワーク化を促進する原動力にもなり得るわけですよね。それができると今度は大企業にとっても、ネットワーク型の研究開発で組む相手がシリコンバレーとかじゃなくても、技術的に特化した国内のベンチャー企業がいれば、そちらと組む方が連携がスムーズなわけですね。そういうイノベーションシステム全体を変えることによって得られる効果を経済計量モデルで実証した研究成果があって、実際、経済産業省や文部科学省に行って、こういうふうにやったらどうかという話をしているところです。

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