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研究内容

大見出し 生物現象に介入して、その結果からモデルを変えていく、あるいはシステムを同定する

インタビュアー:教授 御厨 貴
聞き手最初に、児玉研究室の研究分野である「システム生物医学」について、お聞かせ下さい。
私は、ワトソン・クリックの有名な二重らせんの論文が発表された1953年に生まれまして、高校時代の生物部でDNAに興味をもち、大学で医学部に進んでからは、病気の原因遺伝子を発見する研究をしていました。そして、卒業時にはいろいろ迷いつつ動脈硬化を学問的に研究しようとコレステロールの研究を始めました。
研究者というのはある学説に則って研究を進めるわけですが、その学説の怪しさのようなものを一番良くわかっているのもその研究者です。私は90年に米国でコレステロールを脂肪にためる遺伝子のクローニングに成功して、Natureに論文を発表したのですが、それが動脈硬化の原因遺伝子のように採り上げられてしまったことがあります。しかし、自分自身はそれが動脈硬化とイコールではない実験事実を知っていて、その単純化に違和感を覚えました。
そこで帰国後、日本でネズミを使った実験を重ねました。一般にネズミには動脈硬化は起こらないので、動脈硬化を起こしやすくする遺伝子異常を持つ二種類のネズミと、自分が発見したコレステロールをためる遺伝子の欠損するネズミを掛け合わせたんです。そうすると一方では動脈硬化はよくなり、こちらの結果がまたNatureに掲載されました。ところが、コレステロールをためる遺伝子がないと、動脈硬化は悪化してしまいました。遺伝子Aが動脈硬化を悪くする、遺伝子Bが動脈硬化をよくする、二つの遺伝子を足し算するとどうなるか、という考えが機能するのは、一般には例外的です。ところが世界でも一流のNatureなどには、今までの学説に合致した分かりやすいものが載りやすく、例外的な事象、複雑なものは受け入れられない、特に欧米の研究は「要素還元論」で徹底していますから。でも、それでは動脈硬化には一歩も近づかない。それで先端研に移ってきたときに、「要素還元論」的な研究を一時ストップして要素の関係を見ていこうとして始めたのが、「システム」を発想したきっかけです。
先端研に移る時に、マウスのラボを閉じました。マウスの遺伝子を改変する実験はある意味ではブラックボックスになってしまいます。それに不満があって、1個の遺伝子でなく多数の遺伝子全体を見たいという、やむにやまれぬ気持ちをもっていました。ちょうど運よく、2000年にヒトゲノムの解読があって、遺伝子の全体像がわかり、多数ではあるが有限化したので、系統的にデータをとってシステムを同定する挑戦を始めたんです。
同じ頃にアメリカを中心に、コンピュータで計算すれば生命の予測が出来る、というシステム生物学が出てきました。それは要素還元論の高次版みたいなもので、要するに微分方程式を解けばいいという簡単化した考え方なのですが、私は微分方程式になるかどうかもわからないのに方程式を解くのはおかしいのではないかと思っていました。世に複雑系といわれているものも、先にモデルを決めて、それに事象を当てはめて考えます。それに対して先端研で「システム生物医学」と称して取り組んでいるのは、単にシステムだけを想定するのではなく、全体は複雑で解明できないかもしれないが、生物に介入するということ、そこで予想どおりの現象がおこるか、予想と異なることがおこるかを検証することはできると考えました。現象を捉えてモデルを作るのでは無限にモデルが出来るだけですから、実際の生物現象に介入してその結果からモデルを変えていく、あるいはシステムを同定する、という作業が大事であるという段階からスタートしています。

中見出し 遺伝子活性化の一歩先のメカニズムを読むことで、
副作用の少ない薬作りが可能に

聞き手今の感じはいかがですか。
反復しながら変わっていく生物現象がシステムの特徴である、という実感が大きいですね。活性化の刺激が入ると、それを終焉させるシグナル-自己終息シグナルと呼んでいますが-が出る。普通はそれで活性化が止まってしまうのですが、持続的に刺激がはいる場合にはこれが周期性を生み出します。刺激がある一定時間入り続けると活性化する因子が増える。するとそれを止める因子が出てくる。止める因子が増えてくると活性化の作用が抑えられる。ところが活性化の因子が抑えられると、収束させる抑制因子も下がり、そうすると刺激は与え続けているので活性化の因子は増えてくる、というように振動するということですね。この振動は生物の基本的原理で、例えば私たちの背骨の数などもあるタンパクが自己抑制して、7回振動すると背骨が7個できる、というように機能しているのです。つまり周期性を時計として使うメカニズムです。
動脈硬化の場合、白血球が血管壁に付着して中に入り込んでいくことが問題なのですが、その付着の様子が、外形上は似ているのですけれども、一回目と二回目の振動で起こっている事象が違うことを発見しました。そこで、一回目の振動で遺伝子が活性化されるときに、振動を生み出す以外に、振動しながら変わっていくということがシステムとして大事ではないかと思っています。コレステロールの薬でも遺伝子が振動するときに、こういう刺激を入れればこういうことが起こるだろうと予測して作っているのですが、我々はもうひとつ先の効果、つまり遺伝子の活性化によって次にどのような現象がおこるかということまで予測して薬を作っていて、そうすると副作用が少ない。それが我々の作っている薬が社会的に評価が高い理由なんですが、この仕組みをうまく使って、一歩先のメカニズムを読む薬を作る取り組みを進めています。
聞き手最初の波はやり過ごして、その次にきた波を見てから考えるという感じですね。
予測を単純化するのもいいのですが、実際には薬は遺伝子を動かして効くので、薬の効力を持続させると遺伝子が振動を続けて様々な現象が起こります。その際、一回目の波はおそらく予測どおりに出る場合が多いのですが、二回目の波は違って出ることがある。要素の関係性を詰めていくと、そういうことを考えざるを得ないということですね。ただ、三回目以降になるとあまりに多くの要素が絡んできて、計算も出来ないし予測も立ちにくいので二回目までが今の限界かな、と思っています。
聞き手ところで昨年、金子勝さん(慶應義塾大学教授)と「逆システム学」(岩波新書)という本を出されましたよね。その本について、少しお話いただけますか。
きっかけになったのは、いわゆる俗流の進化生物学-例えば、恋愛の遺伝子、犯罪の遺伝子-に対する問題提起でした。遺伝子が何かを決めていると考えられがちですが、遺伝子は「活性化される」ことからもわかるように、能動態ではなくて受動態、制御の対象であり、システムの一部として働いているので、「頭のいいシステム」はあるかもしれませんが、「頭のいい遺伝子」はピンとこないのが我々の実感なんですね。ところが社会的には全く逆で、遺伝子が主体で人間はその乗り物に過ぎない、「利己的な遺伝子」などという説まで出てきました。ちょうどその頃、金子君(金子氏と児玉教授は中学・高校を通じた同級生)と話をして、経済学でも成果主義のような非常に単純化した見方がある、本来は複雑であるはずの仕組みを一つのメカニズムや要素で説明することが、組織全体の恒常性維持まで壊してしまうのではないかという議論になったんです。

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