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インタビュアー:教授 御厨 貴
橋本先生は科学技術の歴史がご専門ですが、そもそもこの分野にお入りになるきっかけは何だったのでしょうか?
学部時代には哲学に興味を持っていました。しかしそのうちに、もっと具体的なものを調べたいと思うようになり、科学の歴史を研究しようと大学院に進学しました。大学院に進学した後も、留学したいという気持ちをふくらまし、アメリカの大学の科学史の学科に留学することになりました。
実際に留学してみると、向こうにはいろいろな科学史もあるし、また技術史という学問もある。日本では技術史というのは当時それほど盛んではないようで、授業などもありませんでした。一方、アメリカでは、200年の歴史の中で技術の占める割合というのは非常に大きいので、技術史の研究者も多いですし、大学での講座も、授業もしっかりしています。アメリカ史、アメリカ技術史というのがよく教えられていて、非常に層が厚いという印象がありました。
留学先をジョンズ・ホプキンズ大学にしたのは、物理学史で有名な先生がいたからなのですが、行こうと思ったときにちょうど別のところに移られた後でした。それでも他にいい先生がいらっしゃったので、1984年の秋から91年まで6年半いました。
ずいぶんキャンパス生活を送られたんですね。
ええ、ちょっと長すぎるほどキャンパス生活を過ごしました。留学先では、博士論文として、航空工学、空気力学の歴史をテーマに選び、論文を書きました。
そうすると航研(=航空研究所)の後身である先端研にいるのは不思議じゃないですよね。
ええ、何か縁がありまして、来たような感じです。1991年の4月に、駒場、教養学部に戻りまして、その後、96年の5月にこちらの方に来ました。
ここ(先端研)はミッションがわりとうるさいですけれども、来られたときのミッションは何だったのでしょう?(笑)
(笑)いや、そのときにはそれほどミッションはうるさくなかったのです。赴任当時にセンター長に「何をやってもいいから」と言われたことを覚えています。
先端科学技術とその社会的な意義を研究するために先端研に呼ばれたという雰囲気を一方では感じつつも、やはり論文が書けるとしたら科学史や技術史の方面ですから、その両方が重なるようなところを研究しようかと漠然と思っていました。ただ「何をやってもいいよ」という言葉に少し励まされまして、とにかくおもしろい研究課題を発掘したいという気持ちも強くありました。
ここに10年おられて、具体的にはどういうことをされましたか。
結局、本として出したのは「時間」のことと「標準」のことですね(『遅刻の誕生-近代日本における時間意識の形成』『<標準>の哲学-スタンダードテクノロジーの300年』)。
それから、アメリカに留学していたこともありますので、アメリカの科学技術史について、いくつか原稿を書いています。第二次世界大戦から冷戦を経て現代に至るまで、非常に軍事と関わりが強いアメリカの科学技術がどのように発展してきたのか、軍とのかかわりでどういうことが起こっているのか、といった問題について、最近の研究も俯瞰しながら紹介論文を書いたことがあります。私が先端研に来た90年代初めは「冷戦期の科学技術史を振り返る」といった内容のものが学問的にいろいろと出てきている状況でした。
先生の場合は、この10年に、学生さんの出入りもいろいろあったと思うんですけれども、アメリカや中国や韓国など海外からの方が多かったのではないですか。
そうですね、学生という形ではさほど多くはなかったですが、ビジティングという形ではとても多くの学生が来て、刺激を与えてくれました。日本の科学史、科学社会学といった近代から現代のことを研究しようとして訪れた人たちが多いですね。紹介されて引き受けた学生は10人以上いると思います。
台湾、ヨーロッパからもいました。海外の学生が、日本のファジー技術について調べたいということで訪ねてきたりすることもあります。「協力研究員」として在籍してくれていますが、たいへん良い制度で、こうした交流は非常に多いですね。
そういう意味で言うと、ここは、科学技術の歴史を研究する人たちが集う場所ですね。ここに来れば研究者同士に必ず接触があって、そこでは議論も生まれて……というように、非常にいい意味でのディスカッションコーナーのようにはなったのではないですか。
それはそうですね。とてもいいフォーラムになったと思います。特任助手としてハーバード大学に留学していた伊藤憲二君が来てくれて、彼が先端研で「コロキアム」というものを主宰して、発表直前の論文ドラフトを回覧して、コロキアム参加者がそれに批評を加えるというような機会を作ってくれたりしました。いろいろな意見が出てそれが論文の出版には役に立ったと思います。
そのような、学生さんや訪問された研究員など、あるレベルの人たちが集まっているところだと、それほど詳しく説明しなくても、手短に情報交換して知的刺激を受けられる。そこがすごくいいのでしょうね。
そうですね。やはり、人文科学、社会科学の中でも、ある程度、隣近所みたいな分野であると、情報交換や意見交換がスムーズに進みますし、また知的刺激もよく受けられやすいように思います。
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