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研究内容

エアロゾルがもたらす
大気汚染と気候変動

インタビュアー:教授 伊福部 達

中見出し  大気汚染物質エアロゾルの濃度を
どのようにコントロールすべきか

聞き手先生のご専門である地球大気環境科学の分野は世界的に大きなテーマに発展していますが、先生の具体的なご関心はどこにありますか。
私どもは大気中の微粒子、即ちエアロゾルの研究を行っています。計測技術を開発し、実際に大気の観測を行い、そのデータを丹念に解析し、大気環境の現状がどうなっているかを調べています。エアロゾルは大気汚染物質ですから、人間がそれを吸うと肺がんになったり、血液・血管障害を起こしたりします。だから、それをいかに抑えるかはどこの国でも重要課題になっているわけです。
例えば東京都のディーゼル車問題ですと、我々先端研でもディーゼル粒子を5年間測って、1年くらい前から大きく減ってきていることを実証しました。そういう実証データが非常に大事で、正確な計測によって、ディーゼル車の規制効果を示せたことはひとつの社会貢献だと考えています。
聞き手エアロゾル、大気粒子についてもう少し説明していただけますか。
典型的には1ミクロン以下の大きさのものです。黄砂のような1ミクロンより大きなエアロゾルは、「大きい粒子」と呼ばれます。大きい粒子は自然起源なのに対して、1ミクロン以下の「小さい粒子」の多くは人為起源、つまり人間活動によってできると考えられます。特に物を燃やすことで気体が発生して、それが酸化凝縮して粒子になるような場合です。黄砂がなくても、東京で水平線が靄って見えることがありますが、それが「小さい粒子」の層です。
中国に行くと空全体が靄って見えますが、それは粒子濃度が非常に高くなるからです。特に中国の場合は、SO2の放出が非常に高くそれが酸化した硫酸は水を吸いやすいので余計に靄るんですね。日本の場合は規制があって脱硫装置などのお陰で、SO2は少ない。他方、有機成分が多いんですね、有機成分の方がより水を吸いにくいという性質があります。
化石燃料や薪などのバイオマスを燃やすと有機成分や硫黄成分が排出されます。それが、大気中で、飽和蒸気圧の低い気体に酸化されると、気体でいられなくなり、凝縮して微粒子になります。このエアロゾルを含んだ空気が、低気圧活動などによって上昇して、温度が下がり湿度が高くなると、エアロゾルが水を吸って雲粒をつくるんですね。だから雲をつくる核という意味ではエアロゾルは非常に大切な成分でもある。エアロゾルが増えると雲の性質が変わるというのはかなり前から理解されていますが、その効果がどのくらい重要かという点は、実はよく分かっていません。
聞き手つまり、雲ができることでちょうど地球がシャツを一枚着たよう感じで暖められるということでしょうか。
それが実は逆なんです。というのも、エアロゾルで空気が靄って見えるというのは光が遮られているからで、同じように太陽の光が地面に到達するのをブロックしているんです。先ほど雲が出来るお話をしました。雲ができる時に水蒸気量が同じであればエアロゾルがたくさんあればある程、雲粒の数は多くなりますが、1粒1粒の大きさは小さくなります。というのは、一つのエアロゾル当たりの水蒸気量が少なくなりますから。そうすると、結果的に雲の断面積が大きくなるので、より太陽の光を反射しやすくなる。また、雨というのはその雲を構成する粒がぶつかることによって大きくなり、落ちるんですが、最初の雲粒が小さいと、雨粒になりにくく、浮かんでいる雲の量は多くなります。このようにエアロゾルが増えると、雲により太陽光が反射されやすくなり、地球を冷却するという複雑な「間接的な効果」と言われる現象が起きるのです。その効果が結構大きくて、これを計算すると産業革命以降のCO2増による温室効果をエアロゾル粒子がかなり相殺していると考えられていて、第4次IPCC(気候変動に関する政府間パネル)レポートでもそのように述べられています。
地球の温度はどのように決まるか。太陽の可視光線は雲あるいはエアロゾルによる反射を除けば地面に到達して地面、あるいは海を暖める。そのままだと地球は限りなく温度が上がってしまうので、同じ分だけエネルギーを逆に宇宙に返さないといけない。いわゆるプランクの法則というのがありまして、その物体の温度に見合った放射エネルギーを出すという法則です。地球の場合は温度が低いから可視光線ではなくて赤外線という形で放出します。その赤外線を吸収する物質の中で特に多いものが地球の場合はCO2や水蒸気で、CO2や水蒸気がないと地球の温度は-18℃になってしまいます。ところがそれが適正レベルを越えて増え続けているので温暖化が進んでしまう。つまり、CO2による地球温暖化の効果は物理的に非常に明確で、そのものを疑う必要性は全くありません。実際、それが無いと地球は冷たい惑星になっているはずです。
聞き手ということは、むしろエアロゾルを増やすような燃焼をすれば温暖化と冷却で相殺できるのですね。
実はそれが問題で、冒頭でも申し上げたようにエアロゾルは大気汚染物質で人体に悪影響がある。例えば中国もエアロゾル濃度が非常に高いことはよく認識していて、減らす努力もしています。そのことは確かに人間の健康にはいいんですが、エアロゾルによる冷却効果が急速に減ると温暖化が加速されるかもしれないという皮肉な懸念もあるのです。

地球温暖化対策のため
まずブラックカーボンの削減を

エアロゾルには硫酸のように光を反射する効果のあるものと、ブラックカーボン即ち煤(すす)のように光を吸収するエアロゾルがあるんですね。煤は太陽の光を直接吸収して暖める温暖化物質なので、大気汚染対策としてはブラックカーボンを優先的に減らすことが大事だと考えられるようになってきました。技術的には比較的楽で、フィルターをつけたり燃焼形態を変えたりといったことで短期的に発生量を抑えることができる可能性がある。しかも、ブラックカーボンには発がん性などのある有害な物質が付着しているので、ブラックカーボンの発生を抑えることは、このようなリスクを低減できるという大気汚染対策にもなります。
聞き手最近では、ブラックカーボン粒子の計測とそれをどうコントロールするかが大きなテーマになっていますよね。
そうですね。ブラックカーボンは本来、大気汚染物質なので、その低減が政策目標にあがっていてもいいのですが今のところ、ブラックカーボンを直接ターゲットにした動きはありません。もっとこちらから提言をしていった方が良いと思います。
聞き手先生は、温暖化の今後の方向性を予測するためにはブラックカーボンを計測したほうがいいというお考えなのでしょうか。
我々の第一の研究目標はブラックカーボンが地球を今どれだけ暖めているのか、またエアロゾル全体が地球の気候にどれだけの影響を与えているのかということを精密化することです。そして、最終的には単なる測定や現状の理解だけではなくて、ブラックカーボンの温暖化への寄与を明確にした上でその削減に向けた働きかけをする必要があるのではないかと考えています。
ブラックカーボンは放出をやめると恐らく、ひと月後に低減の効果が現れます。CO2の方は寿命が非常に長いので、今日エネルギーを止めてもその効果が現れるまでには、百年近くかかる。短期的には、CO2の削減技術が成熟するまでの温暖化防止のため、CO2の削減の一層の努力と共に、ブラックカーボンの削減にも取り組むことが有効であると思います。

環境問題は世界各国、他分野との連携が必要

聞き手環境問題は日本だけで議論していても駄目で、中国や最近ではインドなどと協力して研究を進める必要があると思うのですが、そのような体制は考えていらっしゃいますか。
中国とは3、4年ほど前から現地調査などを共同で行っています。東アジアで今後日本がどのような役割を担っていくのか、という意味でも環境問題での交流は非常に大事だと思っています。
聞き手環境が人体に与える影響についても言及されていました。そうすると今後は医学系との連携も必要になってきますよね。
おっしゃるとおりです。日本では残念ながらそういうことを研究されている方は少ない。むしろ中国は問題がより深刻であることもあって、最近、積極的に研究を進めています。一番進んでいるのはアメリカで、大気汚染の度合いによる発がん率や死亡率といった病院の様々なデータを持っています。日本は実証データが極めて少ない。
聞き手お話を伺っていると、先生の研究は基礎的なサイエンスだけでは解決できない問題に広がっていますよね。今の医学の話もそうですし、提言していくという意味では政策のことも考えなくてはならない。そういう意味では、先端研というのは非常によい環境のような気がするんですが。
そうですね、最近先端研にこられた山口光恒特任教授や、澤昭裕教授がCO2の削減という政策課題の研究を中心に研究をされておられます。しかし、エアロゾルやブラックカーボンなどは、その重要性にもかかわらず、社会的にもまだ理解が十分ではありません。でも今後は先端研という場や機会を利用して、皆さんにまだあまり馴染みの無いことを先端研から発信していくというのは大事なことだと思います。

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