わが国では、情報社会と高齢社会が予想を超えるスピードで同時進行しています。そのため、次々と現れる新しい情報技術についていけないという理由で、社会から取り残されてしまう情報弱者も急速に増えています。情報弱者と高齢者の急増は労働力不足と高負担医療につながり、経済発展へも影響を及ぼす可能性があります。
このような時代を背景にして、高齢になっても、身体に障害があっても、元気に働けるようにサポートする技術は、労働者人口の確保、医療費の削減、そして、生き甲斐のある生活とも確実に結びつきます。これからの社会では、バリアフリー工学研究は極めて重要な意味を持つことになります。
しかし、電子工学や機械工学なら物理学という“サイエンス”が基礎にありますが、バリアフリー工学研究にはよりどころとなるサイエンスがありませんでした。また、需要が少なく、あまり大きな利益が得られないと思われていたことから、残念ながらバリアフリー工学研究は大きな“ビジネス”とは距離がありました。
実は、このバリアフリー工学研究で基礎となるのは感覚や認知の科学なのですが、それを司る“脳”のことがよくわかっていません。そこで、感覚が失われたり衰えたときに「脳の機能がどのように変化するか」というところに“仮説”を立て、その仮説に基づいて設計したバリアフリー機器を現場で利用しながら、それらを実証していくという道をとりました。そして、このような研究アプローチによって生まれた知見をバリアフリー工学研究の拠り所にしました。さらに、脳機能の特性を基礎にして作られたバリアフリー機器は、誰もが使えるようなコンピュータやロボットとの五感インタフェースに自然に結びつき、次世代の重要なビジネスにもなると考えています。
この新しい“工学”を実現し、時代の要請に少しでも応えることができるように、本分野では「バリアフリー」と「五感情報通信」のプロジェクトと一体となって文理融合型の研究を進め、人間や社会に役に立つような機器やシステムを開発しています。また、バリアフリー研究は、ナノテクやバイオなどの最新技術はいうまでもなく、障害学、教育学、経済・社会学、ビジネス支援などの広範囲な分野との連携と協力が必要になるため、先端科学技術研究センターでなければ実現できない研究といえます。