多くの組織において、知識の創造と活用のサイクルがうまくまわっていないのはなぜか? この問いに対する答は、単純ではない。多くの問題が複雑に関係している。しかし、その中でも、根本的な問題として、人々がそもそも知識とは何であるかについて正しく認識していない、という問題は、重要であろう。
従来、多くの場合、知識というのは、形式的に記述することができ、万人が共有することができる何物かである、と考えられてきた。大学の授業で教える教科書や産業界で使われるハンドブックの類がそれである。しかし、これは、知識のごく一部にすぎない。実際に知的な活動を行っている人々は、知識というのは生き物で、言わば固体ではなく液体で、文脈によってどのようにでも形を変えるものであることを、知っている。知識は、引出しの中にしまっておいて、必要に応じて引き出して使えるような「物」ではないのである。知的活動の中で常に進化し変化しつづける、いわば総合的な現象である。現象の断面をとらえ、それを固体として引き出しにしまっても、役に立たないのは、当然である。にもかかわらず、多くの組織は、それを試みようとして、失敗しているのである。
知識とは、問題解決の方向を左右する指針である。知識は、人間集団と情報の集まりの相互作用の中で生まれ、変化し、進化しつづけていく。知識そのものを固定化して貯えておくことはできない。情報技術にできることは、知識を生み出し、変化させるための、人間と情報のインタラクションのあり方を変化させることである。
我々のプロジェクトでは、総合的な現象としての知識創造・活用のサイクルがうまくまわるようにするための、さまざまな「技」を提供することになる。単独の技では、問題は解決できないであろう。また、組織ごとの文化の違い、知識創造・活用の文脈の違いによって、効く技も異なるであろう。我々は、技を組み合わせて適用する経験を蓄積し、問題に応じて、技を組み合わせるデザインを提供できるようにしたいと考えている。たとえて言うならば、建築デザイン事務所のような存在に、我々はなろうとしている。我々が提供するのは、単独の建築技術ではなく、複数の技術を組み合わせたデザインとそのための技能である。