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第19回 気候変動科学 分野 小坂 優 准教授

小坂優准教授

先端はマレビトがつれてくる

幼い頃テレビの科学ドキュメンタリーを見て理論物理学者に憧れていた私は、中学生になると雑誌「ニュートン」を愛読していました。当時IPCCによる最初の報告書が公開されたこともあり、誌面には「地球温暖化」の文字が何度も躍っていました。そのため私の関心は徐々に気候科学に向き、大学入学後は気象学・気候学の分野へと進むこととなりました。ところが大学院に進むときに何となく(これは今でも何となくとしか言いようがないのですが)、温暖化研究に取り組む前に、しっかりと気象学の理論を学んでおかなければいけないように感じ、結果的に温暖化ではなく異常気象の研究、特に日本の夏の異常気象をテーマにその後何年間も取り組むこととなりました。(異常気象と地球温暖化の関係は…と語り始めると紙面が尽きてしまうので、興味のある方は個人的に尋ねてくださいね)。

こうして私は日本の夏の異常気象のメカニズムや予測について十年ほど研究を続けましたが、アメリカに渡ってからは気候モデルを用いた少し特殊な数値実験を行っていました。そんな研究を続けていたある日、温暖化研究者の間で大きな問題になっていた研究テーマに対して、私が異常気象の研究のために行っていたモデル実験を用いると、これまでに無い新しい角度で切り込めると閃いたのです。もう三年以上前のことですが、そのときのことは今でもありありと思い出せます。その閃きを逃さぬよう、あわてて解析し、論文にまとめあげると(着想から出版までわずか七ヶ月でした!)、その研究は広く認められ、私は期せずして子どものころぼんやりと思い描いていた「温暖化研究者」となりました。(ただ基礎知識が不十分だったので、論文提出後泥縄式に理論から再勉強することになりましたが… 。) 

さて、このような個人的な経験から思うことは、よそ者である「マレビト」がときどき先端を切り開く、ということです。日本には古来、外部からの来訪者「マレビト=稀人・客人」を神として歓待する風習があります。その起源については遺伝的多様性の希求など諸説ありますが、研究においても、ときにマレビトがその分野で誰も思いつかなかった考え方や方法を持ち込むことで、新たな先端を生み出すことができると思うのです。

同じテーマに長期間取り組んでいると、既に誰かが立てた問題や手法に縛られることもあります。私は、関心はあっても専門家ではないマレビトに対してオープンであり続けると同時に、ときに私自身がマレビトとなって新しい世界に飛び込み、さらなる先端を追求し続けたいと思っています。   

(2016年8月)

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