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第39回 身体情報学分野 門内 靖明 准教授

 門内 靖明 准教授先端の解像度

小学生の頃に任天堂のバーチャルボーイで遊んだり、中学生の頃に舘暲先生のNHK人間講座を見たりしたことから、バーチャルリアリティに興味を持って後期課程で計数工学科に進んだ。その後、石川正俊先生や篠田裕之先生の講義や研究室で学んでいく中で、センサやロボットの基盤技術としての電磁波への興味が強まり主な研究対象としてきた。特に、電波と光の中間のテラヘルツ波は未開拓周波数であり、サイバネティクスの実装において重要になると考えている。そのような研究を行っていく中で、かつて先端研の舘先生の研究室で学ばれ、現在は身体情報学を提唱されている稲見昌彦先生の研究室に着任させて頂いたことに大きな喜びと縁を感じている。

テラヘルツ波に興味を持った理由はいろいろある。例えば、光の伝送には光ファイバーやレンズが用いられる一方、電波の伝送には同軸ケーブルやアンテナが用いられる。周波数が違うだけなのに、なぜ一方はガラス、もう一方は金属を使うのか?こういった類似性や相違点について考えることは面白い。では中間のテラヘルツ帯ではどちらを使うべきなのか?一長一短あるが、金属の使い方を工夫してバーチャルなレンズとして機能させるのも一案だと考えている。このように、二項対立に見える問いに対して第三案を考えていくことも面白い。これらの問題意識は、高いリアリティで現実をモデル化する分布定数系という考え方に繋がっていると感じる。

分布定数系が何かは、対義語である集中定数系を考えると分かりやすいかもしれない。集中定数系とは、豆電球を電池につないで光らせるようなお馴染みのシステムであり、電球や電池を1か所に集中した抵抗器や電源装置として記号化して抽象的な線でつないでいく。考え方や計算はシンプルであるが、しかし電流がケーブルのどこをどう流れるのかといった現実の細部をイメージすることは難しい。集中定数系のモデルはそこまでの解像度を有していない。分布定数系では、より解像度を上げて、空間中に物理的なパラメータが分布していると考える。すると、電流の流れ方が明確になるだけでなく、スイッチを入れてから明かりがつくまでの遅延がどれくらいかとか、ケーブルの太さが途中で変化したらどうなるかなど、リアリティのある問題に対応できるようになる。パラメータは電気系に限らず力学系や化学系など多岐にわたり、テラヘルツ波や身体など様々な対象について高い解像度で考えられるようになる。とはいえ、解像度が高すぎると取り扱いの困難さも増すため、目的に対して十分な範囲で最小限に留めるのがよいとされる。

先端を切り拓くうえで、解像度の理解は大切なリテラシーである。しかし、解像度の違いは人間から見れば大きな違いであっても、AIから見ればあまり大した違いではなくなるのかもしれない。人間がナイーブに与えた問題をAIが適切な解像度で処理し、その結果をまた適切な解像度で人間に提示することは既に行われ始めている。解像度の違いについて半ば自動的に考慮できるようになれば、第三案の候補を複数見つけられようになるかもしれないが、それを取捨選択できるリテラシーも一層重要となるだろう。そのような新たな問いについて考える上でも、広さと深さが共存している先端研は最適な場所であると思われる。多様な先端が集まる先端研で日々得られる出会いや気づきを楽しみ、それを糧としながら研究に取り組んでいきたい。

(2023年 10月)

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