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“ 脳を創る” 研究室
生命知能システム分野 神崎研究室

「脳がジグソーパズルの1枚の絵だとすると、ニューロン(神経細胞)はパズルのピース」。

脳をそう表現する神崎亮平教授(生命知能システム)は、そのピースを組み合わせて、“脳を創る” 研究に挑んでいる。
「脳の働きを理解するためには創るしかない」(神崎教授)。昆虫のカイコガの脳をモデルに、分子遺伝学、神経生理学、工学、情報学などさまざまな手法によって脳の“ 設計図” 解明にチャレンジ。
脳研究のパイオニアとして最先端を突き進む神崎教授の研究を探るために研究室を訪ねると、不思議なロボットが出迎えてくれた。

モスボーグがお出迎え!

  • モスボーグを持つ神崎教授
    神崎教授とモスボーグ
  • 出迎えてくれたロボットの大きさは、手のひらにのるサイズ。ラジコンのような形態で車輪がついており、様々な機器が搭載されている。 「これは『昆虫脳操縦型ロボット』です。モスボーグという愛称で、上海万博の世界100 大発明に選ばれ、展示もされました」。 神崎教授はそう言うと、ロボットのそばにメスのカイコガを置いた。すると、ロボットがメスのカイコガに向かって動き出したではないか!

    「このロボットにはカイコガの本物の脳と触角、複眼が搭載されていて、メスのにおいの信号をキャッチして動きます」(神崎教授)。 驚くべきことにこのロボットは、昆虫の脳から計測された行動指令信号によって動く、“ サイボーグ昆虫” だった!
    次に、神崎教授はカイコガの脳神経のデータベースを見せてくれた。神崎研究室では、複雑なニューロンの詳細な形や働きの一つ一つを分析し、データベース化する仕事にも取り組んでいる。現在までに約2000 個のニューロンの同定に成功。これらのニューロンから神経回路を再構築し、次世代のスーパーコンピューター「京」を使って、脳の働きをシミュレーションする研究を進めている。

■ 学習する脳に迫る!

  • カイコガの脳をつくるニューロン
    カイコガの脳をつくるニューロン
  • 神崎教授は「ニューロンとニューロンを繋ぎ合わせて、パズルを完成させるだけでは脳を創り、理解したことにはならない」と言う。脳は学習によってニューロン同士のつながりが強くなったり、弱められたりと刻一刻と変化するからだ。
    データベースにあるニューロンを積み重ねていけば、神経回路の基本的な構造を創ることはできるが、刻一刻変化するニューロン間のつながりまで再現することはできない。 一方、本物の脳を持つサイボーグ昆虫は、学習によってニューロン間のつながりを変えることができる。神崎教授は、本物の脳を持つサイボーグ昆虫と、ニューロン一つ一つから再構築した神経回路モデルで動くロボットを比較。 ダイナミックに変化する脳の活動をスーパーコンピューターでシミュレーションすることで脳本来の持つ働きをとらえ、より詳細な脳の設計図として示そうとしている。

将来は脳機能修復の可能性も?

脳の設計図が明らかになると、どんな未来が開けるのだろうか?
神崎教授によると、脳の設計図があれば、脳のさまざまな働きをシミュレーションして予測することができるので、たとえば脳に損傷を受けた場合でも、簡単な診断でその場所を特定できる。 さらには、遺伝子工学の技術などによって、特定のニューロン群を活動させて脳の機能を回復させる「ニューロリハビリテーション」技術につながると期待される。
神崎教授は「脳を創る研究はこれまでのたくさんの研究成果を集大成し、それに命を吹き込む研究」と語る。 「まだ誰も脳を創ったことはないけれど、確実なデータを残すことで一歩ずつでも研究を進めていく。その先にはいろんな可能性がある」。神崎教授の研究は、次の世代へと引き継がれる壮大な挑戦だ!

  • サイボーグ昆虫とモデル脳で動くロボット
ここが知りたい! なぜカイコガを使っているのですか?
  • カイコ
  • 昆虫を使って脳の研究をしているので大の昆虫好き?! かと思いきや、「私は虫が大嫌いだったんですよ」という神崎教授。
    それでは、なぜ昆虫のカイコガを使うのか。それは、神崎教授が昆虫の脳を生物の進化が創り上げた「情報処理装置の一つ」ととらえているからだ。 神崎教授は「昆虫の脳は1ミリほどしかないのに反射や定型的行動、記憶・学習行動、情動行動などさまざまな行動を起こす」と説明する。 昆虫とヒトの脳は異質なものと考えられがちだが、実際にはニューロンの数が違うだけ。個々のニューロンが持つ働きは共通しているのだ。 「1 千億個以上の膨大なニューロンでできたヒトの脳はあまりに複雑すぎる。だからニューロンの数が10 万個程度と少ないシンプルな昆虫の脳をモデルとして使ってるんです」。 大きな可能性を秘めた昆虫の脳。長年研究を続けているうちに神崎教授も最近では「だいぶ虫もかわいいと思えるようになってきた」そうだ。

教授の横顔

  • 神崎 亮平 教授
  • 研究のかたわら、子どもたちを対象とした科学実験教室を全国各地で開催するなど、科学を普及させる社会貢献活動にも力を注いでいる。 昆虫を使ってさまざまな実験を行う科学教室は大好評。「未来を担う子どもたちに科学への関心を持ってもらうことはとても大切。 これからもこうした活動に力を入れていきたい」と意気込む。休日の楽しみは、走って、泳いで、映画とお酒。筑波山ハイキングも趣味の一つ。茨城県つくば市在住。

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