講演概要
水遊び(ヨットとボート)の力学と浮体力学
生産技術研究所 人間・社会部門 教授 木下 健(きのした たけし)
開発中の新型双胴水中翼ヨット(TWIN DUCKS)が何故従来のヨットより4倍速いのか ということと、水中翼の性能向上により、離水性能、風上への帆走性能、艇速が更に 一層向上している開発の現状を説明する。漕艇競技については漕艇用VPP(艇速予測プ ログラム)というものを開発し、従来、経験的に改良が加えられてきたオール、漕法 の改良を試みる。すなわち、a)ブレード性能、b)大きさ、c)長さ、d)オールの剛性等 のオールに関する改良と、e)脚と上体、腕を使う組合わせのタイミングや、f)キャッ チを強調か、ミドルまたはフィニッシュを強調か、そして、g)フォワードの仕方など 漕法に関する改良により、微妙な変化で機械効率が数パーセント変化することがある ことを説明する。波浪中係留浮体の非線形運動の最新結果も紹介する。
講演者略歴:昭和46年に東京大学工学部船舶工学科を卒業、51年に同大学院博士課程を終了、 工学博士となる。横浜国立大学工学部造船工学科の講師、助教授を歴任後、53年に 東京大学生産技術研究所の助教授、平成8年同教授となり現在に至る。その間に昭和 58年から59年の一年間、ブリティッシュカウンシルの留学生として英国エジンバ ラ大学、ブルネル大学に滞在、客員研究員を勤める。平成9年から11年の二年間、 日本学術振興会ロンドン研究連絡事務所長としてロンドンに滞在し、英国の学術団 体、大学との交流促進に努める。平成9年よりサザンプトン大学客員教授を務める。
酸化物エレクトロニクス −動かない電子を働かせる法−
先端科学技術研究センター 教授 宮野 健次郎(みやの けんじろう)
我々の身の回りにある酸化物は、要するに「錆び」である。とても役に立つようには見えない。実際、酸化物はもともと絶縁体なので、混ぜ物をしても電気は容易には流れない。混雑して電子が詰まってしまうのである。ところが酸化物と混ぜ物をうまく選ぶと、混雑が極限まで達したときに一気に崩壊して、突如絶縁体が強磁性金属(磁石)になるということが起こる。酸化物のこのような極端な変化を利用して電子素子を作ろうというのが、酸化物エレクトロニクスである。この奇妙な性質がなぜ起き、それをどのように利用しようとしているかお話しする。
講演者略歴:1974年ノースウエスタン大学物理学博士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校、アルゴンヌ国立研究所、東北大電気通信研究所、東京大学工学部を経て現職。現在の研究テーマ:酸化物の相転移機構の実験的研究とそれを利用した電子素子の開発。近接場光学現象の解明と近接場電場増強を用いた高感度検出法の開発およびその生化学への応用。
技術革新と特許制度
先端経済工学研究センター 教授/センター長 後藤 晃(ごとう あきら)
日本経済の長期的な成長のために、技術革新が決定的に重要な役割をはたす。技術革新を促進するために必要な方策は産学連携の推進、国研の改革、企業における技術マネジメント改革、などさまざまであるが、そのなかでも特許制度は技術革新に大きな影響をもつので制度設計は重要である。日本の特許制度と技術革新がどのように変化してきたか、現在どのような問題をかかえているか、といった点について述べる。
講演者略歴:1973年一橋大学経済学研究科博士課程修了,一橋大学経済学部教授、一橋大学イノベーション研究センター教授をへて2001年より東京大学先端経済工学研究センター教授.専門は技術の経済学,産業組織論。著書に「日本経済の構造変化と産業組織」「日本の技術革新と産業組織」「イノベーションと日本経済」「日本の競争政策」「日本の企業進化」等.
サービスメディアとしてのロボティクス
人工物工学研究センタ− 教授 淺間 一(あさま はじめ)
循環型社会の構築のためには,大量生産・大量消費という製品主体の産業構造から, 人工物のライフサイクル全体を考慮したサービス・知識主体の産業構造へのパラダイ ムシフトが必要である.当センターのサービス工学研究部門では,「もの」の価値は 「もの」が有するサービス機能にあると捉え,それを創出する設計論や開発手法に関 する研究を行っている.サービスは,提供者(製造者)からユーザに何らかのメディ アを介して提供される.本講演では,知的データキャリアや自律分散型ロボットをメ ディアとした分散型環境でのサービスの実現について述べる.
講演者略歴:1984年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了.1986年理化学研究所化学工学研究 室研究員補.生化学システム研究室研究員,工学基盤研究部技術開発促進室長を経 て,2002年9月分散適応ロボティクス研究ユニット・リーダー.2002年11月東京大学人 工物工学研究センター・サービス工学研究部門教授.複数自律移動ロボットの協調・ 適応技術,知的データキャリアとその応用技術の開発等に従事. 2001年日本機械学会 ロボメカ部門学術業績賞,日本産業デザイン振興会2002年グッドデザイン賞等受賞. 工学博士(東京大学).
地震考古学 −−遺跡で調べる地震の歴史−−
生産技術研究所 高次協調モデリング・客員部門 教授 寒川 旭(さんがわ あきら)
考古学の遺跡発掘現場には,断層・地割れ・地滑り・液状化跡などのような,過去に生じた大地震の痕跡が刻まれており,これらを研究する分野を「地震考古学」という.演者は,以下のテーマについて,地震考古学の成果を紹介したい.1)関東地震・東海地震・南海地震の発生した歴史と将来の予測,2)歴史時代における活断層の活動とそれに伴う液状化現象などの地盤災害,3)天皇陵を含む大型古墳の地滑りによる変形,4)地震に驚いた古代人の奇妙な行動をはじめ地震と人間の関わり合いについて.
講演者略歴:1947年香川県高松市生まれ.1979年東北大学大学院理学研究科地学専攻博士課程修了.理学博士.同年,通商産業省工業技術院地質調査所へ入所.2001年より独立行政法人産業技術総合研究所主任研究員.専門は活断層.1988年には,考古学の遺跡発掘調査で見つかった,地震の痕跡を研究する新しい分野として「地震考古学」を提唱した.現在,活断層や遺跡の発掘調査から得られた資料をもとにして,大地震の歴史を明らかにする研究を行っている.著書に『地震考古学』(中公新書),『地震』(大巧社)など.
コンサートホールの形と音
生産技術研究所 人間・社会部門 教授 橘 秀樹(たちばな ひでき)
コンサートホールは最大の楽器であると言われる。特にクラシック音楽にはホールの響きが不可欠で、ホールが音楽の最後の仕上げをしていると言っても過言ではない。本講演では、まず音楽とその創造の場であるホールの関係を歴史的に振り返り、内外の著名なホールの特徴を建築的な視点から紹介する。続いて、長方形、扇形、楕円形、円形など基本的な室形状について、波動数値ミュレーションによって解析した音の伝わり方や響きの違いを映像と音で呈示する。また、ホールの音響設計のためのツールとして開発されたコンピュータシミュレーションや模型実験について、実例を挙げて解説する。
講演者略歴:東京大学工学系大学院博士課程修了(1972年)。建築音響および騒音制御などの研究 に従事。主な学会活動としては、日本音響学会理事・会長、日本騒音制御工学会理事・ 会長、国際騒音制御工学会副会長、国際音響学会理事など。日本建築学会賞(1990年)、 日本音響学会論文賞(1991年)、英国音響学会レイリー賞(2002年)などを受賞。著書に 新建築学体系10「環境物理」(彰国社)など。大阪ザ・シンホニーホール、鎌倉芸術館、 横浜みなとみらいホール、文京シビックセンターなどの音響設計を担当。
ユビキタス情報化社会の実現に向けたナノテクノロジーの展望
生産技術研究所 ナノエレクトロニクス連携研究センター教授/センター長
先端科学技術研究センター 教授 荒川 泰彦(あらかわ やすひこ)
21世紀においてめざすべき技術社会像として「ユビキタス情報化社会」があげられる。このような社会の実現に向けて、インフラとしてブロードバンドやワイヤレス技術を展開することが不可欠となる。ブロードバンドやワイヤレスの技術基盤としてナノテクノロジーの役割が大いに期待されており、これにより情報ネットワークの性能を飛躍的に向上させる革新的素子の創出が期待される。本講演では、ナノテクノロジーの研究動向を紹介するとともに、ナノデバイス、特に、量子ドットレーザなどのナノフォトニック素子について、期待される性能や将来展望につい解説する。
講演者略歴:1975年東大工電子卒、1980年東大大学院博士課程終了。1980年東大講師、1981年東大助教授、1993年東大教授。現在先端科学技術研究センター教授および生産技術研究所教授、同ナノエレクトロニクス連携研究センター長。量子ナノデバイスの基礎研究を行っている。IBM科学賞、日産科学賞、服部報公賞、Quantum Devices Awardなどを受賞。現在文部科学省ITプログラム光電子デバイス開発プロジェクトおよび経済産業省フォトニックネットワーク開発プロジェクトのリーダを務める。
過去の気候を再現する
気候システム研究センター 助手 阿部 彩子(あべ あやこ)
人類の放出する二酸化炭素ガスなどによって地球の気温が数度上昇し、極の氷が融け 出すことが懸念されています。地球の氷はどのようにしてできたり融けたりするので しょうか。過去の地球では、氷河期のような時代も、中生代の恐竜のいた氷のない温 暖な時代もありましたが、どうしてそんな変動が起きるのでしょうか。わたしたちの 気候変動研究では大気、海洋などの変動を数値計算するだけでなく、これまで大気科 学や海洋科学で詳しく扱われてこなかった氷床、海氷などの部分系のモデル化と統合 化を行ない、システム間の相互作用の性質などを調べ、過去の気候の変化を解明しようとしています。
講演者略歴:1987年東京大学理学部地球物理学科卒業。1993年スイス連邦工科大学(ETH) 地球科 学科博士課程終了、理学博士。1995年より現職。専門は気候モデリングによる過去の 気候変動メカニズムの解明、地球温暖化研究等。主な著書(共著)は、「気候変動 論」(岩波書店)、「全地球史解読」(東大出版会)。
東京は過大なのか過少なのか
空間情報科学研究センター 教授 八田 達夫(はった たつお)
容積率緩和により大規模なオフィスビルの建設が可能になると,オフィススペースの供給が増えるため,都心各地区における従業者人口が変化する.従業者人口の増大は集積の利益を通じて都心企業の業務効率を改善し生産性を向上させる.この生産性の向上をオフィス賃料および地下の上昇予測で計測することができる。一方、集積は、通勤混雑をも引き起こす。その経済的費用も地理的情報から計測する。これらの計測から、東京は過大か過小かを論ずる。
講演者略歴:東京大学空間情報科学研究センター教授。専門分野は公共経済学。1943年生れ。国際基督教大学教養学部卒、Ph. D. in Economics (米ジョンズホプキンス大学)。米ブルッキングス研究所経済研究員、米オハイオ州立大学経済学部助教授、米ジョンズ・ホプキンス大学経済学部教授、大阪大学社会経済研究所教授、所長を経て、1999年8月より現職。著書に、「直接税改革」(日経)、「消費税はやはりいらない」(東洋経済)、「年金改革論」(日経)、編著書に、「東京一極集中の経済分析」(日経)、「東京問題の経済学」(東大出版)などがある。
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