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先端研30周年記念式典 特別講演

産学連携新エネルギー研究施設の紹介と太陽電池研究の展望
新エネルギー分野 岡田 至崇 教授
岡田教授

新エネルギー分野の岡田と申します。

私からは、先端研の附属施設である産学連携新エネルギー研究施設の概要と、せっかくの機会ですので、私が取り組んでおります研究内容について紹介させていただきます。当時の橋本和仁先生、所長の宮野健次郎先生、そして惜しくも故人となられました、当時経営戦略室長の澤昭裕先生のご尽力、またENEOSラボのご協力のもとで、新しい研究施設を構えることができました。学内外機関との連携を通じて、社会実装を意識した再生可能エネルギー研究を進めることが目標です。先端研の各研究室では多くの先端研究が行われています。研究室間の連携、それから学内外との連携を深めることでよりスピーディーに研究成果を社会に送り出すことを目標にしたいと考えています。

この点において学術連携、国際連携、それから企業や自治体との共同研究、包括連携が非常に大事ですが、その一つをご紹介いたします。中野義昭先生が所長の際、太陽光エネルギー分野でフランスのCNRSと包括連携を結び、共同研究体制ができました。現在「Next PV」というラボを立ち上げ、先端研の産学連携エネルギー研究施設の建物の中にオフィスを構え活動をしております。

2015年のパリで開催されたCOP21でミッションイノベーションが取り決められました。CO2削減に向けた取り組みを各国が推進することをミッションとし、我が国では経済産業省による革新的エネルギー技術国際共同研究開発事業がスタートしました。この事業において昨年度から久保貴哉先生が代表を務める次世代太陽電池の国際共同研究開発、特にフランスCNRSとの連携が始まっています。

先端研の産学連携エネルギー研究施設ではたくさんの活動が行われていますので、すべてご紹介するわけにはいかないのですが、主なテーマとしましては、私どもが進めております量子ナノ構造を用いて変換効率の向上を目指す太陽電池の研究、それから瀬川浩司教授(総合文化研究科)、近藤高志教授(高機能材料分野)を中心としたグループによる有機系やペロブスカイトの太陽電池、そして風力発電では飯田誠特任准教授(エネリギー環境分野)が活発な研究活動を行っている状況です。 また、最近ではこの4月に着任されました杉山正和教授(エネルギーシステム分野)、そして中野義昭教授(第13代所長)をはじめとして、太陽光発電で作った電力を使って水を電気分解して水素を効率良く作る研究が進められています。中東やオーストラリアなど太陽光の高照度地域における実証実験も検討が進められています。

太陽光燃料の製造

ここからは私の話を少しさせていただきます。皆様もご存じの通り、現在の太陽電池パネルの9割以上がシリコンでできています。逆に、宇宙衛星用電源向けの9割近くはIII-V族系化合物半導体を用いた多接合太陽電池です。多接合太陽電池に代表される効率の高い太陽電池をいかにコストを下げて地上用途に利用できるかが技術開発のポイントです。限られた土地・スペースで十分な発電が行えるようになりだけでなく、例えば電気自動車へのルーフやボンネットに貼り付けたソーラーEVも実際に検討が進んでいます。一方で、太陽光をレンズやミラーで集めて小面積の太陽電池に集中させる集光型の太陽光発電も長らく研究開発が進んできています。

皆様にはあまり聞き慣れない方式かもしれないですが、集光型発電方式では高価な太陽電池材料の使用量を減らせるという利点があります。例えば1cm角、あるいはそれ以下の小さなチップのような太陽電池に太陽光をレンズやミラーを使って集光させることで、原理的に高い効率が得られます。すでに約300倍の集光で44.4%という効率の世界記録が報告されています。一方、私どもが手掛ける「量子ナノ構造」を用いた太陽電池は、現在、大体30%を少し上回るぐらいの効率が得られるようになってきました。

しかし一方で集光すると相当の熱が発生します。そこが効率を上げるためのネックになります。このスライドはNASAが宇宙分野のテクノロジーの成熟度をスケールで表したTechnology Readiness Levelと呼んでいるものです。この表を借りて説明しますと、結晶シリコン、また化合物半導体の多接合太陽電池は、技術的成熟度は高く、すでに衛星用電源として広く実用されているところです。そう遠くない将来に50%という非常に高い変換効率が実現するものと思われます。

我々の量子ドットのような太陽電池も、現在基本実証が終わった段階だと思っています。今後は、スケールアップをするための生産開発と高効率化の研究開発が加速するものと思われます。しかしながら、熱力学的な理論限界である85%に達するような効率を実現するのはそう簡単ではないというのが見えてきます。

私が10年前に先端研に着任した頃と期を同じくしてシャープから来られた富田孝司先生が、「岡田君、これからは集光型太陽光発電時に発生する熱をどう管理するかが鍵だ」ということをおっしゃったのを覚えています。富田先生はその後、スマートソーラーという東大発ベンチャーを立ち上げられ、発電に加えて熱の有効利用を試みられました。今では「集光型太陽光エネルギー利用システム: CPV-T」と呼ばれています。この写真は、アメリカのニューメキシコ州に設置されている1,000倍の集光発電システムです。ほとんどバスタブのような容器の上にフレネルレンズが乗っていて、底に太陽電池が付いています。これを裏側から覗いてみますと、1つひとつの太陽電池の後ろ側に放熱のためのフィンが付いています。20cmぐらいの大きさです。100W近い太陽光エネルギーがレンズで絞られて、約1cm角の太陽電池に向かって集められます。そのうちの20%ぐらいは光学損失になってしまうのですが、それでも30W程度の電気が取り出せます。しかし残りの50Wの電力に相当する分は熱になっています。そこで後ろ側に放熱フィンを取り付け、計算では風速3m/秒前後の風が吹いたときに熱を取り除き25度程度に冷却できるようにしています。つまりこれは、発電に使われるエネルギーよりも大きい量が熱として失われていることになります。そこでこの熱を有効利用することが考えられるわけですが、一言に熱といっても低グレードなものから良質の熱まであります。温水を作ってお風呂やシャワーを浴びるのに必要な熱はどちらかというと低グレードですが、温度を60度以上、できれば100度近くまで上げることができると、熱交換器を介してエアコンに使えるようになります。夏の暑い日中に発電しながら熱も一緒に回収し、その熱を空調に使うことができるのでビル・家の大幅な省エネ化が可能になります。

集光型太陽光利用システム

このような太陽光エネルギーの利用が、新しい開拓領域ではないかと考え、先端研と組織連携を結んでいる石川県と連携し、株式会社アクトリーと石川県工業試験場と共同でシステムの開発を行いました。我々は集光システムの光学設計とセルの評価・解析を担当し、石川県工業試験場は太陽電池と熱電素子のハイブリッドモジュールの研究を担当されました。追尾系発電システムから熱回収システムまでを設計作製されたのがアクトリーさんです。25%の発電効率を達成し、そして発生した熱を回収し熱交換器を通して会社ビルの空調に使うこのシステムにより、トータルで65%まで太陽光エネルギーの利用効率を高めることに世界に先駆けて成功しました。最近、この成果をプレス発表しましたが、今後商品化、実用化に向けた検討が進むものと期待されます。これは、自治体、そして地元企業との連携が先端研の産学連携新エネルギー研究施設を通じて発展した大きな成果の一つだと思っております。

集光型太陽光利用システム:CPV-T

このようなハイブリッドソーラーコンバータでは、既存の技術を基に7割近い太陽光のエネルギー利用効率を達成できることがわかりました。私がこのプロジェクトに参加して思い出したのが、ちょうど10年前に富田先生が見せてくださった装置図の原案でした。「目指していたのはこういうシステムだったんだな」と、改めて先人の知恵に感服させられました。今後はこういった事例を増やし、再生可能エネルギー、特に太陽光を中心としたエネルギー利用というものを促進していければと思っております。

今後も、先端研がエネルギー開発拠点のメッカとして発展できるよう、皆様のご支援をお願いいたします。どうもありがとうございました。

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