所長あいさつ
科学技術の先端を追求し、育み、社会につなぐ

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情報技術やAIの急速な進歩により、知識を持つこと、集めることの価値は低下し、新たな創造こそが人間特有の価値となりつつあります。また、人間の活動規模が拡大し、さまざまな活動が複雑に関係しあい、しばしば相互に深刻なトレードオフをもたらす現代の社会においては、単に情報を集め表面的に要約するだけではなく、空間的・時間的に遠い出来事に深く共感できる想像力が、人間ならではの能力として重要視されるでしょう。
このような状況において、最先端の科学技術に携わる大学の役割は大きく変わりつつあります。これまでの科学は、森羅万象を細かく分類し、分割された領域の中で深く真理を追究することで発展してきました。こうして得られた最先端の学知を集積していることが、大学の価値の主要部を担っていました。一方、ますます複雑化する社会においては、細分化された学知を適切に組み合わせ、課題の当事者と協働して新たな解決策を導き出す役割が大学に求められます。
わたしたち東京大学先端科学技術研究センターは、専門分野を定めない異色の研究所です。文系・理系を問わず多様な学問分野を背景に持つ研究者がコンパクトなキャンパスに集結し、理性と感性の両面から多層的なコミュニケーションをとり、明るく豊かな未来への扉となる「先端」を拓くことを目指しています。
このマスターブックは、先端研に集う研究者たちを皆様に知っていただき、未来への期待を高めていただくためのカタログです。しかし、いくら創造力と想像力に満ちた研究者であっても、それらを単に並べるだけでは、「先端」を創ることは不可能です。皆様の未来に対する熱い想いが起爆剤となり、先端研の研究者たちが専門分野の垣根を越えて協働し、皆の想いが響きあって未来への新たな道を開く。このような「響創」を私たち先端研は展開していきます。
所長 杉山 正和

(2025年10月)

