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花王、東京大学、九州工業大学の産学連携の共同研究により、高エネルギー変換効率が期待される太陽電池の作製技術を開発
-中間バンド型太陽電池を世界ではじめて液相法により作製することに成功-

  • プレスリリース

2019年1月10日

花王株式会社
国立大学法人 東京大学
国立大学法人 九州工業大学

花王株式会社(社長:澤田 道隆)マテリアルサイエンス研究所と東京大学(総長:五神 真)先端科学技術研究センター、九州工業大学(学長:尾家 祐二)大学院生命体工学研究科の産学連携の共同研究グループは、高エネルギー変換効率が期待される中間バンド型太陽電池を、世界ではじめて(*1)液相法(*2)により作製する技術開発に成功しました。

花王株式会社マテリアルサイエンス研究所、東京大学先端科学技術研究センターの岡田至崇教授、玉置亮助教および九州工業大学大学院生命体工学研究科の早瀬修二教授、尾込裕平助教らによる研究グループは、持続可能社会の実現をめざし、太陽光エネルギーの有効利用の観点から、太陽光エネルギー変換技術(太陽電池など)の研究開発を行なっています。高エネルギー変換効率が期待される中間バンド型太陽電池は、バルク(母体)半導体中にナノサイズ半導体(量子ドット)を高密度充填したナノ構造体(光吸収層)が必要です。このナノ構造体は、従来、超高真空下で結晶成長させる「気相法(*3)」で作製されてきました。しかし、使用できる材料の制約や設備負荷などの観点から、「気相法」で高エネルギー変換効率の中間バンド型太陽電池を安価で製造することが課題でした。

今般、本研究グループのコア技術である「液中におけるナノ界面・分散・結晶制御技術」、「太陽電池評価・解析技術」を駆使し、高エネルギー変換効率が期待される中間バンド型太陽電池の「液相法」作製の要素技術開発に成功しました(図1)。本研究成果は、安価・軽量・フレキシブルな高エネルギー変換効率太陽電池の研究開発を加速し、持続可能社会の早期実現に貢献できると考えています。

図1
図1.モデル構造と電子顕微鏡写真(右下)
 

本成果は、日本時間2019年1月10日午後7時に、英国Nature Publishing GroupのNature Communications オンライン版に掲載されました。

論文情報:

Solution-processed intermediate-band solar cells with lead sulfide quantum dots and lead halide perovskites, Nature Communications, Vol. 10, (2019) 

今回の研究の詳細

【研究背景】
本研究グループは、持続可能社会の実現をめざし、太陽光エネルギーの有効利用の観点から、太陽光エネルギー変換技術(太陽電池など)の研究開発を行なっています。シリコン系などの汎用太陽電池のエネルギー変換効率の理論限界(最大理論変換効率:約31%)を超える太陽電池を、安価・軽量・フレキシブルで製造できれば、メガソーラーや住居用だけでなく、充電不要の電気自動車やモバイル機器など様々な用途に適用できると期待されます。

近年、高エネルギー変換効率が期待される太陽電池として、中間バンド型太陽電池が注目されています。この中間バンド型太陽電池は、バルク(母体)半導体中にナノサイズ半導体(量子ドット)を高密度充填したナノ構造体(光吸収層)が必要です。このナノ構造体は、従来、超高真空下で基板上に原子1層ずつの単結晶の膜を成長させるエピタキシー法などの「気相法」で作製されてきました。しかし、材料の制約や設備負荷などの点から、「気相法」で高エネルギー変換効率の中間バンド型太陽電池を安価で製造することには課題がありました。

そこで本研究グループは、コア技術である「液中におけるナノ界面・分散・結晶制御技術」、「太陽電池評価・解析技術」を駆使し、「液相法」で中間バンド型太陽電池が作製できれば、上記課題解決の突破口が開かれると考え、「液相法」による中間バンド型太陽電池の作製技術開発に挑戦してきました。

【研究概要】
1. ナノサイズ半導体:量子ドット(硫化鉛)の表面にヨウ化物イオンを配位させることにより、ペロブスカイト(*4 )前駆体(メチルアミン臭化水素塩、臭化鉛)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液に量子ドットをナノレベルで分散、安定させたコート液を調製しました。【ナノ分散安定技術】
2. 上記コート液をスピンコート(液相法)することにより、ナノ構造体(光吸収層)を基板上に結晶成長させ、 太陽電池を作製しました。【ナノ分散・結晶制御技術】
3. X線回折装置、電子顕微鏡、吸収・発光スペクトルなどによりナノ構造体の科学的解析を行ないました。【太陽電池評価・解析技術】
4. 赤外バイアス光を用いた2段階光吸収評価システムにより、発電効率を測定しました。 【太陽電池評価・解析技術】

【研究成果】
1. 「液相法」により、ペロブスカイト(臭化鉛メチルアンモニウム)バルク半導体中に平均粒径4nmの量子ドット(硫化鉛)を高密度充填したナノ構造体の作製に成功しました(図1)。
2. 作製したナノ構造体が、中間バンドを形成した設計通りの光吸収層であることを確認しました。
3. この光吸収層を含む太陽電池が、中間バンドを介した2段階光吸収により発電している、すなわち、中間バンド型太陽電池として機能していることを確認しました。

【まとめ】
本研究では、高エネルギー変換効率が期待される中間バンド型太陽電池の「液相法」作製の要素技術開発に成功しました。本研究成果は、安価・軽量・フレキシブルな高エネルギー変換効率太陽電池の研究開発を加速し、持続可能社会の早期実現に貢献できると考えています。

【共同研究における各研究機関の役割について】
花王株式会社マテリアルサイエンス研究所:太陽電池の設計、作製、データ測定・解析
東京大学先端科学技術研究センター:太陽電池のデータ測定・解析、技術指導
九州工業大学大学院生命体工学研究科:太陽電池の設計、作製における技術指導

用語解説

(*1)“世界ではじめて”に関する文献調査について

NRIサイバーパテント、Orbit.com、Google Scholarで検索し確認し、該当特許、該当文献なし(2018年12月17日現在、花王調べ)
1) NRIサイバーパテント(特許をはじめとする知的財産の検索データベース)
【検索条件】Fターム=5F051+151「光起電力装置」*{全文=(中間バンド+ミニバンド+サブバンド)*(液相+溶液+分散液+ウェット+塗布+コート)}
2) Orbit.com(海外特許・意匠検索システム、※世界90ヵ国・6,600万件以上の特許データを横断検索)
【検索条件】IPC=H01L-051/44, 46 (Solid state devices for the conversion of the energy of such radiation into electrical energy) and {TI/AB/IW/CLMS=(intermediate+ or mini+ or sub+) and band+ and (solution+ or liquid+ or dispersion+ or wet+ or coat+)}
3) Google Scholar(主に学術:論文、学術誌、出版物の検索データベース)
【検索条件】intermediate-band solar cell (solution or wet or coat)

(*2)液相法:液体状態(液相)から結晶成長させる方法
(*3)気相法:気体状態(気相)から結晶成長させる方法
(*4)ペロブスカイト:ペロブスカイト型結晶構造を持つ化合物の総称。近年、ハロゲン化鉛ペロブスカイト化合物が、太陽電池の光吸収材料として注目されている。

<お問い合わせ>
花王株式会社 広報部 佐久間正
東京大学先端科学技術研究センター 教授・岡田至崇
九州工業大学大学院生命体工学研究科 教授・早瀬修二

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