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自閉症者は対人距離を短く取る
自閉スペクトラム症の人と自閉スペクトラム症でない人のパーソナルスペース(コミュニケーション空間)の比較

  • プレスリリース

2016年1月28日

1.発表者
浅田晃佑(東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員)
長谷川寿一(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術研究センター 准教授)

2.発表のポイント:
◆自閉スペクトラム症(注1)の人と自閉スペクトラム症でない人が他者といる時にどれくらいの距離を取るのかを比較した結果、自閉スペクトラム症者は対人距離を短く取ることがわかりました。
◆自閉スペクトラム症の人と自閉スペクトラム症でない人がそれぞれ一定の範囲の対人距離を取りやすいことがわかりました。
◆自閉スペクトラム症の人と自閉スペクトラム症でない人が、互いに相手の快適な対人距離に配慮することで、よりよいコミュニケーションの達成につながることが期待されます。

3.発表概要:
 人は他者と接する際、さまざまな対人距離を取ります。特定の他者との短い対人距離は好意や親密性を表し、長い対人距離は尊敬や嫌悪を表すと考えられています。自閉スペクトラム症は、発達障害の一種で、日常のコミュニケーションに困難が生じているかどうかにより診断されます。対人距離はコミュニケーションにおいて重要な役割を持つことから、その取り方について、自閉スペクトラム症の人が何らかの特徴を示す可能性が考えられます。東京大学先端科学技術研究センターの浅田晃佑特任研究員、熊谷晋一郎准教授、東京大学大学院総合文化研究科の長谷川寿一教授らの研究グループは、12歳から19歳の自閉スペクトラム症の人と自閉スペクトラム症でない人がそれぞれ他者と取る対人距離について調査しました。調査の参加者は研究者と向かい合い、これ以上近付くと不快になる対人距離を答えました(図1)。その結果、自閉スペクトラム症の人は、自閉スペクトラム症でない人に比べて、不快と感じる対人距離が短いことがわかりました。この結果は、自閉スペクトラム症の人も自閉スペクトラム症でない人もそれぞれが適切と感じる対人距離の違いを踏まえて社会生活を送ることで、よりよいコミュニケーションを行うことができる可能性を示します。
 本研究は、東京大学、茨城大学、武蔵野東学園の共同研究チームによって行われました。本研究成果は、2016年1月27日(米国東部標準時間)に『PLOS ONE』オンライン版で発表されます。

4.発表内容
人は他者と接する際に、さまざまな対人距離を取ります。個人の周りにできるこの距離の範囲を「パーソナルスペース」と呼び、自身のパーソナルスペースに他者が入って来た場合、人はコミュニケーションを開始する、警戒心を強めるなど、何らかの反応を示します。しかし、対人距離が短すぎたり長すぎたりすると、他者とのコミュニケーションの機会を逸することや対人トラブルにつながります。
自閉スペクトラム症は、発達障害の一種で、コミュニケーションや対人関係において困難が見られることや同じ行動や興味へのこだわりが見られることにより診断されます。これまで日本の青年期の自閉スペクトラム症者がどのような対人距離の特徴を示すかは明らかになっていませんでした。
本研究グループは、調査の参加者である12歳から19歳の自閉スペクトラム症の人と自閉スペクトラム症でない定型発達(注2)の人に参加協力していただき、次のような調査を行いました。まず、研究者と参加者は離れた位置に立ちます。その後、研究者が参加者に近付き、これ以上近付かれると不快と感じる地点を答えてもらいました(図2)。次に、参加者が研究者に近付き、参加者がこれ以上近付くのは不快だと感じる地点で止まっていただきました。その結果、どちらの場合も、自閉スペクトラム症の人は、自閉スペクトラム症でない人と比べて、不快であると感じる地点が研究者に近く、他者との対人距離を短く取る傾向にあることがわかりました。また、自閉スペクトラム症の度合いが高いことと対人距離が短いことが関係していることから、対人距離には人によって差が見られることがわかりました。加えて、対人距離を取る際のアイコンタクトの影響も調べました。研究者が参加者に近付く場合では、自閉スペクトラム症の人も自閉スペクトラム症でない人も、研究者がアイコンタクトを取った時は、アイコンタクトを取っていない時に比べ、対人距離を長く取りました。このことから、自閉スペクトラム症の人も自閉スペクトラム症でない人も、アイコンタクトの情報を対人距離の調整に利用していることが明らかになりました。
 短い対人距離は、他者への好意や親密性を表します。今回の研究では、自閉スペクトラム症の人が短い対人距離を取る傾向があることが明らかになりました。このことを踏まえると、自閉スペクトラム症の人は自分が他の人と比べて対人距離が短すぎないか意識することで、コミュニケーションの相手に好意や親密性を示していると誤解を与えることを避けることができる可能性が考えられます。また、今回の研究では、不快に感じる対人距離は人によって差があることがわかりました。自閉スペクトラム症の人も、自閉スペクトラム症でない人も、対人距離には人によって差があることを踏まえて社会生活を送ることで、よりよいコミュニケーションを行うことができると期待されます。
 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金研究活動スタート支援「自閉症スペクトラム障害におけるコミュニケーション空間の特性理解」、文部科学省科学研究費補助金新学術領域「構成論的発達科学―胎児からの発達原理の解明に基づく発達障害のシステム的理解―」、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)「自閉症スペクトラム障害児における顔情報の処理に関する実験心理学的研究」の助成を受けたものです。

5.発表雑誌: 
雑誌名:PLOS ONE
論文タイトル:Reduced Personal Space in Individuals with Autism Spectrum Disorder
著者:Kosuke Asada*, Yoshikuni Tojo, Hiroo Osanai, Atsuko Saito, Toshikazu Hasegawa, &
Shinichiro Kumagaya(浅田晃佑・東條吉邦・長内博雄・齋藤慈子・長谷川寿一・熊谷晋一郎)
DOI番号:10.1371/journal.pone.0146306
アブストラクトURL:

https://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0146306別ウィンドウで開く

6.用語解説
(注1)自閉スペクトラム症
自閉症スペクトラム障害とも呼ばれます。発達障害の一種で、コミュニケーションや対人関係において困難が見られることや同じ行動や興味へのこだわりが見られることにより診断されます。これまで、自閉症、アスペルガー障害、広汎性発達障害、特定不能の広汎性発達障害と呼ばれていたものを含む診断概念です。

(注2)定型発達
発達障害のない典型的な発達をしている状態。そのような発達をしている者を定型発達者と呼びます。「健常」という用語がより健康・より正常であるという価値判断を含むのに対して、「定型発達」は典型的な発達をしているかどうかという価値中立的な記述により重点が置かれた用語です。

7.添付資料

 

図1. 調査時の様子の模式図

参加者と研究者は向かい合い、参加者はこれ以上近付くと不快になる対人距離を答える
(左)研究者が参加者に近付く時 (右)参加者が研究者に近付く時

図3

図2. 研究者が参加者に近付いた時の研究結果

研究者とアイコンタクトがある時もない時も、
自閉スペクトラム症の人は自閉スペクトラム症でない人よりも対人距離を短く取る

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