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東京大学 先端科学技術研究センター

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プレスリリース

階段状に進む地球温暖化の要因を解明
~熱帯太平洋は地球温暖化の「ペースメーカー」~
小坂 優 准教授(気候変動科学分野)

2016年7月19日

1.発表者: 小坂 優(東京大学先端科学技術研究センター 准教授)
 
2.発表のポイント:
◆20世紀初頭から、全球平均地表気温は階段状に上昇してきましたが、熱帯太平洋域に起源を持つ気候の内部変動(注1)がそのペースメーカーであると特定しました。
◆過去120年間の階段状の温度上昇を伴う全球平均気温変化を、全球気候モデルシミュレー ションにより高精度で再現することに初めて成功しました。
◆気温変動には人為起源の影響だけでなく自然変動も寄与しますが、全球気温変動の観測値から人為起源の変動をリアルタイムで監視する新手法を提示しました。

3.発表概要
 地球温暖化に伴い、地球全域で平均した地表気温(以下「全球平均気温」)は産業革命前から1℃近く上昇しました。しかしこの上昇は一方的な傾向ではなく、20~30年ごとに上昇期と停滞期を繰り返す階段状になっています。IPCC報告書などで引用される、気候モデルを温室効果ガス濃度変化などの外部強制力(注2)で駆動した歴史気候再現実験(注3)は百年規模の温度上昇は再現するものの、地球温暖化の「階段」のタイミングの再現は困難でした。
 東京大学先端科学技術研究センターの小坂 優准教授とカリフォルニア大学スクリプス海洋研究所のShang-Ping Xie教授の日米共同研究チームは、熱帯太平洋に起源を持つ気候内部変動が階段状の地球温暖化の上昇期と停滞期のタイミングを決める「ペースメーカー」の役割を果たしてきたことを明らかにしました。同チームは気候モデルにおいて、歴史気候再現実験で用いる外部強制力に加えて、熱帯太平洋で起こる気候内部変動の時間発展を観測と一致させる熱帯太平洋-全球大気実験(注4)により、階段状の全球平均気温変化を再現することに成功しました。さらに、全球平均気温の観測値から熱帯太平洋変動の影響を除去することで、気温変動のうち外部強制力による成分を抽出する手法を提示しました。パリ協定で産業革命以降の温度上昇を2℃未満に抑制する国際目標の合意に至りましたが、この手法は人間活動による地球温暖化の進行度をリアルタイムで監視することを可能にします。
 この成果は7月18日(英国時間)にNature Geoscience誌のオンライン版に掲載されました。

4.発表内容
 全球平均気温は地球温暖化の指標として広く用いられています。主に人類の産業活動による温室効果ガス濃度の増加により、全球平均気温は産業革命前に比べて1ºC近く上昇しました。一方で、温室効果ガス濃度の増加は続いているにもかかわらず、1990年代末から全球気温上昇は顕著に減速しました。この減速は地球温暖化の 「ハイエイタス」(停滞)とも呼ばれています。過去を振り返ると、人為起源温室効果ガス濃度が一方的に増加する傾向とは対照的に、1910年頃から始まった全球平均気温の上昇は20世紀中期(1940年代半ば~70年代半ば)と21世紀初めの2回の停滞によって中断され、階段状に進行してきました (図1上段)。近年の温暖化停滞はこの「階段状の温暖化」の最も直近の一段と位置づけられます。
 IPCC報告書などで広く利用される、観測に基づく外部強制力を全球気候モデルに与えて気候をシミュレートした歴史気候再現実験は、19世紀後半以降の長期的な気温上昇の再現が可能です。しかしその全球平均気温は、平均的には、大規模火山噴火による短期的な低下はあるものの長期的には一方的な上昇傾向を示し、観測された地球温暖化の「階段」の再現は困難でした (図1中段)。
 気候システムにはさまざまな内部変動現象が存在し、なかには全球平均気温に影響するものもあります。研究チームは、このような気候内部変動の中でも熱帯太平洋に起源をもつ現象で、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象(注5)とよく似た空間構造をもって数十年規模でゆっくりと変動する熱帯太平洋数十年規模変動(注6)に着目しました。チームはある気候モデルにおいて、通常の歴史気候再現実験に与える外部強制力に加えて、熱帯東太平洋域の海面水温変動を観測された過去の変動に一致させる「熱帯太平洋-全球大気実験」を行いました。その結果、過去120年間に渡る階段状の上昇を伴った全球平均気温変化を、年ごとの比較が可能なほどの精度で極めて正確に再現することに初めて成功しました (図1下段)。また、同じモデルによる歴史気候再現実験と比較したところ、主に人為起源の気候強制が百年規模の地球温暖化を引き起こしてきた一方で、熱帯太平洋域の内部変動は昇温期と停滞期が切り替わるタイミングを決定し、温暖化を階段状に進行させる「ペースメーカー」の役割を果たしてきたことが明らかになりました。
 過去120年間に、熱帯太平洋における十年規模の海面水温低下は4回起こり、これによって全球平均気温にも十年規模の低下もしくは上昇の減速が引き起こされました(図2)。特に、1950年頃と1970年頃の2回の熱帯太平洋低温化は20世紀中期の温暖化大停滞期の初めと終わりに当たります。この停滞については工業化によるエアロゾル増加の寄与が指摘されていましたが、熱帯太平洋変動はその初めと終わりのタイミングを決定しました。熱帯太平洋の影響がなければ、大停滞期は10年ほど早く終わっていたと考えられます。また1900年頃の熱帯太平洋低温化は全球的な気温低下を引き起こし、2000年前後の海面水温低下は外部強制力による全球気温上昇の一部を相殺して近年の温暖化停滞の主要因になりました。一方、1920年頃や1980年頃には、熱帯太平洋の海面水温上昇が地球温暖化を加速しました。この結果は、近年の温暖化停滞のような十年規模の地球温暖化減速やその逆の急激な全球気温上昇が、地球温暖化の中で普遍的に起こる現象であることを示唆しています。
 昨年、地球温暖化抑制についての多国間合意「パリ協定」が締結され、産業革命前を基準とした気温上昇を2℃より十分低く抑える国際目標が設定されました。しかし近年の温暖化停滞が示すような10~20年規模の温度上昇の加速や減速は、熱帯太平洋の気候内部変動によって今後も繰り返すと予想されます。このため、全球平均気温の観測値には、人為起源の気候影響とは無関係な内部変動の寄与が常に含まれています。熱帯太平洋変動が全球平均気温の内部変動をもっとも強く駆動することから、チームは熱帯太平洋-全球大気実験と歴史気候再現実験を用いて、全球平均気温の観測値から内部変動の寄与を除去する手法を提示しました (図3)。これは人為起源の地球温暖化をリアルタイムで監視することを可能にする成果です。観測値では、近年の温暖化の停滞のため、全球平均気温上昇は20世紀初めと比べて0.9℃ほどに抑えられていましたが、本研究の手法によると、外部強制力による気温上昇はすでに1.2℃に達していると推定されます。
 なお本研究は以下の支援を受けて行われました。

• 文部科学省科学研究費補助金 若手研究A(15H05466)「マルチ気候モデルを用いた過去150年間における地球温暖化の加減速の再現と要因同定」
• 文部科学省補助事業 北極域研究推進プロジェクト(ArCS)
• 環境省環境研究総合推進費(2-1503)「地球温暖化に伴う気候変動と日本・東アジア域の降水現象の変化に関する研究」

5.発表雑誌
雑誌名:Nature Geoscienceオンライン版
論文タイトル: The tropical Pacific as a key pacemaker of the variable rates of global warming
著者:Yu Kosaka* and Shang-Ping Xie*
DOI番号: 10.1038/NGEO2770
アブストラクトURL:別ウィンドウで開く http://dx.doi.org/10.1038/ngeo2770

7.問い合わせ先
東京大学先端科学技術研究センター 気候変動科学分野
准教授 小坂 優

8.用語解説
(注1)気候の内部変動: 気候システム内部で自励的に発達し、外部強制力なしでも存在する気候変動。あるいは、人為起源影響とは無関係に発達し、火山噴火や太陽活動変動にもよらない変動とも言えます。気候システムにはさまざまな気候内部変動現象があり、エルニーニョ現象はその代表例です。気候モデルは一般に、内部変動の空間構造などの統計的な特徴は再現しますが、歴史気候再現実験など通常の実験設定では、その時間発展(例えば何年にエルニーニョ現象が発生するか)は現実とは一致しません。気候内部変動の時間発展の予測(あるいは再現)は天気予報と同様で、限られた予報期間内でしか有効でないためです。
 
(注2)気候システムに対する外部強制力: 温室効果ガス濃度変動(対流圏の水蒸気を除く)、エアロゾル(大気中を漂う微小粒子)の濃度分布変動、太陽活動変動など、気候システムに対し外部から与えられる強制力で、放射強制力とも呼ばれます。人為起源のものと自然起源のものがあり、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス濃度の変動や工業性のエアロゾルは人為起源、火山性エアロゾルや太陽活動変動は自然起源です。IPCC第5次報告書によれば、産業革命前を基準とした近年の放射強制力の大部分は人為起源です。
 
(注3)歴史気候再現実験: 全球気候モデルに対し、19世紀中頃から2005年までの観測データに基づく歴史的な外部強制力を与えて行うコンピュータ上の実験。IPCC第5次報告書などで幅広く利用されています。本研究では2006年以降の外部強制力として代表的濃度経路の一つである中位安定化シナリオ(RCP4.5)を与えて実験を延長しました。100年以上の気候変化をシミュレートするため、気候内部変動の現実の時間発展を再現することは意図されていません。その代わりに、起こりうる内部変動状態を包括するよう、初期値が少しずつ異なる実験を多数繰り返す「アンサンブル実験」と呼ばれる手法がとられます。
 
(注4)熱帯太平洋-全球大気実験: 全球気候モデルに対し、歴史気候再現実験と同じ外部強制力に加えて、熱帯太平洋の海面水温変動を観測された変動と強制的に一致させる実験。最近は「ペースメーカー実験」とも呼ばれます。歴史気候再現実験では、熱帯太平洋域での内部変動は勝手に時間発展するため観測とは一致しませんが、これを観測された時間発展に強制的に一致させるものです。
 
(注5)エルニーニョ現象・ラニーニャ現象: 代表的な気候内部変動現象で、数年おきに発生し、1年程度持続して終息する年々変動です。エルニーニョ現象時には、赤道太平洋域で海面水温が平年より高い状態が持続し、ラニーニャ現象時には逆に海面水温が平年より低くなります。両者を併せてEl Niño-Southern Oscillation、略してENSOと呼ばれます。即ちENSOの正の状態がエルニーニョ現象、負の状態がラニーニャ現象です。ENSOは赤道太平洋に固有の現象ですが、遠隔影響と呼ばれる現象を介して世界中の天候に影響し、全球平均気温にも影響します。昨年から今年にかけて発生した強いエルニーニョ現象の影響が地球温暖化に重畳し、今年は全球平均気温の記録が更新される見込みです。
 
(注6)熱帯太平洋数十年規模変動: エルニーニョ現象・ラニーニャ現象と似た空間構造を持って、10~40年ほどの時間スケールで不規則に変動する気候内部変動現象。太平洋数十年規模変動(Interdecadal Pacific Oscillation; IPO)とも呼ばれます。本研究で、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象よりも強く全球平均気温に影響することがわかりました。
 
9.添付資料


図1

図1: 1890年から2014年までの全球平均気温の変化 (1970年から1999年までの平均からのずれ)。上段及び下段の細線(いずれも左側の軸を参照)は観測値 (英国ハドレーセンター作成のデータセットに基づく)。上段の灰色の矢印で階段上の温暖化を模式的に表しており、1940年代中頃から1970年代中頃までの部分が20世紀中頃の地球温暖化大停滞期、1990年代末以降の部分が近年の地球温暖化停滞に当たります。中段(右側の軸を参照)は気候モデル群による歴史気候再現実験。縦線で表した火山噴火の直後に数年間の気温低下が起こる以外は、全体としては一方的な上昇傾向を示します。下段の太線と陰影(左側の軸を参照)は本研究で行った熱帯太平洋-全球大気実験で、観測された年々変動のタイミングや階段上の温度変化の様子を再現しています。

 
図2

図2: 熱帯太平洋-全球大気実験と歴史気候再現実験の差から求めた、熱帯太平洋変動に起因する全球平均気温の15年変化傾向。正の値はその前後15年間に熱帯太平洋が全球平均気温を上昇させる傾向に、また負の値は低下させる傾向にあることを示します。顕著な負の変化傾向が1900年代、1970年頃、2000年頃に見られ、それらよりやや弱いながらも負の変化傾向が1940年代にも見られます。縦線は主要な火山噴火を示します。

 
図3
 
図3: 全球平均気温の変化 (1970年から1999年までの平均からのずれ)。細線は観測値 (英国ハドレーセンター作成のデータセットに基づく)、太線は観測値から熱帯太平洋-全球大気実験と歴史気候再現実験の平均の差を差し引いて推定した、外部強制力による全球平均気温変化を表します。いずれも前後5年間で平均操作を行い平滑化してあります。縦線は主要な火山噴火を示します。観測値では、20世紀初めと比較した温度上昇は2010年~2014年の平均で0.9℃ほどですが、ここから熱帯太平洋変動の影響を除去して推定した外部強制力による全球気温上昇は約1.2℃に達しています。
 

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