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菌の増殖を光で検出

  • プレスリリース

2017年7月27日

1. 発表者:
 岡本 晃充(東京大学先端科学技術研究センター 生命反応化学分野 教授)
 国  立浩(東京大学大学院工学系研究科 先端学際工学専攻博士課程3年生)
2. 発表のポイント:
  • その場で菌の増殖を蛍光で検出できる化学システムを構築しました。
  • 増殖の元になるリボソーム(注1)の存在量に合わせて蛍光を出す人工RNAを開発し、これを混ぜるだけで菌の増殖を目で見えるようにしたことで、手間をかけずに菌を検出することを可能にしました。
  • 発酵や衛生分野などにおいて、現場で菌増殖を分析する際に有効です。
3. 発表概要:

 菌の増殖は、食物発酵や環境衛生に関連する分野では、モニターすべき最も基本的な情報です。これまでは、採取した菌を培養しそれを顕微鏡で観察しており、さらにより詳しい情報を得るためには菌から核酸を抽出し増幅することによって元の菌の量を定量していました。菌を扱うには、簡便かつ即時的な分析が必要ですが、従来の方法では困難でした。東京大学先端科学技術研究センターの岡本晃充教授と国立浩大学院生は、現場で菌の増殖を蛍光で検出できる化学システムを構築しました。増殖の元になるリボソームの存在量に合わせて蛍光を出す人工RNAを開発し、これを混ぜるだけで菌の増殖を目で見えるようにしたことで、菌を検出することを可能にしました。この新技術は、発酵や衛生などのバクテリアを取り扱う分野において増殖の簡便かつ即時的な分析に有効です。本成果は、英国科学誌「Chemical Communications」オンライン版に掲載予定です。

4. 発表内容:

菌は、ある場合にはわれわれの生活に不可欠であり、ある場合にはわれわれの生活を脅かす重要な存在です。菌の増殖量をモニターして常に適切に制御することは、われわれの気持ちのいい生活、おいしい生活の維持において重要なプロセスです。大腸菌を代表とするさまざまな菌の量は常に変化しており、これをモニターするにはサンプルから菌を取り出して、場合によってはいったん培養した後に、吸光度観察や顕微鏡観察を行う方法がとられています。さらに、詳細に調べるためには、菌が持っている核酸を抽出し、核酸増幅法(PCR、注2)によって増幅して定量してきました。しかし、常に変化し続ける菌の量を決めるには、測定者にとって手間がかかりすぎるとともに菌に触れる機会が多くなり、その結果、測定に時間がかかって結果がわかりにくくなっていました。

そこで、岡本教授らは、現場で菌の増殖を蛍光で検出できる化学システムを構築しました。この化学システムの鍵物質は、目的の物質の有無を認識して蛍光発光を起こす人工核酸です。人工核酸は、蛍光物質を取り付けた数十塩基のRNAであり、化学合成によって作成します。2分子の蛍光物質チアゾールオレンジ(注3)が取り付けられたヌクレオシド(注4)を人工核酸へ組み込むことによって、物質認識による励起子制御蛍光スイッチング(注5)が可能になりました。今回開発した人工核酸は、菌の増殖機能に必須なリボソームと作用するネオマイシンB(注6)と結合できます。リボゾームがネオマイシンBと結合しているときは人工核酸からの蛍光が抑制される一方、ネオマイシンBが放出された後には人工核酸からの強い蛍光が現れました。人工核酸と菌由来リボソームの間でネオマイシンBを取り合うことから、菌の量を人工核酸の蛍光の強度を通じて得ることができました。実際に、魚のえさで増殖する大腸菌の量を、蛍光でモニターすることができました。

この新しい化学システムは、菌の増殖の簡単分析に有効であり、食品発酵や安全衛生管理などの、現場にて菌の増殖をモニタリングする必要がある場面で簡便に使える分析キットを作ることができます。また、この化学システムのコンセプトは、人工核酸の物質認識構造を変換することにより、さまざまな化合物や物質の蛍光定量にも応用することが可能です。

5. 発表雑誌:

雑誌名:「Chemical Communications」
  論文タイトル:Fluorescence-switching RNA for detection of bacterial ribosome
  著者:Lihao Guo and Akimitsu Okamoto*
  DOI番号:10.1039/C7CC04818A
  アブストラクトURL:https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2017/CC/C7CC04818A別ウィンドウで開く

6.用語解説:

(注1)リボソーム
核酸からタンパク質へ遺伝情報を翻訳するときに翻訳機として機能する生命分子構造体。

(注2)核酸増幅法(PCR)
ポリメラーゼ・チェーン・リアクションの略で、好熱菌から採取されたDNA合成酵素を用いて、微量の核酸サンプルを増幅して大量のコピーを作り出す方法。

(注3)チアゾールオレンジ
チアゾールオレンジは、蛍光色素のひとつであり、核酸の二重らせん構造へ入り込むことによって強い蛍光発光を示す。

(注4)ヌクレオシド
RNAを構成する分子構造であり、リボースと呼ばれる糖と、アデニン・グアニン・ウラシル・シトシンのいずれかの核酸塩基から構成される。

(注5)励起子制御蛍光スイッチング
蛍光発光は、チアゾールオレンジ2分子が平行に重なることによってその励起軌道が分裂し(励起子結合効果)、強く抑制される。本研究では、チアゾールオレンジ2分子が重なったり、核酸の二重らせん構造へ入り込むことを、分子環境の変化に応じて制御することによって、蛍光発光を制御すること。

(注6)ネオマイシンB
抗生物質のひとつであり、バクテリアのリボソームに結合する。本研究で開発した人工核酸にも結合することができる。

7.添付資料:
岡本図1

(図1)反応の模式図。
蛍光発光が抑えられていた人工核酸に結合していたネオマイシンBがバクテリアリボソームに奪われて、 人工核酸が蛍光発光するようになります。

岡本図2

(図2)菌が増えると緑色に光ります。

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