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地球規模の気候予測に貢献する低気圧の研究

  • 研究成果

2021年7月2日

気象現象への影響を数値化した新研究

中緯度域に周期的な天気の変化をもたらす移動性の低気圧や高気圧は各地域の気象状態だけでなく、地球規模の気候システムや大気循環の挙動や特性にも影響していると考えられています。しかし、これら低気圧や高気圧からの影響を定量的に調査する方法は限られていました。今回、東京大学先端科学技術研究センターの研究者らは、個々の低気圧や高気圧がより広い範囲の気象・気候にどのような影響を与えているかを定量的に調べることを可能にする新しい3次元解析手法を初めて開発しました。この研究は、低気圧の特性が将来どのように変化するかなど、より長い時間で起こる大気の循環や気候の研究に役立ちます。

低気圧というと、「オズの魔法使い」に出てくるような猛烈な風や竜巻を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、低気圧や高気圧は、より広範にわたる大規模な気象現象であり、地球の気候の振舞いにも重要な役割を果たしていることがわかっています。低気圧とは、ある気圧の相対的に低い領域を中心に回転する風の動きです。低気圧は雨や嵐の天気を伴う傾向があり、赤道の南側では時計回り、北側では反時計回りに回転します。逆に、高気圧のある地域を中心に回転する気象現象で、穏やかで晴れた天気を伴う傾向があります。これらは、どちらの半球でも低気圧とは逆に回転します。

「大気科学者はこれまで何十年もの間、オイラー的手法(18世紀の数学者レオンハルト・オイラーにちなんで命名)と呼ばれる方法を駆使して、長期間の3次元大気データを解析してきました。しかし、この手法では、低気圧や高気圧は、背景となる平均状態からの単なる偏差(ずれ)であり、それ自体を独立した存在として切り分けて考える事ができません。さらに、高気圧は低気圧とは異なり、穏やかな天候を連想させるためか、しばしば見過ごされているのです」岡島悟特任助教は話します。

先端科学技術研究センターの岡島特任助教と中村尚教授、ワイツマン研究所(イスラエル)のカスピ准教授から成る研究チームは、個々の低気圧や高気圧の周りを回る風を、両半球の緯度30度から60度の間に存在する高速の気流である偏西風などの背景風から分離するという新しい手法を開発し、個々の低気圧や高気圧の局所的な曲率(形状)が、偏西風ジェット気流に与える影響を評価することに成功しました。従来の標準的な見方である相対渦度に着目していては、このような詳細な情報は得られませんでした。

「低気圧と高気圧を定量的に分離することは非常に難しく、これまでにも多く試みがあったものの、上手くいきませんでした。今回成功した方法は、さまざまな数値気候モデルのシミュレーションデータにも適用することができ、研究者が温暖化に関わる将来の気候を予測するに役立つと期待しています」と岡島特任助教は話します。「気候科学は私たちにとって重要であると考えています。というのは、地球上のさまざまなものに影響を及ぼすからです。海洋学、水文学、計算・データ科学、物理学、化学、数学など、さまざまな分野が組み合わさっているため、特に興味深い分野でもあります。私たちの研究成果が、気候科学者にとって刻々と変化する世界を予測するための有用なツールとなることを願っています」。

偏西風によるジェット気流

偏西風によるジェット気流。太い赤矢印で示した北半球の偏西風ジェット気流は、北半球の冬の天候を規定する上で特に重要である。CC-0 NASA

古い手法と新しい手法の比較

古い手法と新しい手法の比較:上の等高線図は、高低気圧をモデル化する際の従来の基準である相対渦度に基づいて、低気圧と高気圧を西風ジェット気流に重ね合わせたものです。下の等高線図は上図と同じですが、局所的な曲率や形状に基づいた研究チームの新しい手法を用いて高低気圧を示しています。©2021 Okajima et al.

本研究の一部は、ArCSII (JPMXD1420318865)、科学技術振興機構(COI-NEXT JPMJPF2013)、環境省(JMEERF20192004)、日本学術振興会科学研究費補助金(JP18H01278、JP19H05702、20H01970)の支援を受けています。

【論文情報】

Satoru Okajima, Hisashi Nakamura & Yohai Kaspi, "Cyclonic and anticyclonic contributions to atmospheric energetics" Scientific Reports, DOI: 10.1038/s41598-021-92548-7

【研究者情報】

気候変動科学分野 特任助教 岡島 悟
         教授 中村 尚

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