粒状物質の摩擦の二重の役割を解明
―摩擦が安定化と流動化をもたらす非平衡力学の新原理―
- プレスリリース
2026年1月30日
東京大学
発表のポイント
- 粉体や砂などの粒状物質が繰り返し変形を受ける際に示す「エイジング(ゆっくり密度が上がる)」と「流動化(動きやすくなる)」の振る舞いを、粒子間摩擦を制御因子として統一的に理解することに成功しました。
- 粒子間摩擦を増加させると、系はより安定化してエイジングが促進される一方、さらに摩擦が大きくなると、微小な連続的な再配列を通じて逆に流動化が促進される「非単調」な挙動を示すことを発見しました。
- 本研究は、摩擦が単なる安定化要因ではなく、非平衡系におけるエイジング・流動・準安定状態の探索経路を同時に制御することを示し、粉体工学、土壌力学、地盤・断層ダイナミクスなど幅広い分野に新たな指針を与えると期待されます。

発表概要
東京大学先端科学技術研究センター田中 肇名誉教授らの研究グループは、粒状物質が準静的(注1)な繰り返しせん断変形(注2)を受けた際に示す力学的エイジング(注3)と流動化のメカニズムを、大規模数値シミュレーションにより解明しました。
砂や粉体、穀物、土壌などに代表される粒状物質は、日常生活から産業・自然現象に至るまで極めて広く存在しています。これらの物質は、温度による熱ゆらぎをほとんど持たない「非平衡・非熱的物質」(注4)であるにもかかわらず、外部からの摂動によりガラスのようにゆっくりと構造が変化する「エイジング」や、空間的に不均一な粒子運動を示すことが知られています。しかし、その緩和(注5)や流動の仕組みは、ガラスとは本質的に異なり、十分に理解されていませんでした。
その結果、粒子間摩擦と変形振幅という二つの制御因子によって、粒状系が(i)弾性的に安定した状態、(ii)ゆっくりと詰まるエイジング状態、(iii)定常的に流動する状態の三つの力学的レジームを示すことを明らかにしました。
特に重要なのは、外部からの力学的な繰り返し刺激の下で、摩擦の役割が単純ではなく、摩擦を増やすと一旦は密度が上昇し構造が安定化するものの、さらに摩擦が大きくなると、逆に流動化が促進されるという再入的(非単調)な振る舞いが現れる点です。これは、摩擦が「安定化」と「流動化」という相反する効果を同時に内包していることを示しています。
本成果は、粒状物質におけるエイジング・流動・クリープ(注6)といった多様な現象を、摩擦が支配する非平衡ダイナミクスの統一的枠組みとして理解できることを示したものです。
本成果は、2026年1月28日付でProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)に掲載されました。

ー研究者からのひとことー
摩擦は粒状物質を安定化するだけの要因だと思われがちですが、本研究では、摩擦が系を安定化させる一方で、条件によっては流動化を引き起こす新たな経路も同時に開くことを示しました。すなわち、摩擦は運動を単に抑えるのではなく、粒子配置が探索できる準安定状態やその遷移経路そのものを変化させます。このような摩擦の二重の役割は、粒状物質に限らず、非平衡物質全般に共通する非常に一般的な原理だと考えています。
(東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員/東京大学名誉教授 田中肇)
発表内容
砂や粉体、穀物、土壌などに代表される粒状物質は、弱い外力の下ではゆっくりと密に詰まり、密度が時間とともに増加していく「力学的エイジング」を示す一方、十分に強い変形を受けると構造が壊れて流動化します。このような振る舞いは日常的に観察されるものの、その背後にある物理的機構、とりわけ粒子間摩擦の役割については、これまで体系的な理解が得られていませんでした。
本研究では、粒子間に摩擦をもつ粒状系に準静的な繰り返しせん断変形を加え、粒子配置の変化、密度の時間発展、粒子運動の統計的性質、ならびに動的不均一性(注7)を大規模数値シミュレーションにより詳細に解析しました。粒子間摩擦係数μとせん断変形の振幅Γを独立に制御することで、粒状物質の動的な振る舞いを網羅的に調べました。
その結果、摩擦が小さい場合には、粒子配置が力学的に脆弱で、系は限られた準安定状態しか持たないことが分かりました。このため、局所的な再配列が引き金となって、系全体に及ぶ雪崩的・間欠的な粒子運動が発生しやすく、密度は階段状に増加します。このような挙動は、深く過冷却されたガラスにおける間欠的緩和と類似しています(図1、μ=0)。
摩擦を中程度まで増加させると、粒子間接触が安定化し、再配列はより局所的になります。この領域では、粒子配置がほとんど変化しない「吸収状態」(注8)と呼ばれる力学的に安定な状態が現れ、エイジングは大きく抑制されます。繰り返し変形を加えても、系はほぼ可逆的に応答し、粒子運動は強く拘束されたままとなります(図1、μ=0.1)。
ところが、摩擦をさらに大きくすると、系の挙動は再び大きく変化します。高摩擦領域では、力学的に安定な配置が非常に多数存在するようになり、それらの間を、雪崩のような不連続な再配列ではなく、微小なクリープ的運動によって連続的に行き来できるようになります。その結果、粒子は常にわずかに動き続け、長時間スケールでは拡散的な運動が現れ、系は再び流動化しやすくなります(図1、μ=1)。
このように、摩擦は粒状物質を一方的に安定化するのではなく、摩擦の大きさに応じて、間欠的な雪崩運動を抑制しつつ、連続的な緩和経路を新たに開くという、相反する二つの役割を果たしていることが明らかになりました。これにより、摩擦を増やすと一旦はエイジングが抑制されるものの、さらに摩擦が大きくなると再び流動化が促進されるという、再入的な力学挙動が生じます。
本研究では、粒子運動の分布関数、平均二乗変位、運動の記憶効果、空間的な動的不均一性を総合的に解析することで、摩擦係数とせん断振幅を軸とする動的状態図(図2)を構築しました。この状態図は、従来個別に議論されてきた老化、クリープ、流動化、可逆・不可逆変形といった現象が、摩擦によって制御される非平衡ダイナミクスとして統一的に理解できることを示しています。
本成果は、粒状物質に限らず、摩擦を伴うコロイド系や生体集合体、さらには土壌や断層帯における長期的な変形現象など、広範な非熱的・非平衡物質の理解に共通する基本原理を与えるものです。摩擦が準安定状態の数や探索経路をどのように変えるかという視点は、今後の粉体工学、地盤工学、地球物理学における現象理解と制御に重要な指針を提供すると期待されます。


発表者・研究者等情報
東京大学先端科学技術研究センター 極小デバイス理工学分野
田中 肇 特任研究員/東京大学名誉教授
ユアン イェ― 博士
モンペリエ大学
コブ ウォルター教授
論文情報
- 雑誌名:
- Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)
- 題 名:
- Friction-controlled reentrant aging and fluidization in granular materials
- 著者名:
- Ye Yuan, Walter Kob*, Hajime Tanaka* *責任著者
- DOI:
- 10.1073/pnas.2528600123

研究助成
本研究は、文部科学省科学研究費 特別推進研究(JP20H05619)の支援を受け実施されました。
用語解説
- (注1)準静的
変形や力の加え方が非常にゆっくりで、途中で物体がほぼ静止した状態を保ちながら進む状況を指します。動きが速すぎて跳ねたり流れたりするのとは異なり、加えた力に対してその都度落ち着いた状態に近い応答を示すのが特徴です。粒状物質の実験やシミュレーションでは、慣性や振動の影響を抑え、材料本来のゆっくりした変形や緩和の性質を調べるために用いられます。 - (注2)せん断変形
物体の上下や左右にずれるような力を加えたときに起こる変形のことです。たとえば、トランプの束を上から押さえながら横にずらすと、各カードが少しずつずれて全体が変形しますが、これがせん断変形です。材料の体積はほとんど変わらないまま、内部の粒子や層が横方向に滑るように動くのが特徴です。粒状物質や固体、液体など、さまざまな物質の変形や流動を理解するうえで重要な基本的な変形の一つです。 - (注3)エイジング
材料や物質が時間の経過とともに少しずつ状態を変え、動きにくくなったり、安定した構造へと移行していく現象を指します。粒状物質やガラス状の物質では、外から弱い力を加え続けると、粒子の配置がごくわずかずつ再編成され、ゆっくりと詰まったり硬くなったりします。この変化は短時間ではほとんど分かりませんが、長い時間をかけて蓄積され、物質の力学的性質に影響を与えます。 - (注4)非平衡・非熱的物質
外から力を加えない限りほとんど動かず、温度によるゆらぎだけでは状態が変わらない物質のことです。砂や粉のような粒状物質では、揺らしたり押したりすると初めて粒子が動きますが、力を止めると再び静止します。このような物質は、熱によって自然に落ち着く通常の物質とは異なり、外からの力によってのみ変化するため、独特の動き方や「ゆっくり変化する性質」を示します。 - (注5)緩和
外から加えられた力や変形によって乱れた状態が、時間の経過とともに少しずつ落ち着いていく過程のことです。粒状物質やガラス状の物質では、力を止めてもすぐには元に戻らず、粒子の配置がごくわずかずつ変化しながら、より安定した状態へと向かいます。このような緩和は非常にゆっくり進むことが多く、エイジングやクリープと深く関係しています。 - (注6)クリープ
材料に比較的小さな力や変形を長時間にわたって加え続けたとき、見かけ上は静止しているように見えても、内部ではごくわずかな変形や粒子の移動が継続的に進行する現象です。粒状物質や固体材料では、急激な破壊や流動とは異なり、微小で連続的な再配列が積み重なることで、長時間スケールで構造や形状が変化します。地盤のゆっくりとした沈下や、金属材料が高温下で徐々に変形する現象などにも見られる、普遍的な力学的挙動です。 - (注7)動的不均一性
物質全体が同じように動くのではなく、場所によって動きやすい部分と動きにくい部分が同時に存在する性質のことです。たとえば砂や粉を揺らしたとき、ある場所では粒子が活発に動く一方、別の場所ではほとんど動かないことがあります。このような動きのばらつきは、ガラスや粒状物質など、ゆっくり変化する物質に共通して見られ、エイジングや流動化の仕組みを理解するうえで重要な特徴です。 - (注8)吸収状態
外から同じ操作や変形を繰り返し加えても、物質の状態がそれ以上変化せず、同じ配置や運動状態に落ち着いてしまう状態のことです。粒状物質では、粒子の配置が力学的に安定すると、せん断などの外力を加えても粒子がほとんど動かなくなり、系全体が「動かない状態」に固定されます。このような状態に一度入ると、外部条件を変えない限り、その状態にとどまり続けることが特徴です。
問合せ先
東京大学名誉教授
東京大学先端科学技術研究センター
特任研究員 田中 肇(たなか はじめ)

