2022~2023年に観測された地球エネルギー吸収の急増の要因を解明
―3年続いたラニーニャ現象からエルニーニョ現象への遷移がカギ―
- プレスリリース
2026年2月12日
東京大学
北海道大学
発表のポイント
- 2022年から2023年に観測された世界全体の平均気温の急上昇に寄与した、地球のエネルギー吸収の急増の要因を解明
- 地球温暖化をもたらす人為起源の影響に加え、3年に亘って続いたラニーニャ現象が終息し直後にエルニーニョ現象へと遷移したことが鍵だったことを発見
- 2022年から2023年の事例が特異な極端事例であったことを示すとともに、エルニーニョ現象やラニーニャ現象の気候変動における新たな重要性を示す

概要
東京大学先端科学技術研究センターの土田耕特任研究員と小坂優准教授、北海道大学大学院理学研究院の見延庄士郎教授の研究グループは、2022~23年に観測された地球全体のエネルギー吸収(注1)の急増の要因を解明しました。
地球は太陽放射を吸収し、赤外放射を宇宙空間に放出することで、エネルギーのバランスを保とうとしますが、吸収が放出を上回る状態が持続すると地球温暖化をもたらします。本研究では、2022~23年の地球エネルギー吸収の急増に対し、先行して3年続けて発生したラニーニャ現象の終息とエルニーニョ現象(注2)への遷移が、人為起源の影響に重なって重要な寄与をもたらしたことを発見しました。本研究は、エルニーニョ現象やラニーニャ現象の気候変動における新たな側面を描き出すとともに、世界規模の気温上昇や極端気象・気候現象の予測や要因説明に資する新たな知見や、継続的な衛星観測等による地球エネルギー収支の監視の重要性を示しています。
発表内容
2022年から2023年にかけて、地球全体の平均気温が急激に上昇しました。その背景の一つに、地球が宇宙へ放出するエネルギーよりも多くのエネルギーを受け取ることによる地球エネルギー吸収が、この時期に急増したことが指摘されています。しかし、この急増の要因には諸説あり、よく分かっていませんでした。地球のエネルギー吸収を観測値に基づいて精度よく評価できるのは2000年以降に限られており、わずか20数年間のデータでは原因を明らかにすることはできなかったのです。本研究では、第6次結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6; 注3)に参画した多数の気候モデルのシミュレーションによる2,000年以上のデータを分析することで、この要因の解明に取り組みました。
モデルシミュレーションから得られるサンプルのうち、地球全体のエネルギー吸収が特に強まるケースの多くで、複数年持続するラニーニャ現象からエルニーニョ現象への遷移が前後して起きていることが分かりました(図1)。このことは、観測されたエネルギー吸収の急増が、2020年から2023年初頭にかけて3年強に亘って続いたラニーニャ現象が終息しエルニーニョ現象に転じるタイミングで起こったことと合致します。さらに、先行するラニーニャ現象は1年だけの場合よりも複数年続いた場合のほうが、地球のエネルギー吸収はより大きくなることも見出しました。この地球エネルギー収支への影響は、ラニーニャ現象の衰退とエルニーニョ現象の発達に伴って地球全体の大気の流れが変わり、雲の性質や分布が変わることで太陽放射の反射率が変わること、また地球の広い範囲で水温が変化することなどを通して起こります。気候モデルシミュレーションに基づいてこれらのラニーニャ現象・エルニーニョ現象の影響を推定し、人為起源の影響の推定値に加えると、2022年10月~2023年9月に観測された地球のエネルギー吸収量の約75%を説明できます(図2)。
エルニーニョ現象やラニーニャ現象は世界各地に異常気象をもたらす重要な変動現象ですが、本研究の成果は、これらが地球全体のエネルギー収支にも大きな影響を与えうるという新たな側面を例示しています。また、ラニーニャ現象はエルニーニョ現象と比べて持続する傾向があるとはいえ、3年間継続したラニーニャ現象は珍しく、2022年~2023年のエネルギー吸収急増は人為起源の影響に低頻度の自然現象が重なった特異な事例であったと言えます。一方で、複数年続くラニーニャ現象が温暖化とともに頻度を増す可能性も指摘されており、地球規模で起こる極端気象・気候現象の予測や要因分析に対し、本研究は重要な手がかりを与えています。


発表者・研究者等情報
東京大学
先端科学技術研究センター
土田 耕 特任研究員
小坂 優 准教授
北海道大学大学院理学研究院
見延 庄士郎 教授
論文情報
- 雑誌名:
- Nature Geoscience
- 題 名:
- Multi-year La Niña-El Niño transition influenced Earth's extreme energy uptake in 2022–23
- 著者名:
- Tsuchida, K.*, Y. Kosaka, and S. Minobe
- DOI:
- 10.1038/s41561-026-01921-6
- URL:
- https://www.nature.com/articles/s41561-026-01921-6

研究助成
本研究は、文部科学省「気候変動予測先端研究プログラム」(課題番号: JPMXD0722680395)及びArctic Challenge for Sustainability III(課題番号: JPMXD1720251001)、並びに「頻発する大気・海洋の熱波となくならない寒波」を含む複数の日本学術振興会科学研究費(課題番号:JP23K22573, JP23K25937, JP23K25946, JP24H00261, JP24H02223, JP24H01502)の支援により実施されました。
用語解説
- (注1)地球エネルギー吸収
大気上端において、地球が吸収する太陽放射と、宇宙へ放出する赤外放射との差で定義される量で、「地球エネルギー不均衡(Earth's Energy Imbalance)」とも呼ばれています。例えば温室効果ガス濃度の増加は、地球から宇宙へ放出される赤外放射を弱めることで、正味のエネルギー吸収を強め、地球温暖化をもたらします。他に、気候システムに内在する自然変動によっても、地球エネルギー吸収量は年々変動の時間スケールで揺らぐことが知られています。 - (注2)エルニーニョ現象・ラニーニャ現象
東部太平洋で、赤道に沿って海面の水温が平年値より顕著に高くなる現象をエルニーニョ現象、低くなる現象をラニーニャ現象と呼びます。いずれも気候システム内部で自励的に発達する自然変動現象です。これらは地球全体の大気循環を変化させ、世界各地の天候に影響を及ぼすことが知られています。 - (注3)CMIP6
第6次結合モデル相互比較プロジェクト(Coupled Model Intercomparison Project Phase 6)の略称。気候変動の理解を深化させ、将来予測の精度向上を目的として、世界中の研究機関が共通の設定で気候モデルシミュレーションを実施し、その出力結果をオープンデータとして公開しています。本研究で用いたシミュレーションは、温室効果ガスやエアロゾル排出等の時間変化を外力として与えた大気海洋結合モデルシミュレーションであり、エルニーニョ現象やラニーニャ現象などの自然変動は、シミュレーションを繰り返す度に異なるタイミング・強さ・持続期間等の特徴を伴って発生します。
問合せ先
東京大学先端科学技術研究センター グローバル気候力学分野
准教授 小坂 優(こさか ゆう)
関連タグ

