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アミール=モエッジ教授による特別講演(クルアーン学/シーア派研究)を開催

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2021年8月2日

  • アミール=モエッジ教授
    モハンマド・アリ・アミール=モエッジ教授
  • 4月25日に、古典イスラーム学の世界的権威の一人であるモハンマド・アリ・アミール=モエッジ教授(EPHE/パリ)をお招きして、オンライン特別講演を開催しました。

    昨年度より、グローバルセキュリティ・宗教分野(池内研究室)では、国際研究プロジェクト「未来の人文学に向けて:思想研究のための国際研究ネットワーク構築」(プロジェクト・リーダー:山城貢司特任研究員)を推進しています。その活動の一環として、最先端の研究トピックを題材とした講義・ワークショップ・研究セミナーシリーズを定期的に開催し、海外の専門家と日本の専門家の間の創発的かつ創造的な学術交流の場の創出に努めています。

「未来の人文学に向けて」プロジェクトは、 東京大学とエルサレム・ヘブライ大学との包括的学術協定(2019年5月に締結)に基づき、ヘブライ大学を中心としたイスラエルの学者と日本の学者の間の対話と共同研究のネットワーク形成を目的として2020年に発足しました。今年度は、ヘブライ大学に所属する研究者のみならず、ヨーロッパや北米にて第一線で活躍中の宗教学者や哲学研究者にもネットワークを広げつつ、さらなる講演や研究セミナーを企画しています。

今回お越しいただいたアミール=モエッジ教授には、同氏が目下取り組んでいる研究テーマの一つについて詳しく語っていただきました。

預言者ムハンマドが唯一神アッラーより授かった啓示の集成であるとされるクルアーンは、如何なるプロセスを経て、現在の形態を取るに至ったのでしょうか?この謎を巡っては、オリエント学が始まって以来、数多くの学説が提唱されてきました。近年、クルアーン学の急速な発達に伴い、精緻な知見が次々ともたらされつつあるとはいえ、イスラーム教の聖典の成立という問題系の全貌に肉薄する包括的な理論は未だ存在しません。本特別講演「シーア派とクルアーン:黙示録・内戦・帝国」では、クルアーンとシーア派の複雑な絡み合いに注目するという独自の立場から、同問題系へアプローチが可能であることが提唱されました。その趣旨を簡略にまとめると次のようになるでしょう。

クルアーンにおける黙示録的ヴィジョンが、古代末期の聖書伝統という宗教史的文脈に位置付けられるべきであるという点について異論はないだろう。ここで注目すべきなのは、ユダヤ=キリスト教的終末論に特徴的なメシアの到来に関する言説が、イスラームの聖典には完全に欠如しているという事実である。同時代の複数の外部証言が、ムハンマドの宣教活動とメシアニズムを密接に結びつけていることを考慮に入れると、これは一層奇妙であるといわざるを得ない。他方、シーア派の伝承においては、しばしば初代イマームのアリーがメシアと同一視されてきた(同観念はシーア派神学におけるカーイム/マフディー論へと継承されることになる)。この「謎」は、預言者の(むしろ早すぎる)死の直後より始まったイスラーム内戦において勝利を収めたカリフ権力が「歴史」を書き換え、新たな「集団的記憶」を形作ったという仮説によって整合的に説明できるかもしれない。すなわち、クルアーンのオリジナルには含まれていたと想定されるメシア/ムハンマドの後継者(両者は不可分の関係にある)に関する言説は、(預言者の敵対者に関するパッセージ共々)検閲の対象になったのではないか。そして、イスラームの聖典に認められる様々な形式的ないし内容上の特異性は、形成過程における「屈折」に由来するのではないか。クルアーン改竄論は、このような背景の元に発達したのであり、こうして秘教的クルアーン解釈の方法と実践(所謂「沈黙のクルアーン」と「語るクルアーン」)が、シーア派イスラームの本質そのものとして帰結したのではないか。「シーア派版クルアーン」の存在は、以上の推測を実質的に裏付けるものと思われる。

クルアーンの形成史を最初期のイスラーム史における神学的ダイナミズムと大胆にリンクさせながら立体的に描く試みとなった本講演は、イスラームの歴史と思想を理解する上で、極めて興味深いパースペクティブをもたらすイベントとなりました。本特別講演には古典イスラームの専門家を含む様々な分野の研究者が30名近く参加され、質疑応答では非常に活発な議論が交わされました。アミール=モエッジ教授の学説は、今後批判的かつ徹底的に検討すべき一連の課題をイスラーム研究者に突きつけたと言えるでしょう。本イベントが将来の探求に大いに刺激を与えたことを期待しつつ、筆を擱かせていただきます。

【開催概要】
日時:
4月25日(日)午後9時 - 11時

講師:
モハンマド・アリ・アミール=モエッジ教授 EPHE(高等研究実習院/パリ)

主催:
東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野 池内研究室

共催:
東京大学先端科学技術研究センター 創発戦略研究オープンラボ(ROLES)
東京大学グローバル地域研究機構(IAGS)
GSIキャラバン・プロジェクト「中東国際政治における主要地域大国と域外大国の関係をめぐる実地調査と対話」(代表者:池内恵)

キュレーター:
山城貢司 特任研究員(グローバルセキュリティ・宗教分野 池内研)

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