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身体への負担が少ない抗がん剤「局所抗体ミメティクス結合薬物」の開発に成功

  • 研究成果

2022年1月26日

1. 発表者

児玉 龍彦(東京大学先端科学技術研究センター がん・代謝プロジェクト プロジェクトリーダー/東京大学名誉教授)
杉山 暁 (東京大学アイソトープ総合センター 助教)
山次 健三(東京大学大学院薬学系研究科 助教)

2.発表のポイント

多数の分子標的に対して様々な薬剤で治療しうる抗体薬物複合体を開発し、動物実験において、治療後20日以内に大きな移植腫瘍を消失させることに成功しました。

3. 発表内容

今日のがんの薬物療法では、ゲノム解読を元にした分子標的への抗体に制がん剤を結合させたADC(抗体薬物複合体、注1)が標準的な治療法となってきましたが、生物製剤(注2)である抗体と低分子の結合薬の開発は、成功率が低い上に製造コストは高く、多数ある標的の一部しか実用化されていません。東京大学アイソトープ総合センターの杉山暁助教は、大阪大学、東北大学、サヴィッド・セラピューティックス株式会社との共同研究を行い、Cupid・Psyche技術(図1、図2、注3)によって、がん患者の体への負担が小さいAMDC抗体ミメティクス(注4)結合薬を、高品質でありながら低コストに抑え、安定的に製造することができる手法の確立に成功しました。

東京大学大学院薬学系研究科の山次健三助教、金井求教授らのグループは本手法を用いて、光で活性化されるより強力な新規化合物を用いたlocal-AMDC(局所抗体ミメティクス結合薬 )療法(図3)を開発し、ヒト乳がん細胞を移植したマウスの大きな腫瘍を20日以内に消失させ、傷を治癒できることを明らかにしました。

東京大学名誉教授の児玉龍彦プロジェクトリーダーを中心とする研究チームでは、スーパーコンピューターなどを駆使して既に4種類を超えるAMDCの開発を進めており、福島県立医科大学の鷲山幸信准教授のグループと共に、診断用と治療用のアイソトープ結合AMDCの開発に成功しています。多種類の標的に多種類の治療が選べ、経済的で副作用の少ない治療法は、AI時代におけるがん治療の新たなプラットフォームとして期待されます。

本研究成果は、国際雑誌「Protein Expression and Purification」(2021年12月30日)にオンライン掲載されました。

4. 発表雑誌

雑誌名:
「Protein Expression and Purification」
論文タイトル:
Antibody mimetic drug conjugate manufactured by high-yield Escherichia coli expression and non-covalent binding system
著者:
Kenzo Yamatsugu, Hiroto Katoh, Takefumi Yamashita, Kazuki Takahashi, Sho Aki, Toshifumi Tatsumi, Yudai Kaneko, Takeshi Kawamura, Mai Miura, Masazumi Ishii, Kei Ohkubo, Tsuyoshi Osawa, Tatsuhiko Kodama, Shumpei Ishikawa, Motomu Kanai, Akira Sugiyama*
DOI:
https://doi.org/10.1016/j.pep.2021.106043別ウィンドウで開く

5. 用語解説

  • 注1. 抗体薬物複合体
    抗体に抗がん剤などの薬を付加したもの。抗体が特定の分子を持つがん細胞に結合する性質を利用して、薬を直接がん細胞まで運び、そこで薬を放出することで腫瘍に対して高い治療効果を発揮し、副作用の軽減が期待できます。
  • 注2. 生物製剤
    生物から産生されるタンパク質などの物質を応用して作られた薬。これに対し、一般的な医薬品は、化学的に合成した物質をもとに作られます。
  • 注3. Cupid・Psyche技術
    スーパーコンピューターを用いた分子動力学計算を利用し、ストレプアビジンの改変体(コード名:Cupid)と、改変ビオチン(コード名:Psyche)を設計し、臨床での実用化はされなかった標的分子に対するドラッグデリバリーシステムの開発に成功しました。
  • 注4. 抗体ミメティクス
    抗体は免疫グロブリンというタンパク質で、特定の異物にある抗原(目印)に特異的に結合して、その異物を生体内から除去する分子です。異物が体内に入るとその異物にある抗原と特異的に結合する抗体を作り、異物を排除するように働きます。この抗体のような働きをするものを人工的に合成したのが抗体ミメティクス(もどき)です。

6. 添付資料

  • 抗体ミメティクスを融合できるCupid
  • 図1:抗体ミメティクスを融合できるCupid
    左からヒトの抗体の一部分(scFv)、アルパカのVHH、ファージライブラリーからのantibody、コンピューターで設計したタンパク質(Designed Protein)などがCupidとタンパク質製剤を作れる。
  • 様々な診断薬、治療薬を結合でききるPsyche
  • 図2:様々な診断薬、治療薬を結合でききるPsyche
    今回の研究では、光で活性化される新規薬剤をPsycheに結合した。すでに診断用や治療用のアイソトープを結合したPsycheを福島県立医科大学と、制がん剤を結合したPsycheについては東北大学と開発を進めている。
  • 抗体ミメティクス結合薬の局所療法(Local-AMDC)
  • 図3:抗体ミメティクス結合薬の局所療法(Local-AMDC)

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