エポキシ樹脂内部のナノスケール不均一性は機械特性を変化させる
ーマルチスケール解析手法の開発と応用ー
- 研究成果
2023年11月21日
東京大学先端科学技術研究センターニュートリオミクス・腫瘍学分野の山下雄史特任准教授らの研究グループは、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社との共同研究により、エポキシ樹脂内部に存在するナノスケールの不均一性がエポキシ樹脂のマクロな機械物性に影響を与えることを発見しました。
エポキシ樹脂は、接着剤や複合材料のマトリクス樹脂など、工業的に広く使われる高分子材料です。複合材料は軽くて強い物性を示すため、飛行機や自動車の素材として注目を集めており、マトリクス樹脂として使用されるエポキシ樹脂の機械物性コントロールが重要となっています。これまで分子シミュレーションによるエポキシ樹脂の機械物性予測が試みられてきましたが、実測値との乖離が大きく、空間・時間スケール的な制約によりエポキシ樹脂内部の不均一性を考慮できていないことが問題であると指摘されていました。
研究グループは、エポキシ樹脂内部のナノスケールの不均一性が機械物性に与える影響について調べるために、分子シミュレーションと有限要素法を組み合わせたマルチスケール解析手法を開発しました。このマルチスケール解析手法を用いて解析した結果、エポキシ樹脂内部には架橋構造の違いを起因とするナノスケールの不均一性が潜在的に存在し、エポキシ樹脂のマクロな機械物性に影響を与えることを見出しました。また、このような不均一性がエポキシ樹脂内部に局所的なひずみ集中を引き起こし、破壊の起点となる可能性があることを発見しました。
本研究成果は、エポキシ樹脂の機械物性発現メカニズムを解明するための非常に有用な知見であり、今後のエポキシ樹脂の分子設計に役立つことが期待されます。また、今回構築したマルチスケール解析技術は、分子シミュレーションのみでは難しかったエポキシ樹脂の機械物性を正確に予測するための基盤になることが期待されます。
本研究に関する論文が2023年10月16日付けでThe Journal of Physical Chemistry B 誌で公開されました。
山下特任准教授は次のように述べています。「現代の材料開発において、材料物性の分子レベルの理解は必須となっています。しかし、分子シミュレーションで扱える時空間スケールには限界があり、材料物性の中にはまだ分子論的に解明できていない問題が多く残されています。本研究において開発したマルチスケール解析技術は新しい分子設計技術につながるのではないかと感じています」
マルチスケール解析によりエポキシ樹脂内部の不均一性を考慮することで、分子シミュレーションの結果に比べ応力が低下することが明らかとなりました。一軸伸長時のひずみ分布を詳細に解析すると、エポキシ樹脂内部に局所的なひずみ集中が生じていました。
© 2023 庄司 直幸、山下 雄史
【掲載論文情報】
- 著者名
- Naoyuki Shoji, Takefumi Yamashita
- タイトル
- Tensile Stress Reduction and Strain Concentration of Epoxy Resin Caused by Heterogeneity: A Multiscale Approach Combining Molecular Dynamics Simulation and Finite Element Method
- 雑誌名
- The Journal of Physical Chemistry B
- オンライン掲載日
- 2023/10/16
- DOI
- 10.1021/acs.jpcb.3c04391
- URL
- https://doi.org/10.1021/acs.jpcb.3c04391
【問い合わせ先】
ニュートリオミクス・腫瘍学分野 特任准教授 山下 雄史
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