1. ホーム
  2. ニュース
  3. 先端研ニュース
  4. 街路の「賑わい」を定量化するーAIドラレコデータを用いたスケーラブルな歩行者密度推定ー

街路の「賑わい」を定量化する
ーAIドラレコデータを用いたスケーラブルな歩行者密度推定ー

  • 研究成果

2024年9月10日

発表概要

東京大学先端科学技術研究センター減災まちづくり分野の吉村有司特任准教授と同大学大学院工学系研究科の織田拓磨大学院生らの研究グループは、車両に搭載したドライブレコーダーの映像から街路レベルでの歩行者密度を測定するための新しい手法を提案しました。東京中心部を運行する約3,000台(地域を営業するタクシーの約7%に相当)のタクシーのAIドラレコ(注1)データを元に検証を行った結果、駅周辺の50%以上の街路において歩行者活動が計測可能であることがわかりました。また、これらの計測データを基に、駅からの距離や周辺のアメニティ(店舗・施設)密度と歩行者密度との関連を調べたところ、特にアメニティ密度と非常に強い正の相関があることが確認され、ウォーカビリティ指標の既往研究を裏付ける結果となりました。


ー研究者からのひとことー

今回提案したような車両街路モニタリング手法は、原理的には歩行者だけでなく自転車や路駐車両などの多様なモビリティの利用状況も把握できる可能性があり、より安全で快適なウォーカブルな都市への貢献が期待されます(織田拓磨大学院生)。

 

【研究の背景】
ジェイン・ジェイコブズ(Jane Jacobs)は、歩行者活動が都市の健全な発展を支える要素であり、活気ある街路はコミュニティの形成、経済的繁栄、安全性の向上に寄与すると主張しました。歩行者空間化をはじめとする街路の「賑わい」を高めるための都市政策は、都市の持続可能性やウォーカビリティの観点でますます重要になってきています。
歩行者数の測定には調査員を配備して行う方法からGPSや携帯電話のデータを用いた方法まで、様々な調査手法があります。本研究の提案手法は、コンピュータビジョン技術を用いてストリートビュー画像などから歩行者活動を網羅的に分析するアプローチと類似しています。画像ベースの手法は、歩行者の振る舞いや、自動車との相互作用など、より詳細な歩行者活動が把握できるポテンシャルがあり、近年様々な研究で活用されています。

 

【研究内容】
本研究が他の研究と異なる点は、専用プローブ車両によるデータ収集や大規模な画像処理に頼らず、タクシー車両に搭載したAIドラレコから生成される物体検出ログのみを活用していることです。これにより、低コストで網羅的な分析が可能となりました。具体的には、街路をタクシーが走行するたびに観測される歩行者を時空間で集約し、道路ネットワークにマッピングすることで、街路単位の歩行者密度を算出します。東京中心部における292の駅勢圏を検証した結果、50%以上の時空間で相対的な歩行者密度の評価が可能であることが示されました。

これらの計測データを基に、種々のウォーカビリティ指標と歩行者密度との関連を調べたところ、特にアメニティ(店舗・施設)密度と非常に強い正の相関(スピアマンの順位相関係数0.8以上)があることが確認され、WalkScore®︎(注2)をはじめとするウォーカビリティ指標の有効性を裏付ける結果となりました(図1)。

図1:街路スケールの歩行者密度とアメニティのマッピング

また、サンプルが少ない街路において機械学習モデルによる推定を行うことで、駅勢圏を構成する街路全体の評価を可能とする手法を開発しました。徒歩700mの範囲を駅勢圏として定義し、駅ごとの「賑わい」(駅勢圏における歩行者密度の高い街路の総距離)を可視化した結果、新宿や渋谷といったビッグターミナル以外にも、高円寺や赤羽、自由が丘といった駅も賑わいのある地域と評価されました。(図2)。

図2:東京中心部における駅ごとの「賑わい」の可視化

【社会的意義・今後の展望】
本研究で提案する歩行者密度測定のアプローチは、ジェイコブズが提唱したような活気ある街路が経済活動やコミュニティ形成に与える影響を理解するための基盤を提供すると考えています。画像ベースの街路モニタリングは、自転車や路駐車両などの多様なモビリティの利用状況も把握できるため、本研究を更に発展させていくことで、環境負荷の軽減や公共の安全性向上など、持続可能な都市づくりに貢献することが期待されます。

【掲載論文情報】

著者名
Takuma Oda, Yuji Yoshimura
タイトル
Quantifying the vibrancy of streets: Large-scale pedestrian density estimation with dashcam data
雑誌名
Transportation Research Part C
オンライン掲載日
2024/9/4
DOI
10.106/j.trc.2024.104840
URL
https://doi.org/10.1016/j.trc.2024.104840別ウィンドウで開く

【謝辞】
本研究はGO株式会社のデータ提供のもとで実施されました。

用語解説

  • (注1)AIドラレコ
    AIドラレコは、AI技術により運転解析を行うことのできるドライブレコーダーのことです。事故の要因となりうる、脇見運転や一時不停止などの各種リスク運転行動を自動的に検知する機能を有しています。

  • (注2)WalkScore®︎
    WalkScore®︎は、主に日常的な目的地(スーパー、学校、飲食店など)への徒歩アクセスのしやすさに基づいて計算され、高いスコアほど歩行者にとって便利なエリアを示します。都市計画や不動産業界でよく利用される評価基準です。

問合せ先

減災まちづくり分野 特任准教授 吉村 有司(よしむら ゆうじ)

関連タグ

ページの先頭へ戻る