Jリーグクラブの企業価値推定額を算出
ー欧州フットボールクラブ市場での企業価値算定モデルを導出し日本に適用ー
- 研究成果
2024年9月26日
発表概要
東京大学先端科学技術研究センターの小泉秀樹教授、木村正明特任教授、井上拓央特任助教、同大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程のウォルシュ禅大学院生、髙橋俊哉大学院生らの研究グループは、近年の欧州におけるプロフットボールクラブの企業価値を評価する算定式の導出に成功し、その算定式を適用することによりJリーグ全クラブの企業価値を推定しました。本研究は、従来は合理的な価値算定が行われていなかったJリーグクラブの価値評価の基準となる考え方と具体的な金額について、初めて有効な手立てを示しました。
欧米ではスポーツクラブが驚くほどの高額で取引されている現実があり、日本のクラブが本来有する企業価値はクラブ関係者のみならず、将来的な保有を考える企業や個人にとっても関心事項でした。
本研究では、はじめに日本と欧米でのクラブ企業価値の算出法を調査。日本では株式額面と純資産による評価が中心である一方、欧米では売上高の乗数をベースに評価されてきたことを整理しました。将来利益がベースとなる一般的な事業会社とは異なる珍しい手法で、利益のみならず勝利の追求が求められるスポーツクラブの特性が現れていると言えます。さらに、実際の取引価格を被説明変数、取引価格に影響を与え得る要素を説明変数の候補とした重回帰分析を通じて欧州クラブの企業価値評価算定式の導出を行い、妥当性の高い複数の式を見出すことに成功しました。この分析により、売上高だけでなくSNSのフォロワー数や所属選手の市場価値が大きな影響を与えていることが判明しました。最終的に、導出した算定式をJリーグ全クラブに当てはめたところ、いずれの式でも過去の取引額よりも高い価値を示唆する結果が得られました。
本研究では欧州の実際の取引価格に基づいてJリーグクラブの推定評価額を算出しましたが、今後は投資家や企業のニーズ調査を通じたモデルの精緻化、及び他の国内クラブの価値評価といった応用が期待されます。
ー研究者からのひとことー
欧米と日本のプロスポーツの規模は年々差が開いています。欧米においては上場しているクラブや球団もあれば、球団やクラブの市場価値に関する研究や情報も豊富です。かたや日本国内においてプロスポーツ企業の売買は不明瞭かつ金額も不明な場合が多く、資金調達も難しければ積極的な成長投資も困難で、成長の妨げとなってきました。本研究で一定の価値評価基準を示すことができましたが、他のスポーツへの応用や、クラブの保有を検討している投資家や企業・個人のニーズを把握する一連の調査研究を進めることで、本研究がプロスポーツ発展の足掛かりとなっていくことを期待しています(木村正明特任教授)。
欧州クラブの企業価値をほぼ正確に再現できる2つのモデルを用いて、Jリーグ全60クラブの企業価値を推定したところ、いずれのモデルにおいても過去の実際の取引価格を上回る金額が得られました。
© 2024 スポーツの価値学寄付研究部門(木村正明・ウォルシュ禅・井上拓央・髙橋俊哉・小泉秀樹)
【掲載論文情報】
- 著者名
- Masaaki Kimura, Zen Walsh, Takuo Inoue, Toshiya Takahashi, Hideki Koizumi
- タイトル
- Valuation methods for professional sports clubs: A historical review, a model development, and the application to Japanese football clubs
- 雑誌名
- arXiv
- オンライン掲載日
- 2024/6/24
- DOI
- 10.48550/arXiv.2406.16773
- URL
- https://doi.org/10.48550/arXiv.2406.16773
【謝辞】
本研究は明治安田生命保険相互会社、古澤剛氏、萩野谷尚志氏の支援により実施されました。
問合せ先
スポーツの価値学(明治安田生命)寄付研究部門 特任教授 木村 正明 (きむら まさあき)関連タグ