まちなかスタジアムの整備がもたらす行動変容で環境影響が低減
ースタジアム移転前後の観戦者行動の比較で明らかにー
- 研究成果
2025年7月24日
発表概要
東京大学先端科学技術研究センター「スポーツの価値(明治安田生命)寄付研究部門」の井上拓央特任助教、木村正明特任教授、小泉秀樹教授らの研究グループは、株式会社サンフレッチェ広島が日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)公式戦の来場者を対象に2023年から2024年にかけて実施したアンケート調査の結果に基づき、スタジアムの立地変化と観戦者の行動変容によって生じる、試合開催時の交通由来の二酸化炭素排出量の変化を推計しました。その結果、スタジアムの郊外から中心市街地への移転に伴い、1試合あたりの交通由来の二酸化炭素排出量が約4割削減されたことを明らかにしました。
サンフレッチェ広島F.Cは、2023年シーズンまで本拠地としていた広島広域公園陸上競技場から、市中心部に新たに建てられたサッカースタジアムへ本拠地を移転。今回の研究では、観戦者に居住エリアと利用交通手段(複数選択可、各手段の利用区間は自由回答)を尋ねる設問への回答が得られた旧本拠地での1試合および新本拠地での5試合の結果を利用しました。
プロスポーツの試合における観戦者の移動に由来する環境影響を評価するために欧米を中心に実施されてきた過去の研究では、利用交通手段を尋ねる際に自家用車・鉄道・徒歩等から1種類のみを選択させる調査手法が用いられてきました。しかし、こうした手法では、日本のように複数の交通手段を組み合わせて来場する観戦者の多い状況において、利用交通手段の選択や結果として生じる環境影響を正確に把握することが困難でした。そこで本研究では、複数選択可とした利用交通手段の回答と自由回答欄に示された各交通手段の分担距離割合に基づいて全観戦者の移動実態を推定する新たな手法を提案しています。
また、スタジアム移転効果を明らかにするため、移転前後での1人あたり二酸化炭素排出量について「移動距離の変化」と「利用交通手段選択の変化」の2つの要因による削減効果を区別し、居住エリアごとの傾向を分析しました。推計結果をクラブや行政、地元事業者等と共有することにより、環境影響の低減と経済的・社会的効果の増進を両立したプロスポーツ開催の実現に貢献していきます。
本研究成果は、2025年6月28日にオンライン学術誌「Sustainability」に公開されました。
ー研究者からのひとことー
近年、一般に「街なか」と呼ばれている都市の中心部にスタジアム等のスポーツ施設を移転・建設する例が増えてきています。スポーツイベント等の運営についてもカーボンニュートラルであることが世界的には求められており、本研究は、この観点から「街なか」に移転することの社会的価値の一つとして、スタジアム移転前後の二酸化炭素排出量の変化を把握したものです。研究の結果、試合が開催されるスタジアムの立地が郊外部から「街なか」に変化したことにより観戦者の行動変容が促されて二酸化炭素排出量の削減が達成されたこと、またその影響には居住エリアごとに異なる傾向が見られることが明らかになりました。本研究に関連した研究結果として、「街なか」での消費行動にもプラスに作用していることが確認されており、「街なか」にスタジアムを建設することは、様々な社会的価値を含んだものであると考えられます。(東京大学先端科学技術研究センター 教授 小泉秀樹)
掲載論文情報
- 著者名:
- Takuo Inoue, Masaaki Kimura, Zen Walsh, Toshiya Takahashi, Hayato Murayama, Hideki Koizumi
- タイトル:
- Spectator Travel and Carbon Savings: Evaluating the Role of Football Stadium Relocation in Sustainable Urban Planning
- 雑誌名:
- Sustainability
- 掲載日:
- 2025/6/28
- DOI:
- 10.3390/su17135956
- URL:
- https://doi.org/10.3390/su17135956
謝辞
本研究は明治安田生命保険相互会社、株式会社サンフレッチェ広島、公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の協力により実施されました。
問合せ先
東京大学先端科学技術研究センター スポーツの価値(明治安田生命)寄付研究部門
教授 小泉 秀樹(こいずみ ひでき)
関連タグ