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重症喘息の2型炎症の新たな理解による個別化医療実現へ
―ILC2とTh2細胞の違いが治療効果に関連―

  • 研究成果

2026年5月29日

慶應義塾大学
東京大学

 慶應義塾大学医学部内科学教室(呼吸器)の入江美聡助教、加畑宏樹専任講師、福永興壱教授らの研究グループは、東京大学先端科学技術研究センターの白崎善隆准教授らとの共同研究により、重症喘息患者を対象とした臨床研究において、生物学的製剤ベンラリズマブが自然リンパ球(ILC2:注1)の機能を選択的に抑制する一方で、Th2細胞(注2)の機能にはほとんど影響を及ぼさないことを明らかにしました。さらに、治療前にTh2細胞のIL-4産生が高い患者では、ベンラリズマブの臨床効果が限定的であることが示されました。ベンラリズマブはIL-5を発現する好酸球などの細胞を標的とした薬剤であり、リンパ球においての影響はこれまで明らかになっていませんでした。したがって、これらの結果は、これまで一括りにされてきた2型炎症(好酸球性炎症)を、ILC2とTh2細胞という異なる細胞の観点から捉え直す重要性を示すものであり、重症喘息における治療効果の個人差の理解と、より適切な治療選択につながることが期待されます。
 本研究結果は、2026年5月28日(日本時間)に The Journal of Allergy and Clinical Immunology に掲載されました。

1.研究の背景と概要

 気管支喘息の治療の中心は吸入ステロイド薬ですが、高用量治療にもかかわらずコントロール不良な重症喘息患者が約5~10%存在します。近年、IgEやIL-5、IL-4、IL-13、TSLPなどを標的とした生物学的製剤が導入されており、 IL-5受容体を標的とするベンラリズマブも喘息治療の重要な薬剤の1つになっています。しかし、その治療効果は患者間でばらつきが認められます。
 従来、喘息における2型炎症(好酸球性炎症)は単一の病態として捉えられてきましたが、その背景には異なる免疫機構の関与が想定されています。2型炎症を担う主要なリンパ球として、抗原特異的に活性化するTh2細胞と、抗原非依存的に活性化する自然リンパ球(ILC2)が知られていますが、これらの違いが臨床的にどのような意義を持つかは十分に明らかではありませんでした。
 本研究では、多施設共同研究であるTokyo Asthma Studyに登録された重症喘息患者70名を対象に、単一細胞レベルでサイトカイン分泌を評価する手法であるLive Cell Imaging of Secretion Activity(LCI-S)を用い、末梢血中のTh2細胞およびILC2の機能と治療効果の関係を解析しました。
 その結果、以下の点が明らかとなった。

  • 患者ごとにTh2細胞とILC2の活性バランスが異なること
  • ベンラリズマブがILC2のサイトカイン産生を選択的に抑制すること
  • 治療前のTh2細胞活性が高い患者では治療効果が限定的であること

2.研究の成果と意義・今後の展開

 本研究により、これまで一括りに扱われてきた2型炎症を、リンパ球の活性の違いに基づいて捉え直す重要性が示されました。特に、ILC2とTh2細胞のバランスがベンラリズマブの治療効果と関連していたことから、免疫学的背景に応じた患者層別化の重要性が示されました。
 今後、これらの知見を発展させることで、従来の好酸球数などに加え、リンパ球の活性評価を加えることで、ベンラリズマブを含む重症喘息に対する治療薬がより効果的に選択できるようになり、患者個々に適した治療選択(個別化医療)の実現につながることが期待されます。

3.特記事項

 本研究は、特定臨床研究(jRCTs031190237、本学病院整理番号N20192003)の研究対象者から得た試料・情報を追加的に解析した、人を対象とする生命科学・医学系研究です。
 本研究は、慶應義塾学事振興資金、福澤諭吉記念慶應義塾学事振興基金、MSD生命科学財団の助成を受けて実施されました。さらに、JSPS科研費 JP22K08240, JP23K24342, JP25K02662、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)医療分野研究成果展開事業, 医療機器等研究成果展開事業「細胞分泌実時間イメージング法に基づく機能的細胞診システムの創生」、免疫アレルギー疾患実用化研究事業「重症喘息及び難治性好酸球性副鼻腔炎における2型自然リンパ球の分子細胞学的解析と新規治療ターゲットの創出」、日本学術振興会特別研究員制度、および科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2217)の支援を受けています。さらに、本研究グループはアストラゼネカ株式会社から臨床研究資金の提供を受けています。
 なお、これらの資金提供者は、本研究の研究デザイン、データ収集・解析、論文執筆および投稿の意思決定には関与していません。

4.論文

英文タイトル:
Differential responses of group 2 innate lymphoid cells and TH2 cells to benralizumab in severe asthma
タイトル和訳:
重症喘息におけるベンラリズマブに対するILC2とTh2細胞の異なる応答
著者名:
Misato Irie、Hiroki Kabata (共同責任著者)、Takashi Kamatani、Mai Yamagishi、Reina Nakamura、Katsunori Masaki、Rino Hommae、Maho Suzukawa、Hitoshi Sasano、Norihiro Harada、Yasunari Miyazaki、Hideki Katsura、Etsuko Tagaya、Junko Terada、Masayuki Hojo、Naoya Sugimoto、Hiroyuki Nagase、Yuta Kono、Hisato Hiranuma、Yasuhiro Gon、Jun Miyata、Sotaro Uemura、Yoshitaka Shirasaki (共同責任著者)、Koichi Fukunaga
掲載誌:
The Journal of Allergy and Clinical Immunology
DOI:
10.1016/j.jaci.2026.03.028別ウィンドウで開く

用語解説

  • (注1)ILC2
    抗原に依存せず炎症を誘導する自然リンパ球である。
  • (注2)Th2細胞
    抗原特異的に活性化されるリンパ球で、アレルギー反応に関与する。

問合せ先

東京大学先端科学技術研究センター 光量子イメージング分野
准教授 白崎 善隆(しらさき よしたか)

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