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「人間力のある若者を育てたい」 
紫綬褒章を受賞して 生田幸士先生に聞く

  • 先端研ニュース

2010年12月20日

図1
生田幸士教授(紫綬褒章を胸に)

紫綬褒章を受賞して
紫綬褒章の連絡があったときは、嬉しかったのと同時に「どうして自分が?」という思いがありました、ほかにも立派な先生がおられるのに、と。でもきっと、医工連携が流行る前からずっと取り組んできたことに対する励ましとこれを梃子にさらにがんばれ、という激励なんだなと今は、理解しています。
学会で研究者仲間からも単に私に対して「おめでとう」ではなく、マイナーな医工学分野でとれたのはすごくいいことと言ってくれたのが嬉しかったですね。工学系が減っている中で、今の学生たちが見て「こういう分野ががんばっている」って思ってくれるといいですね。
以前、紫綬褒章は単に研究だけなく、社会貢献もトータルに考えて与えられる賞だと聞いたことがあります。医用工学の場合は、治療するとか検査するとか、要は医療に使えないとやった意味がないと私は思っています。そういう意味で今回の賞は「早く実用化までもっていきなさい」という期待だろうと受けとめています。

研究環境について
昔に比べると、プロジェクト予算は増えてやっと世界と並んだなとは思います。あとは、最先端分野と最先端ではないかもしれないけれど大事な分野のバランスをどうするか。そこは、残念ながら日本には国策が無い。これは行政の問題ですが、中立な研究者集団としての学会や学術会議からの国への啓蒙活動やアピールが不十分なのだと感じます。戦略が無ければ戦略を持つアジア諸国に負けてしまいます。すでに負けている分野も見えてきています。科学技術と教育は、将来の国益の要であることは、一般市民も理解していることですがね。
現在、我々の研究分野で問題なのは許認可です。医用ということで治験が絡むんですが、日本で審査する人はたった2-30人。しかも2-3年ごとに替わってしまう。しかも薬事なので、薬を審査する人に我々の作った機械であるロボットやマイクロデバイスを審査するのは困難ですよね。合理的なのはヨーロッパで、委員会方式を採用しています。許認可も段階的で、まず3割の機能を2年試して問題が無ければ6割に、最後に10割にもっていくという具合です。
対する日本は、行政が2、3年ごとに配置転換するシステムなので、永久に無理かも(苦笑)。でも、法律は変えられないけれど、自分のできる範囲でやり方はあることがだんだんわかってきました。その時に大切なのは、ものごとを俯瞰して見られるかということ。私は医用マイクロマシンの専門家ですが、許認可の問題になったときはそこから一歩進んで、社会全体としてその問題をどのように捉え、どのように解決に導くかという視点を持つということです。これは是非、若いときに訓練しておいて欲しい。

今の若者に伝えたいこと
うちの研究室に入る学生は、定員を超えた場合は面接で選んでいるのでモチベーションの高い若者ばかりですが、今の二十代を見ていて感じるのは「人間力」が弱くなっているということ。あとは好奇心が弱い。私が言う人間力とは、東大総長も言われていることですけれども、生きていくための力。人とのコミュニケーション力や壁にぶち当たったときに自分の気持ちをコントロールできるといった、勉強以外の人間としての力です。
二十年前の工学部の学生は大体は好奇心の塊で、少なくとも工学やサイエンスに関してはものすごく物知りで、勉強以外のことが好きで好きで本を読んだりしていたわけですね。でも、最近は駄目です。先日もあのハヤブサ帰還のことすら興味を持っていない学生が多くて、驚きました。
これも時代なのでしょう。中学高校でいわゆる受験勉強をしないといい大学に入れないし。アメリカがすべて良いとは思わないけれども、受験制度に関しては(アメリカのように)一発勝負でやった方が合格者の成績の分散が大きいですよね。昔の一期校、二期校時代は一回の試験で振り分けられて、とっても優秀な学生が地方にもいたし、その一方で学力的に今一歩という学生が東大に入ってきたりして、それが学生の間で人間力を高めるのに役立ってきたのではないかと思います。
もし私が教育改革をするとすれば、受験の門戸を広げる一方で、転校しやすい環境を作りますね。そうすれば、最終的には各学生が自分にあった適正な大学に落ち着いて、研究は1.5番目かもしれないけど、しっかりと信念を持った教育を受けられる。そして、社会に歓迎される人材が育っていく、人間力が育てられることになるのではないでしょうか。そうやって教育で若い人の人間力を上げることが、日本の社会の活力につながるのだと思います。

先端研での期待
先端研での実質的な研究活動は来年度(2011年度)からスタートします。先端研については、創設当時の先生から紹介本も頂いて、20年位前から知っていたので、今回、自分が先端研で研究出来ることになってとても嬉しいです。いろんな分野の先生と実際に会ってディスカッション出来るのが楽しみですね。でも東京に来てもこれまでの研究のスタイルを変えるつもりはありません。メジャーな、既に激しく競争しているところにはいかない。そうじゃなくて自分でこつこつと新しい研究の概念の芽を育てて、ある時みんなに「え?やっちゃったの?」って言われるのがかっこいいと思っているので。そんな研究が先端研でならできると思っています。
教育に関しても積極的に取り組んでいくつもりです。せっかく駒場にあるので、機会をとらえて学部生にも教えたいですね。その名に恥じない最先端の研究をやってきた先生ばかりが先端研にいるわけですから、そういった一番手の先生こそが学部の1年生を教えるべきなんです。何も無かった分野から研究を立ち上げた先生は、教科書には書いていない行間、例えばなぜこの発明者はこう考えたか?というところに学生の眼を向けさせることができるんですから。
自分は、フロリダにあるディズニーワールドや、ディズニーのアトラクションを開発するウォルト・ディズニーイマジニアリング社にも詳しいので、先端研でツアーを組んで勉強にいきましょうか(笑)。イマジネーション(imagination)とエンジニアリング(engineering)を融合したイマジニア(imagineer)の資質が最先端研究の場では求められると思います。
医療分野で社会に還元できる研究と、人間力の高い若者を育てる教育の両面で、これからも前進し続けたいと思っています。

(インタビュー実施:2010年11月24日)
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