「完全にチーム小宮山の賞ですよ」
日本化学会賞を受けた小宮山眞教授に聞く
- 先端研ニュース
2011年2月16日
今般、小宮山眞教授(生命反応化学分野)が、平成22年度の日本化学会賞に決定しました(授賞式は3月)。そこで、小宮山教授に受賞理由となった「化学ツールを活用したゲノム工学の創成」についてお話をうかがいました。
◆この度は受賞おめでとうございます。早速ですが、受賞理由となった研究内容についてご説明いただけますか。
小宮山:化学をベースにして新しいバイオが作れないかという研究です。洗剤の宣伝で酵素パワーという言葉を耳にしたことがあると思いますが、あれは大腸菌からプラスミドというDNAをとってきて、制限酵素という天然のはさみで切り、それをリガーゼというのりでつないで大腸菌に戻すことで作られているんですね。
プラスミドのDNAは小さくて、塩基対は4000個くらい。もちろん、4000個も大きいんですがヒトは30億ですからこの間には100万倍程度の差があるわけで、そうなると天然の制限酵素では無理。そこで、化学の力で大きなDNAの好きなところを切っていろいろなことをできるようになりたい、そう思ったんですね。
◆なるほど、それが「化学ツール」につながるわけですか。
小宮山:自分たちで勝手に命名したんですけどね(笑)。 ご存知のようにDNAは二重螺旋でA-T対、G-C対という塩基対からなっています。ヒトの細胞の場合、たった1個の細胞のDNAでも真っ直ぐに伸ばすと人の身長と同じくらい。この中の一箇所だけを目的どおりに変えたい。例えると東京から博多までの1千キロに0.3ミリおきに線を入れると大体、30億本。このうちの一本をターゲットにするので1千キロの線路のどこかの脇にあるお地蔵さんの鼻の上のほくろに線を入れる、そんな感覚ですね。
私たちが開発したのは、PNAというDNAと同じような形を持った化合物とセリウムEDTA錯体との組み合わせです。PNAは切りたい場所の反応性を高める役割、セリウムは1本のDNAを切る触媒で、PNAを入れるとDNAの1本の螺旋とA-T、G-C対で結合します。従って、2本のPNAをずらして入れると相手のいないDNA、即ち1本鎖になったDNAが出現し、セリウムがその1本のDNAを切る、というわけです。
私がDNAの仕事を始めたのが23、4年前でその時は常識としてDNAは切れないことになっていたんです、酵素を使う以外は。定年までに切れればいいなって思っていましたね。それが、セリウムにDNAを切る性質があることがわかって、こういう議論がまともにできるようになりました。ただ、実際にDNAが決まった場所できちんと切れるようになるまでにその後、かなりの時間がかかりましたが。
◆このツールを使って、何ができるようになるのでしょう?
小宮山:細胞の外で使うツールとしてはまあ80%くらいの完成度なんですが、ヒトのゲノムを細胞の中からとってくる術と、それをもとに戻すテクノロジーがまだ無いんですね。ただ、細胞の中でDNAを切ると、これを修復する「相同組み換え」という手段が細胞には備わっています。ここで、切れたDNAを修復するときに同じお手本なら元に戻るだけですが、部分的に変えたものをお手本にすると、このお手本にしたがってゲノムを変えながら修復してくれます。
まだ全体は完成していないのですが、私たちのツールを使えば、がん細胞の原因となっているところを切ることはできます。そこで正常な遺伝子を別個に作り、細胞の中に混ぜて相同組み換えを起こせば、がんに関係ない正常な遺伝子に修復できます。原理的にはできる筈なんですけどね。遺伝子病の治療にも可能性は広がっていると思います。
◆これまでで一番大変だったことは?
小宮山:それはもうたくさん、たくさんありました。それでも学生さんが頑張ってくれました。きっとDNAを改変できるのは素晴らしいよなって納得してくれたんだと思います、本当のところはわかりませんけどね。初めて今のような形になったのは4、5年前なので、それ以前に卒業した学生は信じられないんじゃないですか、こんなにうまくいくって。完全にチーム小宮山への賞ですよ。
◆これからの展開は?
小宮山:ここまでくると、関心を持つ方も増えて医学部系からも随分、お声をかけていただきます。国際学会で発表すると、ひとつは共同研究の話が持ち上がるというくらいの反響はありますね。今も国内外あわせると6、7ヶ所とやっているんじゃないでしょうか、うまくいくかはわからないけど(笑)。
とにかく今は、成功事例をなんとか出したいとがんばっているんですが、なかなか。細胞を扱うのは難しいですね、ものすごく個性もあるし、ちょっと厄介です。
でもいいじゃないですか、狙ったところでDNAがちゃんと切れて、何かが得られたらって夢があるじゃないですか。生きているうちになんとかしたいですね。最近は体にガタがきちゃって(苦笑)。それでもまぁ、考えようによっては、この歳になって学生じみたことを言いながら夢を追いかけられるっていうのは、幸せですよね。
(インタビュー実施日:2011年2月9日)
◆この度は受賞おめでとうございます。早速ですが、受賞理由となった研究内容についてご説明いただけますか。
小宮山:化学をベースにして新しいバイオが作れないかという研究です。洗剤の宣伝で酵素パワーという言葉を耳にしたことがあると思いますが、あれは大腸菌からプラスミドというDNAをとってきて、制限酵素という天然のはさみで切り、それをリガーゼというのりでつないで大腸菌に戻すことで作られているんですね。
プラスミドのDNAは小さくて、塩基対は4000個くらい。もちろん、4000個も大きいんですがヒトは30億ですからこの間には100万倍程度の差があるわけで、そうなると天然の制限酵素では無理。そこで、化学の力で大きなDNAの好きなところを切っていろいろなことをできるようになりたい、そう思ったんですね。
◆なるほど、それが「化学ツール」につながるわけですか。
小宮山:自分たちで勝手に命名したんですけどね(笑)。 ご存知のようにDNAは二重螺旋でA-T対、G-C対という塩基対からなっています。ヒトの細胞の場合、たった1個の細胞のDNAでも真っ直ぐに伸ばすと人の身長と同じくらい。この中の一箇所だけを目的どおりに変えたい。例えると東京から博多までの1千キロに0.3ミリおきに線を入れると大体、30億本。このうちの一本をターゲットにするので1千キロの線路のどこかの脇にあるお地蔵さんの鼻の上のほくろに線を入れる、そんな感覚ですね。
私たちが開発したのは、PNAというDNAと同じような形を持った化合物とセリウムEDTA錯体との組み合わせです。PNAは切りたい場所の反応性を高める役割、セリウムは1本のDNAを切る触媒で、PNAを入れるとDNAの1本の螺旋とA-T、G-C対で結合します。従って、2本のPNAをずらして入れると相手のいないDNA、即ち1本鎖になったDNAが出現し、セリウムがその1本のDNAを切る、というわけです。
私がDNAの仕事を始めたのが23、4年前でその時は常識としてDNAは切れないことになっていたんです、酵素を使う以外は。定年までに切れればいいなって思っていましたね。それが、セリウムにDNAを切る性質があることがわかって、こういう議論がまともにできるようになりました。ただ、実際にDNAが決まった場所できちんと切れるようになるまでにその後、かなりの時間がかかりましたが。
◆このツールを使って、何ができるようになるのでしょう?
小宮山:細胞の外で使うツールとしてはまあ80%くらいの完成度なんですが、ヒトのゲノムを細胞の中からとってくる術と、それをもとに戻すテクノロジーがまだ無いんですね。ただ、細胞の中でDNAを切ると、これを修復する「相同組み換え」という手段が細胞には備わっています。ここで、切れたDNAを修復するときに同じお手本なら元に戻るだけですが、部分的に変えたものをお手本にすると、このお手本にしたがってゲノムを変えながら修復してくれます。
まだ全体は完成していないのですが、私たちのツールを使えば、がん細胞の原因となっているところを切ることはできます。そこで正常な遺伝子を別個に作り、細胞の中に混ぜて相同組み換えを起こせば、がんに関係ない正常な遺伝子に修復できます。原理的にはできる筈なんですけどね。遺伝子病の治療にも可能性は広がっていると思います。
◆これまでで一番大変だったことは?
小宮山:それはもうたくさん、たくさんありました。それでも学生さんが頑張ってくれました。きっとDNAを改変できるのは素晴らしいよなって納得してくれたんだと思います、本当のところはわかりませんけどね。初めて今のような形になったのは4、5年前なので、それ以前に卒業した学生は信じられないんじゃないですか、こんなにうまくいくって。完全にチーム小宮山への賞ですよ。
◆これからの展開は?
小宮山:ここまでくると、関心を持つ方も増えて医学部系からも随分、お声をかけていただきます。国際学会で発表すると、ひとつは共同研究の話が持ち上がるというくらいの反響はありますね。今も国内外あわせると6、7ヶ所とやっているんじゃないでしょうか、うまくいくかはわからないけど(笑)。
とにかく今は、成功事例をなんとか出したいとがんばっているんですが、なかなか。細胞を扱うのは難しいですね、ものすごく個性もあるし、ちょっと厄介です。
でもいいじゃないですか、狙ったところでDNAがちゃんと切れて、何かが得られたらって夢があるじゃないですか。生きているうちになんとかしたいですね。最近は体にガタがきちゃって(苦笑)。それでもまぁ、考えようによっては、この歳になって学生じみたことを言いながら夢を追いかけられるっていうのは、幸せですよね。
(インタビュー実施日:2011年2月9日)

