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福島教授が第9回ヘルシー・ソサエティ賞(教育者部門)を受賞!

  • 受賞

2013年3月19日


図1

福島智教授(バリアフリー)が2013年3月19日、第9回ヘルシー・ソサエティ賞(教育者部門)を受賞しました。
この賞は、よりよい明日に向け、健全な社会と地域社会の幸せを願い、さまざまな分野で指導的役割を果たした人々を称えることを目的に、 公益社団法人日本看護協会とジョンソン・エンド・ジョンソングループ日本法人各社によって創設されました。
福島教授を含む受賞者6名は、東宮御所で皇太子殿下のご接見を賜りました。 受賞式には、安倍晋三総理大臣、麻生太郎財務大臣、茂木敏充経済産業大臣、田村憲久厚生労働大臣がご出席され、祝辞を頂きました。

ヘルシー・ソサエティ賞を賜って
このたびは栄誉ある賞を賜り、誠にありがとうございます。

私は9歳の時に視力を失いました。最後に見た鮮明な影像は、病院の庭の枇杷の木になっている実が、 初夏の陽射しの中で淡いオレンジ色に輝いていた光景だと思います。
そして私は18歳の時、聴力も失いました。最後に私がかすかに聞いた音は、 友人が私の耳のそばで「福島!」と必死で叫ぶ声だったように記憶しています。

目が見えなくて同時に耳が聞こえない人を、英語では「deafblind people」、日本語では「盲ろう者」と呼びます。 最も有名な盲ろう者は、ヘレン・ケラーさんだと思いますが、その他の盲ろう者はほとんど知られていません。 しかし日本だけでも、およそ2万人いるといわれます。

私が盲ろう者となって最も強く感じたことは、私がまさに「他者の手によって生かされている」ということです。 私が教員を務める東京大学で何度か、学生たちに盲ろう者の疑似体験をしてもらいました。 アイマスクとヘッドフォンを付けた盲ろう者役と、何も付けないサポート役でペアを組み、30分ほど教室の内外を歩いたり、 声を使わない会話に挑戦したりしてもらいます。
盲ろう者役になった学生は、最初ひどく不安そうですが、そのうち、どうにかして他の人とことばを交わそうとします。
そして、セッションの後、多くの学生がコミュニケーションの重要さを再認識すると共に、 たとえば、サポート役の学生がガイドしてくれた手のぬくもりについて、「人の手がこんなに温かいものだと、 初めて実感しました」といった驚きを述べてくれました。

ところで、「ヘルシー・ソサエティ」とは何でしょうか。たとえば病人のいない社会、従って、 お医者さんも必要のない社会なのでしょうか。私は違うと思います。どんな人間でも、人生のどこかで、だれかの手助けを受けているはずです。
ある社会は、それを構成する人たちが全員強くなることを目標とするのではなく、互いの弱さを補い合うことによって、 結果的にはさまざまな困難に対応可能な、しなやかで粘り強い社会になるのではないでしょうか。
また、どれほど偉大な人物でも、一人の人間がその社会のすべての人を愛することはできないでしょう。 それと同様に、ある一人の偉大な個人を社会全体が熱狂的に礼賛するとすれば、それは健康な社会とは言えないと思います。
健康な社会とは、その社会が柔軟性と多様性を保ちながら発展する社会です。そのためには、その社会の構成員どうしが、 身近で具体的な他者の一人ひとりの人生の尊さに、相互に敬意を払うことが大切だと思います。とりわけ、弱い立場に置かれがちな人、 不利な状況に陥ってしまっている人の心と繋がる努力が軽視されるべきではありません。 そうした営みこそが、健康な社会づくりに結び付くのだと思います。

今後も私は、自らの体験を踏まえながら、「健康な社会」づくりのために、微力を尽くしたいと存じます。

福島 智
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