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祝・第11回 江崎玲於奈賞 受賞! 中村 泰信教授を直撃しました。

  • 先端研ニュース

2014年9月9日

2014年9月2日、中村 泰信教授(量子情報物理工学)が第11回江崎玲於奈賞を受賞することに決定しました。そこで、さっそく中村教授に今回の受賞と先端研での今後の研究について伺いました。

  • 中村 泰信教授

    この後サッカーの練習に行かれた (かもしれない)中村 泰信 教授

  • ~ 江崎玲於奈賞とは? ~

    ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏が 理事長を務める財団などが創設した賞で、 極めて小さな物質を扱う「ナノテクノロジー」の 分野で優れた業績を挙げた研究者に贈られる。

    一般財団法人茨城県科学技術振興財団別ウィンドウで開く

受賞おめでとうございます。
受賞された研究「超伝導量子ビットシステムの研究」について、簡単に教えてください。

中村:
将来のコンピュータの重要な構成要素として期待される「量子ビット」(注1)を、金属配線の電気抵抗がなくなる超伝導体を用いた回路の上で作ることに成功した研究で、私たちが初めて実現したのは1999年です。それまでは固体のデバイスで量子ビットができるという例がひとつもなく、注目を集めました。

(注1)量子ビット:量子コンピュータで扱われる情報の最小単位。普通のデジタル情報処理で扱われる情報単位「ビット」に比べ、0と1の「量子重ね合わせ状態」が可能という不思議な性質を持つ。そのため、普通の情報処理に比べ、量子コンピュータで一度に扱うことができる情報の量は格段に多い。

どんな研究なのでしょう?

中村:
「超伝導量子ビット」ではなく「超伝導人工原子…」という言葉で説明することもあります。自然界の原子は原子核があって、その周りを電子がグルグル回っています。電子は原子の周りに閉じ込められていて、電子の取り得るエネルギー準位はとびとびになっています。これが、100年あまり前に量子力学の考え方が生まれて初めて説明された原子の特徴なのです。
一方で、私たちの研究では、超伝導回路の中に、不連続なエネルギー準位を実現します。その中で一番エネルギーの低い状態と次の状態を使って0と1を表現し、「量子ビット」として使います。情報処理の観点から見ると「量子ビット」となりますが、物理現象として見ると、「量子ビット」は人工的な原子と見なすこともできます。

ある意味、私たちが超伝導回路を用いて取り組んでいるのは、2012年にノーベル物理学賞を受賞したアロシュ博士とワインランド博士の研究 (注2)と同様のことです。ただ、原子と違い、回路を作ってしまえば人工原子である「量子ビット」はうごいたりしないので扱いが簡単ですし、好きなパラメータで設計することもできます。言ってみれば「原子をデザインする」ことができるので、人工原子とマイクロ波の光子(注3)の間の相互作用がどうなるかを実験的に研究できる状況になりました。

(注2) 受賞理由 "for ground-breaking experimental methods that enable measuring and manipulation of individual quantum systems"。 たったひとつの原子を真空中で捕まえて、原子と光子の相互作用を1原子1光子レベルできちんと制御するという研究。

(注3)マイクロ波も光と同様、電磁波の一種なので、その量子として「マイクロ波の光子」を考えることができる。

先端研でも「超伝導量子ビット」の研究を行っているのですか?

中村:
受賞した研究の一部は今も続けています。しかし20年近く関連した研究を続けてきたので、新しいこともやりたいと思っています。もともと量子力学に関する私の研究は、物理的興味からスタートしたんです。量子力学は原子などの非常に小さなスケールでの世界では成り立っていることが昔から知られていますが、私たちの日常生活ではそれを知覚することができません。 理論上はどんなスケールでも成り立ってしかるべきなのに、どうして目で見えるレベルでは量子現象が起こらないんだろう?と、本当に純粋な興味でした。でも、超伝導量子ビットの研究でそれを実証することができました。

実際に私たちが「量子ビット」と呼んでいる回路は、大きさが1mmくらいあるんです。だから目で見えますよね? もちろんそこでの量子力学的なふるまいが目に見えるわけではないのですが、電気的に測定するとちゃんと量子力学に従って動作していることがわかります。つまり、量子の状態を自由に制御できるツールとして使えるようになったということなので、今度はそれを使って超伝導回路以外のものを制御して、そこでも量子力学の効果を生み出そうとしています。

超伝導回路以外のものというと、例えば?

中村:
ひとつは「ナノメカニクス」と言われる半導体微細加工技術で実現するナノスケールのバネや薄膜の振動運動です。これに関しては現在世界中で盛んに研究が行われています。原子などよりずっと重い物体の運動が量子力学に従う証拠が見えつつあります。
もうひとつ、私の研究室のオリジナルは「強磁性体」、磁石です。磁石のふるまいも実は量子力学的で、その様子を超伝導回路を使って制御する研究です。今、その実験がうまくいっていて、この前ひとつ論文が出たところです。

[Hybridizing ferromagnetic magnons and microwave photons in the quantum limit,Y. Tabuchi et al., Phys. Rev. Lett. 113, 083603 (2014).]別ウィンドウで開く

ナノメカニカル素子や強磁性体には、量子インターフェースと呼ばれる応用が期待できます。例えば複数の超伝導量子コンピュータ間で量子情報ネットワークを実現するためには、通信を担う光ファイバ網と超伝導回路の間で量子情報をやりとりしなければなりませんが、光が直接超伝導回路に当たると、エネルギーが大きすぎて超伝導状態が壊れてしまいます。そのために、あいだにナノメカニクスや強磁性体を介して超伝導回路が量子情報のみを受け取れるようにする、ということを想定して研究を進めています。

今後の研究をひとことで表現すると?

中村:
「量子の達人になる!」。これは駒場リサーチキャンパスでの研究室公開のスローガンです。古典物理学では、計算して予想されることは、基本的に自分たちが知覚できる現象ですが、量子のふるまいは私たちの認識能力を超えていますよね?まだまだ謎がいっぱいです。一方で、植物の光合成といった身近なところでも、量子力学的な効果が作用して効率を上げているという最近の研究もあります。その不思議さが何より面白いんです。

これまで、量子力学は、半導体デバイスなどの動作原理を与える縁の下の力持ち的存在として応用されていました。一方、現在注目されている量子情報科学では、それを情報処理の表舞台で活かせないか、という興味が出発点になっています。私たちの分野の研究者はみんな、量子エンジニアリングとも言うべき、量子の性質を根本から活かすことのできる技術を発展させたいと思って研究を進めています。

私の研究室には、それぞれに量子に興味を持ちながら全く異なる実験技術のバックグラウンドを持つ研究者が集まっています。彼らと一緒に楽しく議論しながら、量子力学を自由自在に操り制御する「量子の達人」を目指します。

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「量子の達人」を目指す中村・宇佐見研究室の研究

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