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ペロブスカイト太陽電池の結晶相に「超格子構造」を発見

  • 研究成果

2018年2月26日

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2014年9月に「太陽光発電開発戦略」を策定し、発電コスト低減目標として、2020年に14円/kWh、2030年に7円/kWhを掲げています。
東京大学先端科学技術研究センターでは、この目標に向けて2015年よりNEDOの研究開発プロジェクト「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/革新的新構造太陽電池の研究開発/ペロブスカイト系革新的低製造コスト太陽電池の研究開発」(PL:瀬川浩司教授)を受託し、高性能と高信頼性を両立したペロブスカイト太陽電池の開発を進めてきました。
ペロブスカイト太陽電池は日本発の太陽電池で、塗布製造できることが大きな特徴であり、既存の太陽電池に比べて大幅なコストダウンが期待できるうえ、最近では22.7%の高い変換効率も報告されています。 ペロブスカイト太陽電池の更なる高効率化には、発電機構解明やペロブスカイト結晶の構造を詳細に明らかにするなどの基礎研究が欠かせません。しかしながらこれまで結晶構造に関する詳細な報告はなされてきませんでした。

東京大学先端科学技術研究センター 高機能材料分野の内田聡特任教授、松下智紀助教、近藤高志教授、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻の 金泰雄特任研究員、瀬川浩司教授らの研究グループは、高分解能電子顕微鏡を駆使して有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池の結晶相のナノ構造微細観察を詳細に進めた結果、従来、室温では正方晶(Tetragonal)しか存在しないと思われていた有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池の結晶相に立方晶(Cubic)と正方晶(Tetragonal)が共存していることを発見しました。
更にこの立方晶(Cubic)と正方晶(Tetragonal)は、塗布しただけで自発的に規則正しく交互に規則配列した超格子構造(Superlattice)になっていることを世界で初めて確認しました。

【研究内容】

ペロブスカイト太陽電池は、今や世界の太陽電池開発を席巻しています。2018年1月現在、エネルギー変換効率はNRELチャート上で22.7%が報告されています)。 この値は同じくNRELチャート上でCIGS(22.6%)、CdTe(22.1%)、多結晶Si(22.3%)など競合するデバイスの効率を上回っており、しかもそれが大規模設備の不要な溶液プロセスなどで実現できるのが注目される理由の一つです。 また登場してわずか数年でこの効率に到達した進化の速さも注目されています。 昨年はペロブスカイト太陽電池がノーベル賞の受賞対象候補としても取り上げられ世間を賑わせました。
更に高い「効率」「耐久性」「低コスト」をバランスさせながら、実用デバイスとしての産業化が期待されています。

研究グループは、最先端の電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 TEM, HF-3300)と集束イオンビーム(FIB, NB-5000)を駆使し、ペロブスカイト太陽電池のナノ構造微細観察を進めてきました。 今回は追加の装置として大気遮断TEMホルダーや温度可変ユニットを使用し、ペロブスカイト試料にできるだけダメージを与えないよう細心の注意を払いナノレベル(最大倍率×1,000,000)での高解像度のイメージを撮影することに成功しました。

従来、室温では正方晶(Tetragonal)しか存在しないと思われていたペロブスカイト層中に、ほぼ全領域に渡って立方晶(Cubic)も共存することが明らかとなりました(図1)。この結晶相の混合状態は作製方法が異なるペロブスカイトや、あるいは高効率化のために各種添加剤を加えたペロブスカイトいずれの試料においても観察されました。また各結晶相の大きさは直径にして5~10nm程度の不均質な粒子状からなり、いわゆるナノグレインを形成していることが分かりました。

図1

図1:

電界放出形透過電子顕微鏡を用いた有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池(CH3NH3PbI3)のナノ構造微細観察結果 : ペロブスカイト層の高解像度TEM像と、その一部の領域の画像データをフーリエ変換した電子線回折像、a) HRTEM像(×1,000K)、 b)正方晶(Tetragonal)を示すフーリエ変換像、c)立方晶(Cubic)を示すフーリエ変換像

更に解析を進めると、これら一部の混晶には規則性があり、場所によっては「正方晶(Tetragonal)-立方晶(Cubic)-正方晶(Tetragonal)」3ユニットが1つの単位格子を構成し、超格子(Superlattice)が形成されていることが分かりました(図2)。

図2

図2:

ペロブスカイト層における高解像度TEM像、その一部の領域の画像データを抜き出しフーリエ変換した電子線回折像の再現結果:a)HRTEM像(×1,000K)、b)正方晶(Tetragonal)と立方晶(Cubic)が規則配列して超格子(Superlattice)を形成することでできる超格子(Superlattice)の存在を示すフーリエ変換像、c)電子線回折像(b)から更に再現しなおしたTEM像の拡大図

効率20%を越える有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池の中身が、実は結晶構造の異なる(即ち格子サイズや光学特性の異なる)結晶相の混合状態になっているというのは従来の常識を覆す驚きの発見です。また、基板に塗布しただけで、その一部が自発的に超格子構造を取ることは大きな発見です。今後、結晶工学的な立場から相のコントロールを試みることで更なる高効率化が期待されています。

【論文情報】

著者:
T.W. Kim, S. Uchida,T. Matsushita, L. Cojocaru, R. Jono, K. Kimura,D. Matsubara, M. Shirai, K. Ito, H. Matsumoto, T. Kondo and H. Segawa

論文題目:
Self-Organized Superlattice and Phase Coexistence inside Thin Film Organometal Perovskite
(有機ハライドペロブスカイトの自己組織化超格子と混晶)

掲載誌:Advanced Materials

DOI: 

10.1002/adma.201705230別ウィンドウで開く

【用語説明】
ペロブスカイト:鉱物を分類する上で名付けられた結晶構造の名前。通常、化学組成ABOX(AとBは金属)で表される。ペロブスカイト太陽電池の場合は主にCH3NH3PbI3組成のものが使われる。

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