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人間に寄りそう技術を求めて

研究内容 人間に寄りそう技術を求めて 生命・情報ネットワーク 助教授 井野 秀一

研究室というよりも、むしろ工作室のよう。電子部品が納められた棚もあれば、地下には旋盤が置いてあり、さらには溶接までもできるようになっている。無音室まである。

井野秀一助教授が専門としているのは「福祉工学」。人間の衰えた機能を支援する技術を開発している。同じ研究室の伊福部達教授とともに、たとえば、のどを震わせて声をつくるための抑揚つき人工喉頭や、音声を認識しての字幕システムなどをこれまで開発してきた。あくまで等身大の人間が使うための設計である。

  • 井野先生の写真
  • 学部時代は透明なガラス管を利用したレーザー光線の発振装置を試行錯誤で作り、それを使って、二酸化炭素を測定していた。大気中での濃度をはかることも重要だが、もともと「ひと」に興味があり、人間の呼気の二酸化炭素濃度を調べた。そして大学院で伊福部先生の研究室に進学する。

「やわらかさ」への挑戦

現在とりくんでいる研究のひとつは、「水素吸蔵着合金」という特殊な粉末を利用して、体に装着しやすい装置を開発するというもの。20℃以上に熱を加えると大量の水素を放出し、冷やすと水素を吸収する。体積変化は約1000倍になるので、それを利用して機械を動かしていく。

車いすにとりつければ、座面をあげて、立ち上がる動作をサポートしてくれる。あるいは、骨折したときのギプスや脳卒中で動かすことのできない部位では、ゆっくり動かしほぐすことによって、関節の拘縮を防ぐことができるようになる。

原理にさかのぼって

伊福部・井野研究室では、そのほかにもいくつもの研究が同時に進んでいる。

こういうものがあったらいい。そうした思いをもとに企業や大学の研究室を訪れて利用できそうな材料やデバイスなどについて話を聞く。そのなかから、必要なものは協力して作っていく。ときには物理的な原理にまでさかのぼる。ユーザの視点からの心理学実験も行う。「わたし自身は電子工学出身ですし、研究室には機械や情報、バイオ、物理など、さまざまな学科出身の人たちがいます。隣の研究室にはバリアフリーに関わる心理学や教育学などを専門とする人たちがいます。それぞれの異なる専門性が、お互いの研究に自然といかされています」。そのためにも、学部で培った基礎が重要になるという。

社会人で理学療法士の資格をもつ院生や、工業試験場からの院生も受け入れて共に研究を行っている。実際に使う場面を想定しながら、人間に寄りそった研究を進めている。

研究方法論(イラスト)

インタビュアー:住田 朋久

(2005年11月9日)

    • 装置の写真
    • 人間の体に直接触れる技術だけに、心地よい装置が求められる。軽くて小さく、大きな力がでる。そしてやわらかく、音が静か。そんな材料を探していた15年ほど前に、水素吸蔵着合金に出会った。金属全体に熱が伝わりやすいように粉末にして銅の膜でコーティングし、水素の容器は硬い金属から、レトルトのパックのようなやわらかいものに工夫をした。そして現在、ひじの関節などに実際に心地よくとりつけられるように改良を重ねている。

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