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「アカデミックベンチャー」という仕事

研究内容 「アカデミックベンチャー」という仕事 知的創造マネジメント専門職育成ユニット 特任教授 妹尾 堅一郎

ある事柄の本質を言葉によって把握するコンセプトワーク

直前まで妹尾教授は霞ヶ関関係者と打合せがあり、その後に滑り込ませてもらった貴重な時間。きっかけはこの5月に上梓された『グリッド時代』(株式会社アスキー)でした。同書で妹尾教授が示している時代観、19世紀は「物質」の時代、20世紀は「エネルギー」の時代、21世紀は「情報」の時代という100年ごとのパラダイムシフトを踏まえて、グリッドという新しいコンセプトを取り入れるとサービスイノベーションが可能となると示唆されていることに非常に興味を覚えたのです。

そう切り出すと大きく頷きながら、「大企業の役員クラスにも評判で、よく役員会で話してくれと言われるんです」と妹尾教授。役員向けの知財マネジメント研修でこの話をすると、これまで表層的にとらえていた知的財産の現代的な意味が見えてくるということらしいのです。これこそが、ある事柄の本質を言葉によって把握するコンセプトワークの醍醐味なのでしょう。それが、妹尾教授が取り組んでいる先端的な研究の一端なのです。

アカデミックベンチャーとして様々な分野に出没できる創出モデル

コンセプトワークでは、斬新なモデルをいくつも創出してきました。例えば、新知識の創出モデルとして「インター(学際知)」「ニッチ(間隙知)」「フュージョン(融合知)」「トランス(横断知)」「メタ(上位知)」「フロンティア(尖端知)」の6類型を提案しましたが、現在これは学問の創出のみならず、新規事業創出のモデルとしても使われ始めています。ちなみに妹尾教授の本来の専門は、問題学・構想学という「トランス」系の新規分野の開拓なので、アカデミックベンチャーとして様々な分野に出没できるのだそうです。

技術の事業性を評価する「見巧者(みごうしゃ)」の役割が重要

今、産学連携では、技術の目利きだけではなく、技術の事業性を評価する「見巧者(みごうしゃ)」の役割が重要であるといいます。つまり、科学技術を的確なコンセプトで「意味づけ・意義づけ・位置づけ」る役割が求められているのです。グリッドを例にすると、技術の核にある本質をコンセプトとして普遍化することによって、サービス全般に適用できるのではないか、というように事象と概念とを現場レベルで結びつけることになります。ただし、学術的な裏づけを基にしないとジャーナリズムとの境界が曖昧になりかねなません。それに注意を払いつつ、すれすれの領域でやることに意味があるわけです。

コンセプトワークとそれに基づくモデル形成、そして実践への展開

  • 妹尾先生の写真
  • 特任教授としての主たる業務は、先端研知財マネジメントスクールの校長役です。そこでは、先端領域で活躍すべき先端人材を育成するための学習モデルを提示・実践して、知財関係者や教育系の学会で評判となりました。従来の、“確かめられて体系立てられた知識を順序だてて教える”という「知識伝授モデル」ではそもそも先端知識は生まれない。逆に、学ぶ側を中心にした「学習支援モデル」にも限界がある。そこで、お互いが“教えあい・学びあう”「互学互習モデル」を提案し、知見を次々に生み出す「場と機会」の提供を主軸とした実践カリキュラムを実行したのです。実は、このようなやり方は、妹尾教授が得意とする「コンセプトワークとそれに基づくモデル形成、そして実践への展開」というスタイルです。先述の産学連携や技術の事業化を通じた社会貢献も同様です。こういった活動で文理融合の領域を開拓することが、自らをアカデミックベンチャーと呼ぶ由縁だと妹尾教授は言います。

ところが残念ながらこれまで、先端研ではなかなか本来のアカデミックベンチャーを発揮する機会がありませんでした。「先端研だからこそできることは?」と最後に問うと、「自由に研究させてもらっているのが実は一番嬉しいけれど、もっと自分を使ってもらっても良いのではないか、という気持ちもありますね」との言葉が優しい笑顔と共に返ってきました。

聞き手:神野智世子

(2006年10月23日)

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