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航空決戰必勝の鍵 白鷗會 〔復刻版〕
昭和十八年八月二十日

三、航空決戰必勝の鍵

3 航空に関する科學技術研究機関の問題

次に航空に関する科學技術研究機関の問題について申し上げます。航空機が現下航空決戰に於ける最も重要なる兵器であり、しかもこれがあらゆる科學技術の綜合体である以上、其の最新鋭を期する爲には航空に関する科學技術の研究を飛躍的に促進することが必要であることは今更申し上げる迄もありません。

敵米國の於きましては優秀な飛行機を多量に生産する爲には、航空に関する科學及び技術の研究が不可欠的に重要であると云ふ事を以前より充分承知致しまして、今より30年前既に政府の機関として國家航空諮問會(俗にN.A.C.Aと呼ぶ)と云ふものを設け、之を中心として陸海軍はもとより各大學の研究所、民間會社の研究機関等と緊密な連繋を保つて実験研究を續けて来て居るのであります。この國家航空諮問會の組織は大統領が任命する十五名の委員會がもとに航空力學、動力、材料、構造の四分科會をおき、これが科學技術研究上の大綱を決定し個々の実験研究は直属の研究所(ラングレー)を持ち、夫々の研究所員に研究せしめると同時に全國研究機関の統合管理をも掌ると云ふ仕組みになって居るのです。

このN.A.C.Aは創立当時は年僅かに5,000弗位の經費でやつて居りましたのが、第二次歐洲大戰勃発当時(昭和十四年四月)は実にこの二十倍の10万弗を突破し研究所員も九百名以上に達して居つたのですから現在に於ては更にこの数倍に上つて居る事と考へられます。決戰下の彼等は彼等が世界一と誇示するこのN.A.C.Aの研究陣容に對してたゞ一途最大の希望をかけて、日本必滅の自負心に満ち満ちてこの決戰を挑んで来て居るわけなのです。

これに對して我が方の陣容はどうか? 我々の研究所も戰前に比べて数倍の拡張が計画せされ現に実施されつゝありますが、陸海軍部の研究機関も畫期的に拡充強化されつゝあります。又民間航空工業方面に於てもこの方面の飛躍的拡充強化をされつゝあります。

しかして彼のN.A.C.Aに相当すべき大日本航空技術協會と称する會も昨年五月結成せられ、前の我が研究所々長、現内閣技術院次長和田小六工學博士が會長に就任せられまして、全國の航空科學技術研究陣容の統合強化につとめて居られます。

併し乍ら甚だ残念な事乍らこの点に於ては一歩も否数歩も彼に立ちおくれて居る現状であります。年数に於ても經費の点につきましても又規模の点におきましても彼の十分の一にも及ばなかつた有様で、ほんの開戰直前迄彼等の學術及び科學技術に依存して居つた向が多々あつたのです。

前述の如く現下戰爭遂行の途上、諸外國の研究上の門戸は厳に閉鎖されてしまつた今日、今こそ眞に日本的學術、日本的科學技術を確立して急速にこの方面に於ける劣勢を挽回し、更に躍進して彼等先進の學術並に科學技術を圧倒し、一年にして日本は技術的に行きづまると樂觀して居た彼等の自負心を徹底的に破碎する事も航空決戰必勝の一つの鍵であります。

即ちこの研究陣容に於ても亦10:1の比率を断然打ち破らねばなりません。我々と致しましても責任の重大なるを痛感致しまして、前線勇士に負けない心構へを以て奉公を誓つて居る次第、諸君におかれましてもこの間の現状を充分認識して御勉強の程切望して止みません。

更に諸君に一言つけ加へたい事は、我々の祖先にも表具師幸吉とか、二宮忠八等の如く彼のリリエンタールやライト兄弟に互して、既に空への挑戰を企図して時の政府に罪人あつかひにされたり或は衆人に狂人あつかひにされ乍らも研究に精進致しました先學者が有つた事を回顧せられ、我々の身体にもこうした発明者の血潮が流れて居る事を銘記して、独創的の頭腦に於ても技術上の巧緻に於ても決して彼等米英人に劣らないのだと云ふ信念を持つて、今こそ我が大和民族本来の科學技術の振起興隆を期していたゞきたいと存じます。切に諸君の御勉強を御願ひ致します。

<1996年1月発行 先端研探検団 第二回報告書38頁 掲載>

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