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秒4万コマの超高速活動写真 立花 隆

落下試験のフィルムの試写会場に、工作工場の中川さん、桜井さんが、「工作工場からこんなものが出てきました」
と、またまた珍しい資料を持ってきてくれた。下の写真に示した、「超高速活動写真台本」と「顕微鏡活動写真台本」の二冊の小冊子である。「内務省校閲済」のスタンプがポンと押してある。
どちらも落下試験のフィルムがあったあたりから出てきたものだそうだ。

超高速活動写真台本と顕微鏡活動写真台本

実はそのあたりには、落下試験のフィルム以外にも、ぐちゃぐちゃにからみあって、溶けて癒着したフィルムのかたまりがあったそうだ。普通、昭和初期などという古いフィルムは、放っておくとそんなふうに溶けてしまうものだそうで、落下試験のフィルムのようにきれいな状態で残っているものはきわめて珍しいということである。

この小冊子は、置かれた位置からいって、どうもそのぐちゃぐちゃのフィルムの内容を示すものらしい。顕微鏡活動写真のほうは、「金属の流動と破壊」というタイトルがつけられ、「全一巻 二一七米」とフィルムの長さが記されている。台本の解説によれば、金属切削の場合に起こる金属の流動と破壊の様子を顕微鏡映像にして微少な変化を見たもので、昭和三年に作られている。超高速活動写真のほうは、大正一五年に、航空研究所物理部の寺澤寛一教授が作ったもので、いろんな物理現象を、秒1000~6000コマで撮影したものである。顕微鏡活動写真のほうは、台本にサンプル映像がないので、どういう映像だったのかぜんぜんわからないが、こちらのほうは、相当数のサンプル映像写真がついている。たとえば、ガラス球を叩きこわすところ(下の写真)、風洞内部に翼型プロペラを置いたときの気流の変化、ゴム球に空気と水素の混合ガスを入れ、電気花火で爆発させたときの様子などの映像である。

  • ガラス球に二気圧の空気を入れてハンマーで叩きこわしたところ

台本の解説によると、これは十万ボルトの高周波電流を起こし、それでスパークを飛ばして、それを光源にして、急速に動くフィルム上に像を焼きつけるという航研独自の方法で撮影したものである。当時世界の高速度撮影は最高水準のものでも秒1000コマ程度だったから、フランスで開かれた国際航空委員会に持っていって映写したところ各国の学者から絶賛を博したという。

この台本には、航研では現在、秒1万~2万コマ撮影ができる機械を作っている最中で、それが完成すれば、音波や爆発現象を見られるようになるだろうと書かれている。

実際、昭和五年になると、秒速四万コマの撮影機が作られた。

その報告が、航研の研究論文集である「航空研究所彙報第73号(昭和5年9月)」に出てくる。

  • 第一図
  • 火花による撮影は、火花を飛ばす間隔の問題から、秒数千コマが限度だったので、秒数万コマの撮影のためには、全く新しい方式を開発しなければならなかった。第一図がその原理を示すもので、正多角形の反射鏡を用いるというのがアイデアである。正多角形といっても、めちゃくちゃに角数が多い。第一図のAがその反射鏡で、なんとこれが正120角形なのである。つまり、図のような仕掛にしておくと、レンズからはいる映像が、120個の映像に分割されてBのドラムの上に投影される。Bのドラムの上にはフィルムが巻きつけてある。映像の移動速度とフィルムの移動速度が同じになるように両者の回転を調節すると、映像は一コマごとにフィルムの上に固定されて撮影されるのである。Aが毎秒170回転すると、一回転120コマだから、秒20、400コマということになる。しかし、ドラムの上に巻きつけられるフィルムは、600コマが限度なので、実際の撮影時間は、0.03秒が限度ということになる。

  • 第二図
  • 改良された二号機は、第二図のような構造をしている。反射鏡は正多角形でなく、正多角錐形をしているが、基本原理は一号機と同じである。フィルムは円錐Bのお盆型の内面(Eの部分)に巻かれている。反射鏡は180角形で、これが毎分230回転するので、秒41、400コマのスピードで撮影が可能だが、フィルムの長さは1、000コマが限度なので、撮影は、0.024秒が限度ということになる。

    これは世界最高の性能を誇る超高速撮影機で、その成果は世界中の注目を浴びた。

    実例の幾つかを示すと、写真のようになる。

    この撮影機を閧発した栖原豊太郎教授はさらに改良を重ねて、後に秒六万コマの撮影機も完成している。

電球をピストルの弾丸で割ったところ。毎秒3、000コマの撮影。左、中央、右の写真の間は約200コマ離れている。

円筒内の音波の伝播、秒40、500コマの撮影だから一コマごとに音波は約8ミリづつ進んでいる。

<1996年1月発行 先端研探検団 第一回報告書25頁 掲載>

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