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計算科学で基礎から材料を設計 光触媒の性能を上げて、再エネ加速を 佐藤 正寛さん

  • 佐藤 正寛助教

    「研究生活上の悩みは、やりたいことが多すぎることです(笑)。ある意味で答えがわからない、やればやるだけ知りたいことが出てくる研究は刺激的で楽しいものです」

  • 佐藤 正寛 さん 杉山研究室(エネルギーシステム分野)助教

    幼少期を米国で過ごす。東京大学工学部電子情報工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻修士課程修了、2017年東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻博士課程修了。博士(工学)。電気系工学専攻助教を経て、2017年10月より現職。

    先端研には、オーストラリアの太陽光で作った電気を水素にして日本へ運ぶというプロジェクトがある。太陽光発電は変換効率の高さが注目されるが、高効率の太陽電池はコストが高い。佐藤助教が参加するこのプロジェクトでは、低コストで高効率を目指す「光触媒」の開発を同時に進めている。「ただ、現在の光触媒の材料は効率や耐久性の観点から実用化には遠く、光触媒のメリットである“安く・広く”とは相容れないものです。実用化するためには、手当たり次第に様々な材料を試すことより、動作原理を理解して背後にある物理を読み解き、材料を設計する必要があります」。佐藤助教は今、「第一原理計算」を基本としたマルチスケールなモデリング通して材料の基礎物理に踏み込んでいる。

    「第一原理計算」は、経験的な知識を一切使わず、物質の性質を明らかにする。例えば、水が(ある条件で)100℃で沸騰することや、その屈折率が約1.3であることなど、原理的には水のありとあらゆる物性を「Hが2つとOが1つからなる分子」という情報だけから計算する手法だ。佐藤助教は「第一原理計算は1+1=2のような単純な式を使うだけで対象を全て知ることができる、最も美しい計算方法の一つです」という。また、「マルチスケールモデリングとは、ミクロなレベルの情報のみを用いて興味の対象となるマクロな現象をミクロレベルの精度で記述する方法」のこと。「基礎物理を明らかにしないことには、新たな動作方法の探求や合理的な材料設計は困難です」。つまり、急がば回れで、計算で材料設計の基本原理を解明することから始めているのだ。「第一原理計算は、どれだけ現実を“簡単化”した“嘘”のないモデルを作れるかが個人の力量にかかっているところが面白い。自信過剰ですが、自分ならできるのではないかと思いました」と笑う。

    学部から大学院まで電気系に所属し、博士課程で第一原理計算に出会った佐藤助教は、このような研究が電気工学分野ではほとんど試みられていないと知り、自身の研究に取り入れた。「私は工学分野の人間なので、本当に必要なものは何か?と常に考えます。今、高機能材料の開発ですべきことは、基礎物性から見直した上での設計です」。好奇心旺盛な佐藤助教は、専門課程の講義は当時失念していた一学科以外の全ての学科の講義を聴講した。「必要なものは学際領域にあると感じます。ともすれば計算だけにのめり込んで計算のための研究で閉じてしまいがちですが、私は実験をしていたので実験の痛みもわかります。だから、計算分野外の人にとっても意味のあるテーマを追い求めたい。異分野で障害があることは想定内なので、淡々と進めています。将来的には、さまざまな領域の人とそれぞれの得意分野を生かしながらスケールの大きい研究をしたいですね」。好奇心を原動力に、淡々と突き進む。

    (広報誌『RCAST NEWS』110号掲載)

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