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究極のレシピを探して 五月女 真人さん

  • 五月女特任助教

    着任後に蒸着装置の開発に着手し、日々改良を行う。「学生さんと一緒に試行錯誤の毎日です」

  • 五月女 真人 さん 近藤研究室(高機能材料分野)特任助教

    そうとめ まさと 福島県出身。2007年東京大学教養学部理科一類入学、工学部物理工学科へ進学、2011年卒業。2013年東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻修士課程修了、2016年3月同博士課程修了。博士(科学)。東京大学統合物質科学リーダー養成プログラムコース生、日本学術振興会特別研究員、理化学研究所創発物性科学研究センター研究員等を経て2020年11月より現職。

    再生可能エネルギーが注目される中、熾烈を極めているのがペロブスカイト太陽電池の開発だ。「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造の材料を用いた太陽電池は、エネルギー変換効率25%超。現在主流のシリコン系太陽電池の理論変換効率29%に迫る。五月女特任助教の主な研究は、ペロブスカイト半導体の薄膜の作製・評価だ。薄膜は、電子部品などに使われている。「エピタキシー、簡単に言うと、材料を蒸発させて基板に吹き付けて薄膜を作り、膜の性質を調べます。ペロブスカイトの薄膜作製は通常、溶液を基板に垂らし、回転させて薄い膜を作りますが、基盤の大きさに限られる、溶液に溶ける物質しか使えないなどの問題があります。蒸着ならさまざまな材料に適用できます」。ペロブスカイトは新しい材料のため解明されていないことが多く、研究スピードも速い。「わからないことだらけで、実験の設計自体が手探りです。おいしい料理を作るには、材料の切り方や調味料、調理時間などパラメーターがたくさんありますよね?それを1つひとつ探して検証することの繰り返しで、まだ究極のレシピは見つかっていません」

    薄膜作製の難しさは、他にもある。ペロブスカイトは、有機分子、鉛など様々な元素を含み、材料の蒸発の仕方もそれぞれだ。その分、最適な条件を探る過程は、より複雑になる。さらに、人体に害のある鉛を含んだままでは、電気・電子機器における特定有害物質を制限する「RoHS」などの環境適合基準をクリアできず、実用化が難しくなる。五月女特任助教は、鉛を同じ結晶構造を持つスズに置き換える研究も行っている。「作り方次第で性質が変わるところが、材料研究の難しくも面白いところです。前職での専門が超高速分光評価なので、その技術を使って薄膜を使ったデバイスの研究を加速できれば、より速く効率的に材料開発ができるはずです」

    五月女特任助教には先端研で会いたい人がいる。バリアフリー分野の福島智教授だ。「学部時代に点訳ボランティアサークルに所属していて、当時の顧問が福島先生でした。チームで点訳を行った経験は、今の研究の進め方にも活きています。近藤研と福島研が同じ建物にあり、ぜひご挨拶したかったのですが、着任がコロナ禍で、まだお会いする機会がないんです」。現在は、プライベートでパラスポーツのブラインドテニス国内大会運営委員・文書点訳ボランティアをしている。多忙な研究活動との両立は厳しくないのだろうか。「忙しいからやめるというのは…ないですね。他に適任者がいれば、お受けしないことはあるかもしれませんが」。点訳サークルに入った理由は「人の役に立つことをみんなで一緒にやりたかった」から。「太陽電池って社会に近い技術ですよね。研究もボランティアも、人と協力していいものを作ることにやりがいを感じます」。究極のレシピ探しは続く。

    (広報誌『RCAST NEWS』115号掲載)

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