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北極圏の生態系に魅かれて

  • 西澤啓太さん

    東北の「さらっとした穏やかな空気感」が好き。お気に入りの場所は、福島県の裏磐梯。父親の友人がキャンプ場のオーナーで、毎年、遊びに行くのを楽しみにしている。

  • 西澤 啓太さん 森章研究室(生物多様性・生態系サービス分野)助教

    にしざわ けいた 神奈川県出身。2015年横浜国立大学 理工学部卒業。2017年横浜国立大学 環境情報学府 環境生命学専攻修士課程修了、2020年同博士課程修了。博士(環境学)。横浜国立大学 非常勤教員、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、特任助教等を経て2023年2月より現職。

    北緯80度の世界-。夏は太陽が沈まず、人や動物の気配もない。澄み渡った青空の日はテントに注ぐ日差しが暑いほどだ。北極圏にあるカナダ・レゾリュートから、チャーター機で数百キロ北に降りた原野にも、膝下ぐらいの低い草木が生えている。一見すると、ほぼ同じような景色に見えがちだが、果たして同じ密度で同じ植物が生えているのか、なぜこの場所にこのような植物が共存しているのか。生物多様性の宝庫と言われる熱帯雨林と比べると、北極圏の植物に関するデータはまだ少ない。「世界中のデータを分析しているが、場所によって植物の種類が増えたり、減ったり。少しの条件の違いで大きく変わるので、生態学は難しい。だからこそ、その場所に行き、自分の肌感覚で確かめていくのが面白い」と、フィールドワークの醍醐味を語る。

    日本の森を見ても、同じような環境下に多様な種類の樹が混ざり合う。これは、日光の量や土の化学組成、種子の散布過程、シカなど植物を食べる動物の存在などが複雑に絡み合っている。西澤助教は、北極や北海道の知床などで、1m×1mの枠を置き内側に生えている植物のデータを分析し、局所的な多様性を決める要因が何かを研究している。

    幼少期は年中、半袖・半ズボンで、近くの川や山で遊ぶのが大好きな子どもだった。修士課程2年のとき、カナダのツンドラ地帯の街で、イヌイットの文化や広大な自然に感動し、以来、主に北極圏を研究している。博士課程の研究テーマは、グースが生態系に与える影響。カナダのバイロット島という立ち入りが厳しく制限され、グースの営巣地として有名な国立公園と、近くのイヌイットの村を比べた。グースは非常に多くの植物を食べるため、自然界に与える影響も大きい。バイロット島の湿地では、見渡す限りグースが植物を食べ尽くしており、残ったものは背丈が低かった。一方、村では自動車や飛行機といった騒音や人間を恐れてグースが飛来しなくなった結果、植物は島の3倍以上の高さがあり、美しい花が咲き乱れていたという。

    国内ではシカの食害を懸念し、侵入防止用の柵を設けている地区があるが、シカが存在する生態系からシカが完全にいない状態を作ると、場所によっては特定の種しか生えてこなくなり、均質な多様性の低い森になるという。「人間が自然を保護する方針を定めるうえで、生物多様性や生態系の成り立ちを正しく理解することは重要になってくる」と指摘する。

    小・中・高校とサッカー部で、長期の野外調査にはおもちゃのボールを持参。現地の子どもや研究者らと、キャッチボールなどをして仲を深める。所属する学会では、親睦を深めるフットサル大会「エコカップ」があり、ボールを共に蹴った縁で、共同研究に発展したことも。コロナ禍でフォトコンテストに変更しているため、再開を待ち望んでいる。先端研でもいろんな人と球技を通じて、交流したいと願う。「もしボールを蹴っている姿を見たら、ぜひ声をかけてください」

    (2023年 2月)

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