生き方に魅せられて

  • 「あまちゃん」を1週間で一気見するほど、ドラマにはまっている。三谷幸喜氏、宮藤官九郎氏、森下佳子氏の脚本が好き。お気に入りの作品は「新選組!」「おんな城主 直虎」。
     

  • 鍛治 一郎さん 池内研究室(グローバルセキュリティ・宗教分野)特任研究員

    かじ いちろう 東京都出身。2007年明治大学政治経済学部卒業。2009年大阪大学大学院法学研究科 博士前期課程修了。2021年3月同博士後期課程修了。博士(法学)。大阪大学COデザインセンター特任研究員を経て2021年4月より現職。

    小学生の頃は漫画シリーズの「日本の歴史全20巻」「ドラえもん」「ドラゴンボー ル」を順番に繰り返し読み込んでいたという鍛治一郎さん。「漫画の日本の歴史が頭に入っていたので、中学の歴史科目の内容は全て理解していると思い込むような生意気な中学生でした(笑)。高校の同級生に大学研究レベルの文献を読み込むほど、ローマ史に詳しい友人がいて、上には上がいると感じたものです」と語る。

    研究者になりたいと思ったきっかけは、国際政治学者である高坂正堯氏の著作『文明が衰亡するとき』と『宰相吉田茂』。『文明が衰亡するとき』では、ローマ帝国とベネチア共和国の衰亡が描かれている。高校生の当時、まだ学問的な幅の広さに触れたことがなかったため、一つの学説だけに依拠せず、その説の限界も考察し、別の学説も次々と仮説を立てて検証していく幅広い考え方や議論に感銘を受けた。

    日本外交について描かれた『宰相吉田茂』は研究者が執筆した本だが、ドラマや小説以外で心が震えるほど感動したのは初めてだった。激動の時代を生きた吉田首相の偉大さ、世界情勢はめまぐるしく変わっていったが、彼自身は変わらなかったという、その生き方に感激した。本や人との出会いが現在の研究に繋がっているという。

    「大学新卒の就職時期に研究者か出版・編集の道へ進むか迷いました。出版社では研究系の学芸書を担当できるとは限らないですし、自分には煌びやかなファッション誌の編集は絶対無理と思って(笑)」。

    大学院で研究を続ける道を模索する中で、大阪大学の坂元一哉名誉教授の論考「グアムを守る日米同盟」に出会い、「物と人を交換し合う関係ならば、お互いが同じものを提供し合えばよい」という発想の柔軟さに衝撃を受け、師事することになった。

    博士課程では、日米安保条約のさまざまな条項の成り立ち、特に条約の有効期限を表した第十条について研究を行った。期限の背景を深掘りし、裏に潜んでいる意図を読み解くことで、両国が日米同盟をどういう方向に持っていきたかったのかを考察する研究に打ち込んだ。両国が手探りで主張をぶつけ合った結果、最終的に1970年に条約を変えられない状態はなくなり、お互いの主張のバランスがとれた条約期限が出来上がったと博士論文の中で結論づけた。

    現在、鍛治さんはもう一歩踏み込んで、当時の日本の政治家やアメリカの政府高官たちが日米安保条約をどういうものにしたいと考えていたのか、重光葵外務大臣に焦点を当てて研究している。日米安保条約を改定したのは1960年の岸信介首相だが、その前の1955年当時、鳩山内閣の重光葵外務大臣が岸首相とは違う「相互防衛条約」という形式の安保改定案をアメリカに提案している。そのように考えた背景はどこにあるのか、提案の内容はもっと正確に読み解く必要があり、検証中である。

    将来は外交史の研究を続け、現在の日本の安全保障政策で考えるべきポイントなどへの示唆・提言の発信に貢献することが夢だという。自身の研究が戦後の外交史研究なだけに、今後の世界情勢の動向を注視している。

     

    (2023年 10月)

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