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第11回 政治行政システム 分野 牧原 出 教授

牧原 出 教授

政治の先端を考え続ける

〈先端〉とは、激動する現場の中にあるというのが、ここ十年ほど現実政治を見つめながら、過去と将来の政治を研究する中で痛切に感じとっていることだ。前任の東北大学時代に、2000年から2002 年まで、ロンドン大学に留学していた。2001年5月の総選挙で労働党政権が圧勝して二期目の政権を組織し、トニー・ブレア内閣は安定政権としてじっくりと施策に取り組むかに見えた。そこに起こった9.11。以後アメリカとの連携を確保しつつ、ブレア内閣は前のめりにアフガニスタンとイラクでの戦争に突き進む。グローバル化に適応しつつ、国内ではdemocratic renewalを進める改革政治から、冷徹な権力政治への転換であった。

こうした政治の変化を目の当たりにして日本に戻ると、いきなり小泉純一郎首相の平壌電撃訪問に出くわした。また小泉内閣の構造改革は、ブレア内閣の現実主義的な経済政策と似ており、官邸主導の政策決定もそうであった。 渡英前の自分の研究を振り返れば、太平洋戦争敗戦後に安定的な政官関係の構築に尽力した一群の大蔵官僚は「英米派」であった。激動の戦中戦後と激動の21世紀が重なるように思える瞬間に立った時、私は生起する出来事をできるかぎり政治学的に説明しようと考えるに至った。2004年の国立大学独法化と公共政策大学院の設立、「官邸主導」の戦後史の解明、自民党政権の崩壊と時評の執筆、そして東日本大震災。いずれもこれまでの日本の政治学研究そのままでは解明できない。そこでいくつかの工夫をこらす。 一つには、イギリス滞在中に貪欲に吸収したメディアの言説と政治学とを、帰国後もインターネットを通じてオンタイムで摂取し続けた。いわば帰国後も留学中だったのである。二つには、イギリスから帰国後に先端研の客員研究員、客員教授、特任教授として立ち会ったオーラル・ヒストリーであった。政治家にせよ官僚にせよ、目前に起こる現象を過去の経験との対比で説明する。記憶を語り出す時にも絶えず、今の政治があからさまに、また暗黙の内に引き合いに出される。その対比がどれほど「今」を考える際に役に立ったか、と改めて思う。

さて、昨年4月に先端研に転任してみて気付くのは、この駒場の秘境のような静かなキャンパスこそ、〈先端〉を見透すのに適していることだ。確かにフィールドは、日々刻々と変化する。だが、それに身を浸しているだけでは、何が語るに足る先端か、分からない。 一瞬時間が止まっているかのような静けさの中でこそ、何が先端かが見えてくる。そして、それぞれの先端を見つめている同僚たちとのちょっとした語らいが、感覚を研ぎ澄ませる。先端的な研究とは内容が斬新なだけではなく、常に〈今ここ〉から先端へ向けて、研究構想を研磨し続ける中で生まれるものだろう。

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といった著書・共著書もこうした環境の中で書き上げることができたのだ。

そこでふと考えるのは、自分が他の同僚の砥石にどうすればなれるのか? この問いもまた自分の先端を再考するきっかけとなる。かくして、この先端研では、先端を考え続けることで日々リフレッシュできる。そこにもまた〈先端〉があるのだろう。

(2014年5月)

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