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第36回 数理創発システム分野 柳澤 大地 准教授

柳澤 大地 准教授世界中で親しまれ続ける公式

2021年、現在京都工芸繊維大学で活躍されている村上先生(実験実施時は先端研在籍)、フェリシャーニ先生(先端研)、西山先生(長岡技術科学大学)、西成先生(先端研)らの群集実験の研究がイグ・ノーベル賞を受賞しました!本当に嬉しいニュースでした!

数理創発システム 西成研究室の渋滞学、特に群集運動は、JST 未来創造事業や前述のイグ・ノーベル賞に代表されるように、間違いなく先端を走っている分野ではないかと思います。僕自身も群集運動という分野の先端性のおかげで、博士号を取得し研究職に就くことができました。

当研究室の研究で表に出るのは応用的な内容、最近は特に群集運動が多いですが、分野名「数理創発システム」の名の通り、我々は数理モデルの研究にも力を入れています。数理モデルの研究というと非常に幅広いですが、僕は(それなりに)現実的なモデルを作り、近似的に解析して実用的な「公式」を導出する、ということをやっています。例えば、人の歩行時間を考慮した待ち時間の公式や、歩行速度のばらつきを考慮した人流の公式などです。

このように言葉にするとなかなかよい響きだなと自分でも思うのですが、実は研究分野的な立ち位置は微妙です。群集の問題を解決したいのなら無理に公式を導出する必要はありませんし、数理的・物理的な理論解析が目的なら近似ではなく厳密な解析がより好まれます。しかし、僕自身は重要な研究内容だと考えています。なぜなら、役に立つ公式が頭に入っていれば何もなしで答えを導けるからです。

コロナでいろいろなことができなくなりました。我々の場合は、イグ・ノーベル賞受賞にも繋がった群集実験が不可能になりました。コンピュータやネットワークの発展のおかげで、シミュレーションやゼミは大打撃を受けずに済みましたが、こういったモノはいつ使えなくなるか分かりません。特に大きな事件がなくても、故障やバッテリー切れということもあります。また、現場で人と話しているときに「今シミュレーションして考えるから 30 分待ってください」なんてことは言えません。このようなとき、頭の中の公式達が活躍します。例えば、人の流入が大きくなると、公式のこの部分が小さくなるから、最終的な待ち時間はこれくらいになるな、といった感じで、コンピュータがなくても、ある程度定量的な結論を導くことができます。

研究者ならではの特殊な事例と思われますでしょうか?実は皆さんも日々同じようなことはされているのではないかと思います。例えば、普段自転車で通っている場所に雨のため徒歩で行く場合、余計に時間がかかるため早めに家を出ると思います。これは小学校で学習する「距離=速さ×時間」という公式を特別意識せずに利用していると考えられます。自分の徒歩と自転車の速さを覚えている方は、本当にこの公式で所要時間を計算しているかもしれません。算数、数学、そして数理モデルの公式は、実はこのように日常生活にも密着し役立っています。

論文を出版するためだけに生み出された公式は、いつかは忘れ去られてしまうかもしれません。しかし、シンプルで美しく実用上重要な公式であれば、現場で利用され、専門書にまとめられ、いつかは教科書に掲載されて世界中の人の共通の知識となるのだと思います。渋滞学とも大いに関係がある待ち行列理論の公式達は60~110 年前に生まれ、現在その地位を確立しています。僕も先端的な群集運動の研究から、世界中で親しまれ続ける公式を作り出すことができればと思っています。

(2022年 3月)

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